アレン 師弟修行編

繰り返す世界で、もう一度強くなる







――過去に戻ったアレン、ひとり誓いの鍛錬を始める


王都へと旅立ったミナを見送ったあの日から、アレンは一人、森の奥に姿を消した。


「もう、間違えたくない……」


そうつぶやいたのは、誰にも聞かれない朝の霧の中だった。


\*\*


この世界で二度目の人生。

かつて、仲間だと信じた者に裏切られ、背中を刺された自分。

死に際に見た、あの仲間の冷たい目が、何よりも苦しかった。


だが目覚めれば、彼は15歳の少年の姿になっていた。


村にいた頃の自分――剣もまだ持たず、未来も見えなかったあの頃。

けれど今は違う。あの日々を「やり直す」ための、もう一度の命だ。


その意味を、誰よりも強く自覚していた。


だからこそ、アレンは焦っていた。

ミナが“選ばれた者”であるなら、自分は“選ばれなかった者”。


過去の自分が、手を伸ばしても届かなかったもの。

守りたくても、守れなかった大切な人たち。

――それらを、今度こそ手繰り寄せるために。


\*\*


アレンの鍛錬は、静かに、しかし確かに始まった。


朝はまだ暗いうちに村を出て、人気のない森の奥へ。

細い木の枝を束ねて作った即席の木刀を握り、ひたすらに素振りを重ねる。


「振り抜き……足運び……呼吸……全部、もう一度叩き直す」


口に出して確認しながら、自分の動きを修正していく。


“今の体”はまだ未熟だ。

筋力も、瞬発力も、過去の自分には到底及ばない。

だが、心に宿る経験だけは誰にも負けなかった。


\*\*


「前世の俺は、力に溺れていた……だから、最期はあんなことに」


心を律すること。

力を誇るのではなく、誰かを守るために使うこと。


その本質を、アレンは“死”によって学んだ。


だから今、鍛えるのは技術だけではない。

迷いを断ち切る“心の剣”こそが、アレンの武器になる。


「次にミナと会うとき、俺は――」


その先の言葉は、喉に詰まった。


言葉にすれば、胸が痛むから。

ただ黙って剣を振った。彼女の笑顔を思い出しながら。


\*\*


森の風が、夏の終わりを告げるように冷たくなる。


ひと振り、またひと振り。

木刀が空を斬るたび、迷いが一つずつ削られていく。


額から流れる汗が、少しだけ心地よく感じられた。


たとえ世界に認められなくてもいい。

たとえ“剣聖”になれなくてもいい。


――それでも。


「今度は俺が、守る」


そう静かに誓ったそのとき、雲間から差した光が、彼の姿を照らしていた。


過去を乗り越え、未来を変えるために。

少年の姿をした“元英雄”の物語が、今ここから本当に始まる。

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