第9話 柑橘系の男
パチン!
指に痛みが走る。伝票をまとめようとして二重にした輪ゴムが切れた。すぐに替わりの輪ゴムを箱から取り出す。引っ張って捻る。だが、痛みの記憶が生々しすぎるせいで、一連の動作に勢いがつかず、それでかえって、また輪ゴムを切ってしまう。
輪ゴムは切れる。そして風船は割れる。僕が触れると、使い古しはもちろん、新品であってもすぐ切れる。粗塩をぶちまけ、漬物の汁は垂れ、ポスターは破れ、子供は泣き喚く。販売促進の現場には、輪ゴムや風船が多い。僕はそういった作業に呼び出され、そのたびに指や唇を痛めて、作業を遅らせてしまう。
「柑橘系の果汁って、ゴムを溶かすらしいよ」
と、彼女が枕元をごそごそさせながら言った。
「じゃ、僕のこの汗の香りを嗅いでみろってんだよ」
僕は仰向けに寝転がっていて、彼女の気軽さに本気で腹を立てながら、自分で触れるのは怖いゴム製品の取り扱いを、全面的に、彼女に委ねている。
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