№Ⅳ 最大の罰

 兵士長の上半身は花びらのように舞い、私の後方に落ちた。いくら魔人とはいえ、もう限界のようだ。顔から血の気は引いて行き、筋肉も萎んでいく。魔人ゆえか、息がまだあるのが不憫で仕方ない。



「……ころ……せ」



 殺せ。か。


 命乞いせず、素晴らしい死にざま。思えばコイツは私を犯したことはないし、そういった場にも居合わせていない。見たことが無い。もしかしたら、この城で唯一、騎士だったのかもしれない。


(可哀そうに……)


 私は虫の息の兵士長に歩み寄る。


「わが、みは――ていこく、のために」


「忠義、誠に見事。でもね、わたし……まぁた良い事思いついちゃった。ねぇ死神」


【なんだい?】


「他人の眷属に血を分け与えたらどうなるの?」


 びくん。と兵士長の体が跳ねる。


【ははは! なーるほど。ひでぇお姫様だ!】


 兵士長の顔色が傷とは別の要因で青くなっていく。


【眷属は基本、より多くの血を与えられた方に従う駒となる。〈眷性カリスマ〉も上書きだ】


「なるほど、ね」


「まて、まさか――! 貴様……!」


 清廉潔白、だからどうした。


「やめてくれ、やめてくれ!! それだけは……!」


 帝国は、私の王国を汚した民は、誰一人として許さない。守ろうとした国を攻める大罪を背負わせてやる。


「我が眷属となり、帝国を殺せ……」


 私は右手首を爪で掻き切り、血の滝を兵士長に御馳走する。


「うぐ、があああああああああああっっ!!?」


 兵士長の体は一度黒い煙に覆われ、髑髏のマークが浮かぶと同時に煙は消え去り、変貌を遂げた兵士長の姿が現れた。


 そうして出来上がった眷属第二号は腕の筋肉だけで移動を開始、すぐに己の下半身を拾いに行き、上半身とくっ付けた。


「我が身はあなたのために。シャーリー=フォン=グリム様」


「ええ。よろしく」


 私は今の戦いで傷ついた体を再生し、謁見室を目指す。

 用済みとなった眷属一号は四散させ、手駒となった大男と共に最上階を目指す。







「止まれ!」


「これより先は領主様の――」


 私はクイッと指で背後の男に指示する。


「兵士長」

「御意」


 背後から現れた兵士長が帝国兵を剣で打ち首にする。


「がはっ!? ――な、ぜ? へいしちょう、どのぉ……」


 同胞に討たれ、むせび泣きながら警護兵は息絶えた。


「可哀そうに。殺した方も、殺された方も報われない。まったく、世の中って非情なものね」


【おーおー、まったくよく言うぜ】


 私とリーパー、そして兵士長は謁見室の巨大な扉の前に立つ。


「これよりどう動きますか? グリム様」


「城を取り戻し、王都を奪還する。幽閉された王国兵たちを使って挙兵する。貴方は残った帝国兵を駆除、王国の人間を解放しなさい。私はここのボスをぶっ殺す」


「御意」


「眷属は貴方以外に居るの?」


「いません。が、契約者が一人、この王都の守りに居るとの情報があります。居場所は不明です」


 契約者、か。

 聖戦に参加する気は毛頭ないけど、邪魔をするなら蹴散らすのみ。


「見つけたら連絡なさい。私が駆除する」


「御意。では、失礼します」


 兵士長は来た道を戻る。

 さて、この先の謁見室さえ抑えれば、城は落ちたも同然。ここは最後の砦、ユーリシカに領主として置かれた人間が居るはずだ。


【――さぁてと、デザートの時間だな】


 私は扉に手をかけ、リーパーに言う。


「死神。間違ってるわ」


【ん?】


「デザートはフェルディア=ユーリシカ只一人。この先に居るのはただの前菜……いいえ、食前酒よ」 


 扉を開ける。

 広がる空間。シャンデリアに照らされた豪華絢爛の玉座の前に居るのは一人。



「…………。」



 包帯まみれの少年だった。

 暗黒を覗いているかのような瞳からは無数の殺気が放たれている。


「契約者ね」


 私は確信をもって言った。

 なぜ確信をもてたか。少年の様子が異常だったから? 違う。魔術の類を見たから? 違う。


――少年の背後で老婆が浮遊していたからだ。


【――よもや、初戦の相手がおぬしになるとはな。リーパー……】


【元気そうでなによりだ。婆さん】




 ――――――――――

【あとがき】

『面白い!』

『続きが気になる!』

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何卒、拙い作家ですがよろしくお願いします!

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