帝国の新たな刺客・サルガ




 


 空気が……重い。


 遺構の最奥、《時の間》と呼ばれる扉を超えた瞬間、アレンは思わず息を呑んだ。


 眼前に広がるのは、時を止めたような大空間。崩れかけた石碑と、古代文字が浮かぶ台座。そして――


 


 そこにいた。


 


 **漆黒の翼を背に、冷たい白銀の瞳をした“人型”の竜**。


 男とも女ともつかぬ中性的な姿。だが、周囲の空間が歪むほどの**存在の圧**が、その身から発されていた。


 


 「……あれが、“サルガ”……!」


 ジークが低く唸る。アリシアも背筋に汗をにじませながら構えを取った。


 


 だが、“それ”は、静かに口を開く。


 


 「アレン・ヴァルト。……そして、ジーク・アルバレスト」


 


 名を呼ばれた瞬間、アレンの背筋にぞくりとしたものが走る。


 


 「やはり、お前たちは“壁”になる存在だ。ならば、ここで削除する」


 


 その声は、冷たい金属のように無機質だった。


 だが次の瞬間。


 


 **ドンッ!**


 


 黒翼が広がった瞬間、地面が抉れ、台座ごと空間が爆ぜた。


 まるで時空そのものが悲鳴を上げる。


 


 「来るぞ!!」


 アレンが叫ぶのと同時、サルガの姿が──消えた。


 


 


◆◆◆


 


 「がっ……!? 速すぎ……ッ!」


 


 ジークが、刃で弾いたはずの拳に、吹き飛ばされて壁にめり込む。


 


 「ジーク!!」


 


 その隙を突くように、サルガの指先が闇のように伸び、アレンへと迫る。


 


 (見えない……!)


 


 だがその瞬間、アレンの“剣が反応”した。


 反射ではない。


 **あの一億回の“修行”の中で身体に刻み込まれた動きが、先に敵の軌道を読む。**


 


 「──斬る!!」


 


 鋭く、炎の一閃。《焔牙・一閃斬》!


 だが、サルガはそれを指一本で受け止めた。


 


 「興味深い。なるほど、君の力は“人間の域”を超えている」


 


 アレンは歯を食いしばる。


 


 (こいつ……本当に竜の力だけじゃない。“何か”がおかしい)


 


 そして、サルガが告げる。


 


 「私は、\*\*“帝国が望む理想の存在”\*\*として創られた。過去も未来も、己の意思すら不要な、完全なる兵器」


 


 その目が、アレンを刺す。


 


 「君は、“世界の修正力”を逸脱している。ゆえに、削除する」


 


 ――その言葉に、アレンの表情が凍りついた。


 


 「……なぜ、“それ”を知っている?」


 


 答えは返らない。


 サルガが再び黒翼を広げる。


 


 「理解せよ。これは《世界そのものとの戦い》だと──」


 


 


 ――そして、激突の第二幕が始まる。


 

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処刑された元勇者は、復讐よりも愛を知りたい──。 @ikkyu33

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