第29話 真の竜撃
「
リュートはクロコの言葉に疑問を呈する。
『考えてもみてください。本物の
「だからもう一度投与する、と」
『ええ。掛け算はできますか?』クロコは至って真面目なトーンで『なんと! 〈ミュータント因子〉の量を2倍にすれば〈
んなアホな。思わずリュートはツッコむ。
『失礼な、本気ですよ。では立方体の一辺の長さが2倍になったら体積は何倍ですか?』
「8倍」
『でしょう。ほら、ね?』
クロコが前脚で器用に肩をすくめるようなジェスチャーをした。やれやれこれだから、といった顔をしている。表情を表示する機能はないが、全身のポーズが「やれやれ」と言っている。
なにが「ね?」なのかは全く分からないリュートだったが、どうやら投与の量を倍にすれば出力は8倍になるらしい。
『納得してない顔ですね……じゃあなんですか、細かい話をしますか? ここから先は聞き流していただいて構いませんが──』とクロコは前置きをして『──二秒後に死ぬっていうときに、〈
と早口で一気に言われた。
「ごめん。途中からなんも聞き取れなかった」
今は流していいや、リュートはそう判断した。
「……けど、だとしたら、なんで最初からそうしないんだよ」
『リュートの肉体がまだ
「なるほど、分からんが分かった」
リュートはうんうんと頷く。クロコが呆れたようなため息をつく。
『つまり、徐々に投与量を増やさないといけないってことです。そして今ならそれが可能ということです』
「あー、完全に解った。理解しました、なるほど。つまり今の俺なら
なるほど、恐ろしくマヌケで恐ろしく頼りになる式だとリュートは思った。納得ではない。やけくそである。どのみちなにもしなければ死ぬのだから。
そう。リュートは自棄も自棄だった。なぜなら
(ゲームだと出てきてないんだよなあ、
『
(……けど、これなら納得がいく。
考えても答えは出ない。
なので、リュートは諦めた。
「ま、いいや。そいつをやれば〈
『先ほど補充したばかりですから、しばらくガス欠になることも無いでしょう。思う存分、暴れてください』
「まずは脱出だろ? このままじゃ二秒後には圧死って言ってたし」
『そうですね。まずは翼を生やせなければそこで詰み、ゲームオーバーです』
では、とクロコはリュートの顔面へと降りてきて、マスクの形を取った。
『──
クロコの声で投与が開始される。
リュートは全身が沸騰を始めるのを感じていた。
「第二ラウンドだ、
リュートの意識が加速領域から現実へと引き戻される。視界を構成する光の粒子が粘度を持って水飴のように動く。景色がぐにゃりぐにゃりと歪んでいく。そうして、世界はあるべき形へと戻っていき、意識の時計の針と現実の時計の針が同じ速度で回り始めた。
二秒後にはミンチとなる。それを回避すべくリュートは体勢を整え、背中に意識を集中する。
(ある! 翼が! 生えてきている!)
吹き飛ばされて宙を舞う体が地面に落下するまで、残り二秒。そのわずかな時間で、リュートの背に翼が構築されていく。
残り1.31秒。翼の骨格が〈
残り0.87秒。構築された骨格に皮膜が張られていく。
残り0.35秒。翼の構築が完了。
落下して死を待つだけだったハズのリュートの体に生命力が宿っていく。
『とにかく上へ! 下では潰されます!』
言われる間もなくリュートは一瞬で加速。落下しかけた体勢のまま地面スレスレを飛翔していると、つま先が大地を擦って砂漠に細い曲線を描いていく。だが、それも一瞬のこと。
体勢を立て直したリュートは空へ向かってぐんと急角度で上昇する。
(落下からの圧死は回避! とりあえず時間を稼いで、それから──……)
などと考えるのは悠長にもほどがあった。
「ッ!? 早いッ」
(やばい、このままじゃ喰われて──)
リュートは振り返り。
「──なんてな」
ニヤリと笑う。
体を反らしながら、肺いっぱいに空気を吸い込んだ。
その動きは
体内の〈
(歯ァ食いしばれよ、クイーン)
口を開くと同時、マスクフォルムのクロコのボディは口の開閉に合わせてパカリと開かれる。
リュートは、体を平仮名の「く」の字に折り曲げて勢いよく、真下の
噴火の如き勢いで〈
殴打に乗せて撃ちだしていた〈
〈
のちにクロコがそう名付ける一撃は
「Booooooooooooooooooooo!」
女王は苦痛に悶えた。
その悲鳴はもはや暴力だった。トンネルの如き大口から一斉に吐き出される呼気と爆音は、暴風と音波攻撃となってリュートを襲う。飛翔していたリュートはもろに叫声の直撃を食らい、空中で姿勢を崩す。
(くそっ、ただ叫んだだけでこの威力かよ、バケモンが……!)
それでも〈
(向きが悪かったな、女王様。地上だと仲間に当たるのが怖くて〈
そうして、鉄すら融かす〈
ぐらり、と女王の体が力を失って。
「おやすみ、クイーン」
摩天楼の如き肉塊が砂漠に崩れ落ちた。大地が震撼する。衝撃は砂を吹き飛ばす風となって周囲を黄土色に染め上げる。
リュートはそれらの砂煙を払って地面に降り立った。ルプスもトラックも無事だ。ただ、少しばかり
目を丸くするジトラへのほうへ一歩、前に出て。
「あの程度のパンチしか撃てないやつが──……なんだっけ」
ジトラが悔しげに「うぐーっ……」と
◆ Tips ◆
〈ミュータント因子〉を再度投与し、
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