第19話 いざ中継基地へ
「それで、中継基地だっけ? どのくらいで着くんだ?」
リュートは運転席から尋ねる。ハンドルを握らずとも、トラックは砂煙をあげながら砂漠を真っ直ぐ、猛スピードで進んでいく。ひとえに優秀なサポートAIのおかげだ。
助手席に座るルプスが答えた。
「早くて半日。遠回りをするともっとかな。今回はそんな暇ないから最短ルートでお願いね、クロコ」
『おまかせください。世界一スマートな女がナビゲートいたします』
そういうわけで、二人と一機は砂漠をトラックでかっ飛ばしていた。
「それでさ、ルプス。薬は本当に中継基地にあるのか? 俺の聞き間違いじゃなきゃ『行けば分かる』って言ったような気がするんだけど」
「あるはず。中継基地には常備する決まりになっているからね。……運悪く使われてなければ」
ルプスは焦っているようで、不安そうに髪の毛を指先でくるくると巻いている。
「使われてなければって……誰かが使うかもしれないってこと?」
「その通りだよ。無人中継基地は
「えっ。でも〈
「そういう協定なんだ」
「協定?」
聞いたことのある単語にリュートが反応した。ルプスはそれを質問だと判断して解説をはじめる。
「クラン連合……つまり正規クランの集まりだね、そこで決まってるんだ。いくつかの拠点はどのクランの
「ああ、そうか、なるほど」
返事をしながら、なんだか厄介そうな話になってきたぞ、とリュートは覚悟する。
(つまりこれは──俺の知る『協定』とはだいぶ違うってことだな!)
リュートの知る『協定』。それはガチャのこと。
そう、『
なぜか? 理由は簡単。
様々な陣営のキャラクターたちが
もし『協定』が存在しないとしたらどうなるか?
会社で考えれば分かりやすい。会社Aのオフィスに、理由もなく会社Bの社員が出勤したらどうだろうか? 意味不明だ。下手すれば警察沙汰。それと同じ。
『協定』という理由付けが無ければ、多種多様な陣営のキャラクターたちを主人公のそばに置けない。つまりガチャに登場させられない。
運営としてそれは困る──……ということで「クラン間では協定を結び、人材の交流を行う」という設定がある。
裏を返せば、設定のおかげで色んな陣営の魅力的なキャラが実装されたのだ。
(そうやって勢力が増えていってどんどん世界が広がっていくところが楽しかったんだけど……リアルな『協定』のほうはだいぶフクザツっぽいな? だって……)
「〈
「ゼロとは言えないね。ただ、それでもクラン連合は協力することを選んだ。それだけこの世界は問題に満ちているってことさ」
「む……」
「考えてもみてよ。命からがら砂漠を渡ってきた
リュートは首を横に振った。
「だよね。そもそも、そういった人たちを助けたいっていうのが
「なるほどな。教えてくれてありがとう、ルプス」
(どうやらこっちの世界の『協定』は人材の交流だけじゃなくて、資源や設備の共有も含んでるらしいな……憶えておこう)
「ま、そーゆーわけで中継基地に常備されてる救急医療キットのなかには〈
「行ってみるまで分からんってことか?」
うん、とルプスは頷く。
「報告の義務はあるよ。通信機もあるし。でもこの〈ネオ〉の大地は何があるか分からない。抑制剤を打って一命をとりとめた患者が一人で行動しててまだ寝込んでたら、通信は飛んでこない。それもこれも含めて行ってみるまで分からない、だね」
「……歯がゆいな」
(人の命がかかってるってのに……着いてみるまで分からんってのは心臓に悪すぎるな)
奥歯を噛みしめていると、ルプスが「ねえ」と柔らかい声をかけてきた。
「リュート、いま緊張してる?」
「そりゃ、まあ」
「初任務だもんね。それもそうか」
言われて気付く。
まさかそれが人命のかかった、それも、幼い娘のいる母親の命のかかった任務になろうとは思いもしなかった。
「……気合い入れないとな」
「そうだね。そろそろやって来るころだろうし」
「へ?」
なにが、とリュートが尋ねようと思うと同時、ルプスが「よいしょ」と身を起こして助手席のドアを開けた。
風がぶわりと吹き込んでくる。砂に関してはルプスが除けてくれているからいいものの、危ないことに変わりはない。
「ちょっ、どうしたルプス!?」
「クロコには最短ルートで飛ばしてもらってるんだ。つまり……今回はミュータントとの交戦は避けられないってこと。ほら」
ルプスが前方を指差す。
『正面に敵──十三匹の小型ミュータントです』
まぶしい朝日に目を細めながら見ると点々と影が連なっている。
そのすべてが灰色の体毛と角を持つ、『
「オイうそだろ……幸先悪すぎだって!」
「言ったってしょうがないさ。クロコ! 運転は任せるよ!」
『了解しました。ルプスさんは?』
「ちょっと屋根を借りるね」
言葉だけを残してルプスはひょいとトラックの屋根に飛び乗った。片足でドアを器用に閉めると、ゴウゴウと風が吹きつけて髪が暴れる。ただの人間であれば真っ直ぐ立つのすら困難な不安定な足場。だが、
「さーて、いくよ。みんな」
ルプスは腰から
地平線から顔をのぞかせる陽光のなか、ルプスの影が伸びる。
「
ルプスが
砂の狼がのそりのそりと立ち上がり、群れを成す。その数、十三頭。相対する
「みんな、蹴散らして!」
号令を受けて
一匹ずつはさほど脅威ではない。だが十を超える群れとなった
玉砕覚悟でこちらの機動力を削ごうというのだろう。しかし。
「させないよ──
ルプスは
と、ルプスはハッとして正面に向き直った。
「……本隊のお出ましってワケだね」
睨みつけた先には数十頭の
本隊は左右二手に分かれて迫ってくる。気合を入れるのはここからだ。
「ああもう、先鋒がやられたならあきらめて帰ってよね!」
「ルプス! 俺も戦う!」
声のする方を向くと、リュートが運転席から身を乗り出して、よじよじと危なっかしい動きでトラックの屋根に登ってきたところだ。頭にはクロコがちょこんと乗っている。
「えっ、運転は!?」
『遠隔操縦です。優秀なAIはマルチタスクにも対応してますので』
「ああ、そういえばそっか……」
「ルプス。俺が
リュートが口を開くも、クロコが前脚をぐさりと刺す。
「うぎゃ! なにすんだクロコ!」
『〈
「んぐ……」
「リュート、平気だよ。あたしだって伊達に
「いや、ダメだルプス」
リュートはキッパリと断る。
「万が一を考えたらルプス一人でも中継基地に行って、〈
ルプスは目を見開く。
「リュート、キミは……最悪の事態まで考えていたんだね」
『なるほど。でしたら私に考えがあります』
クロコがリュートの頭上で挙手をした。
『保有する〈ミュータント因子〉三つの内、一つは
言いながらクロコはケーブルをうねうねと取り出す。リュートは緊張の面持ちで尋ねる。
「ちなみにどのミュータント?」
『
なるほど。それならトラックの屋根からでもあの
「よし、じゃあ
◆ Tips ◆
『
〈
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