旅人くん

「こんにちは。お父さんお母さんは?」


「いないよ」


「一人で来たの?」


「うん」


「迷子かな?」


「迷子じゃない」


「じゃあ、お名前は?」


「たびびと」


「たびびとくん?」


「旅をする人って書くの」


「あっ、もしかして、たびとくんかな?」


「ううん。たびびとだよ」


「そっか。たびびとくん⋯⋯旅人くんは、何歳?」


「六歳」


「小学一年生?」


「学校には行ってない」


「お休みしてるのかな?」


「行ったことないよ。だって僕は⋯⋯旅人だから」


「旅をしているの?」


「そうだよ。旅をするために生まれてきたんだ」


「本当に一人で?」


「うん」


「どこに向かっているの?」


「僕にも分からない」


「ここには、どうして?」


「遊園地を見つければ、必ず寄るんだ。でも、お金がないから入るだけ。乗り物には乗れない」


「寂しくない?」


「寂しいよ。僕は他の人と違って、ここで何かを得ることも、何かを癒すことも、何かを失うこともできないないから。寂しさを感じながら誰かを恋しく思う。ただ、それだけ」


「じゃあどうして、わざわざ寄るの?」


「たまには、寂しくなりたい。僕にとって、旅をすることは当たり前だから寂しくない。でも、遊園地っていう寄り道だけは、寂しさを感じられる。ここにいる人たちが教えてくれるんだ。幸せそうな笑顔とか笑い声が、僕が独りぼっちの旅人だということを教えてくれる⋯⋯教えてくれるから、寂しくなる。旅人には、寂しさが必要なんだ」


「まだ六歳なのに。大人みたいなこと言って」


「同じ場所にとどまらないっていう意味では、長い六年だよ」


「旅人くん。私、ここで働いているの。だから、旅人くんを好きな乗り物に乗せてあげるよ。お金はいらない。何に乗ってみたい?」


「もしも僕がここで甘えてしまったら、旅人という僕の名前は消えて、僕自身も消えちゃうかもしれない」


「そんな⋯⋯」


「話しかけてくれてありがとう。楽しかったよ。でも、話したらもっと、寂しくなっちゃった」


「⋯⋯旅人くん、本当に行かないとダメ?」


「うん、行かなくちゃ」


「私、寂しいよ。それに、旅人くんのことがとても心配。ここは、寂しさを感じるために来る場所じゃないから」


「でもね、どうしても行かなくちゃ。寂しくても、行かなくちゃならないんだ。だって僕は、旅人だから⋯⋯」

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