第27話 ルプスの全力
リュートは足を止めて肩で息をする。
「アァっ! くそっ、マジで疲れる……!」
敵の包囲網をかき乱すようにして環状に走り回る作戦はうまいこと成功していた。小型のミュータントは蹴散らし、
ここまでは思い描いていた最高の状況。
ひとつ誤算があるとすれば、己のスタミナ管理だ。通常ならば何分でも走り続けられる。しかし〈
『燃料切れですね』
「ねん、りょう……」
言い終わらないうちに咳き込んでしまい、言葉が紡げない。肩で息をする。両膝に手をおいて、倒れそうになる体を腕だけで支える。
(
『リュートは目覚めてからまだ一度も〈
クロコが気を利かせて尋ねてくる。
『〈
それは
燃費が良いのが不幸中の幸いといったところで、注入する量も数ミリリットルほどで済む。
リュートはぜえぜえと息を吐きながらうなずく。
「た……のむ……」
『了解、いま準備を──……』
言いかけたクロコの言葉を遮るように影が落ちてくる。見上げれば
潰される、と思うよりも先に「トラックを守らなきゃ」という意識が働く。荷台の中のコンテナに〈
だが
「──あ」
死ぬ。
そう思った瞬間。
「
ルプスの声がして、顔を向ける。彼女は手甲を身に着けて、トラックを護る
その左手には手甲がついていた。ルプスの細腕に似合わないほどがっしりとした手甲。リュートはその兵装に覚えがある。
実際に見たわけではない。知識だけでしか知らない。だが、存在は知っていた。ゲーム本編では序盤にて
ルプスが叫ぶ。
「──【
ルプスが手甲を天に掲げる。蒼い光を放って手甲の表面が剥がれていく。手甲が壊れた──わけではない。
手甲と結合していたユニットが分離したのだ。ユニットは自律駆動によってルプスの周辺を遊星のように飛び回る。蒼い光が尾を引いて軌跡を描く。
綺麗だ。
リュートは戦場のど真ん中にいて、場違いな言葉を呟いてしまう。
手甲から分離したユニットは二種類あった。剣の鍔の形をしたユニットが二対──合計四つと、コロコロとした円柱状のユニットが十二個。
ルプスは
「
主の言葉に従って、砂に命が吹きこまれ、姿を見せるは狼の群れ。一頭二頭とたちまち増えて、その数およそ二十四。これではいつもと同じだが、しかしここから流れが変わる。
ルプスが小さく呟く。
「行って」
指令を受け、ユニットたちが空を駆けていく。目指すは倒れ込んで襲い来ようとする
ルプスはさらなる指示を告げる。
「
それを引き金に、自律ユニットと砂の狼たちは混ざりあうように溶けあうように、渾然一体となっていく。ユニットたちは砂の中にすっかり埋もれてしまった。地面からは次々に
〈
やがて大量の砂は生命としての形を吹きこまれていく。
二階建ての一軒家ほどもある体躯。
「喰らえッ!」
ルプスの声に応じて、巨大な狼は牙を剥く。大剣ほどもある犬歯だ。それが光っている。光る牙だった。それが
「痛いでしょ、プラズマソードの牙は」
熱されたナイフでバターを切り分けるみたいに、
これが
「クロコ、リュートは平気!?」
『〈
「ようえき?」
ルプスは「〈
クロコはそれを汲み取り、言い換える。
『リュートの回復まで30秒ほどかと』
「おっけー。じゃあ、今度はあたしの番だね。時間稼ぎするよ」
リュートはうなずく。
が、時間稼ぎ? とは思った。無論、歯が立たないという意味ではなく、むしろ逆で。
「ちゃっちゃと倒そうか。あたしいま、ちょーっぴり怒ってんだ」
ルプスの目が据わっている。
(やば、ブチギレてる……こんなに殺意まみれのルプスは見たことないな)
それもそのはず。いまはカクトス村の安全がかかった重要な局面、そのうえサシャへと〈
小気味よく首が落ちていく。ぼとぼとり、ぼとり、ぼとりと。
電車ほどもある
同じ映像の繰り返しのように、群れを成す
明暗を分けているのは判断力の差。
砂漠において絶対強者である
ゆえに
対する
「……すげえ」
息が整ってきたリュートはぼそりと呟いた。
自分の使う〈
(能力ってのは強い弱いなんて単純なものじゃなくて……それぞれ適した発揮のされ方があるんだな)
リュートは己とは違うタイプの力を
「リュート、どう? そろそろ動けそう?」
「ああ」
「そっか。あたしのほうは……そろそろキツイかも」
ルプスの息が荒い。その症状はたったいまリュートが陥っていたのと同じで、短時間で大量の〈
「〈
新人類であるルプスは〈
そして血が足りないと貧血でふらつくように、体内の〈
「クロコ、〈
『私の持つ溶液はルプスさんには投与できませんよ。
「……そうなの?」
『そうです。たしかにルプスさんもガス欠を起こしているようですが……そうですね、たとえばリュートは私がバッテリー切れになったときに串焼きの肉を食べさせようと思いますか?』
思わないな。肩をすくめて首を横に振る。
『それと同じです』
「なるほど……じゃあルプス、ここからは俺が引き受けるよ」
といっても
「ルプスは万が一に備えて温存しておいて」
「うん……じゃあ、任せる……よ」
ルプスは手甲【
ユニットは手甲の外面に収まると、眠るようにして蒼い光を失っていく。
ルプスは膝をついて息を整え始めた。
戦果は上々。時間稼ぎにしては充分すぎると言って間違いなかった。
「ありがとなルプス。あとは俺がなんとかする」
リュートは、衣服もぼろぼろな姿でミュータントたちへと向き直る。残党を仕留めて〈
だが。
「え~っ、どーしてこんなにやられちゃってるの~!?」
アホっぽい幼い声がした。少女の声。
声がしたほうにリュートたちの視線は一瞬で吸い寄せられる。この場に自分たちの他に誰かがいるとは思いもしなかった。だが居た。
というより、現れたところだった。
砂漠のど真ん中にひし形の裂け目。向こう側が真っ黒な虚空にみえる、不思議な亀裂。
風景画を描いたキャンバスに刃物で十字の切れ込みを入れてぱっくりと開いたように、空間が割れていた。裂け目はバヂバヂと音を立てて形を保っている。
その虚空の奥より、小さな影が歩いてくる。
「誰だ!」
「え~、あんたこそ誰なのよ。ぼろぼろマスクマン」
裂け目から現れたのは生意気そうな
〈
ジトラだった。
「ちょっとあんたたち!」
鋭い声でジトラが刺してくる。
「これ以上ウチの邪魔するってゆーなら、潰しちゃうんだからね!」
衝突は避けられない。
リュートは拳を握り締めた。
◆ Tips ◆
【
ルプスの
二種類のユニットで〈
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