閑話 side一国の女王。対ベッロ・オッディオ

ルンデバルト王国の夕方は世界で有名な美しい景色がある。特に王都バルトの城壁の外にあるお花畑は圧巻であった。


しかしその日だけは王都の住人は誰一人としてお花畑に行く余裕がなかったのだ。


「陛下、もうじきです」


「わかった、あの書はヴァルバカデン王国に渡ったか?」


王宮の窓の外を見ながらルンデバルト王国第二四代女王ルンデバルト・エーリカは報告しにきた家臣に問うた。彼女の瞳には全力で殺すという覚悟が決まっていた。


「はい、すでに届いております」


「なら良かった、では向かうとするか」


「はっ」


~~~~~~

~~~


ルンデバルト王国は天敬書を隠し持っていた。更新がきた時、上層部は一人を除いて絶望した。セレーノ教は我が国を滅ぼしに来ると。逃亡を考える者や死ぬしかないと叫ぶ者など阿鼻叫喚と化した会議にて私は闘うと言った人物がいた。エーリカだった。


「逃亡したい者は構わんが我が国が置かれている状況を他国に伝え、また億が一、滅ぶことがあれば滅んだあとの再建を任す。死ぬたいものは国が滅ぶその時が来るまでは生きろ、闘え!!」


そう言い放ち、すぐに行動を開始した。

残されている時間は少ない。それでも我が国を守らなければならない。

まず王都の住民にセレーノ教が攻め込んでくることを伝えた。大半の民は信じ、臨戦

態勢を取り始めた。その次に彼女は娘のところに向かった。


「ルイーベ」


「なんでしょうか、お母様?」


「この国から、逃げなさい」


「......私だって闘えますわ」


ルイーベはわかっていた。一人娘であり、ルンデバルト王家を途絶えさせないために逃亡させられることを。


「わかっているだろう、ルイーベ。私は女王としていかなる想定に対策をとらなければならない。ルイーベ、君には一人で逃げてもらう。家臣についていくな、君を利用するだろう」


エーリカは諭すようにして話していく。女王として国を率いる者として定めをしなければならない。


「お母様......私は次期女王ですわ、だから逃げては恥です」


ルイーベは離れたくないのだ。つい一か月前になった一六歳の子、成人したとはいえ国の存亡を迎えるにしてはあまりにも早すぎたのだ。


「ルイーベ、逃げなさい。グランテノールもしくはその周辺国に。そこまでたどり着いたら自由にしていいから。あなたが死ぬのは私が死ぬよりもつらい」


エーリカはぎゅっと抱きしめる。愛しい我が子を死なせたくない親心なのだ。滅亡させずルンデバルト王国が残れば、向かいにいけばいい。でも滅亡したらルンデバルト王国の悲劇を託すしかない。


「わかりましたわ、お母様、一時期的に避難します」


娘は覚悟を決めた。再会できると信じて。


「ええ」


離すと娘はすぐに準備をして裏口から出て行った。その姿を見送り、相手について考える。

セレーノ教嫌悪担当ベッロ・オッディオ。詳細な姿は不明、出会った者を全員殺してきたため、姿を伝えることができなかった。わかっていることは殺し方であり、二種類ある。一つ目は槍を使い、貫く。特に供物の場とよばれる残酷な光景がある、股から頭を貫いた通称串刺しを行い、いくつもの死体の姿が見せしめのようにされていることである。二つ目ははりつけであり、よく知られているのは壁に縛り付け、両脇の下からクロスさせるように槍を刺されるというもの。


はっきりいって、相手に効く攻撃がわからない。殺され方はわかっても、他の情報はない。だからといって諦めていいわけがない。普通、人なら頭と体にわけたら死ぬ。これを基本として殺しに行けばいい。


士気はある。みんな天敬書に書かれていることがすべてその通りにならないということを知っているのだ。



~~~~~

~~~~~~


王宮で一番高い場所、屋根の上にエーリカは移動する。透視魔法を使い、城壁の外からやってくる人たちを監視する。王都の住民には伝えたが、他はそうではない。だから関係のない観光客たちはお花畑を見終わったあと、王都にやってくる。


セレーノ教幹部は感覚的にわかりやすいという経験をしている。勇気担当アウローラ・クオレや幸福担当ユーフォリア・フェリーチェの時もそうだった。だから今回もわかるだろうと決めつけていた。


「ん?」


「どうしましたか?陛下」


「なんでもない」


近くにいる家臣にきっぱりと返す。

おかしい、城壁の外にいる全員を見てもセレーノ教だと判明できる者がいない。セレーノ教以外で気になるのは、高貴な貴族令嬢の雰囲気を纏った黒髪な方の右ひじあたりが血だらけであること。そこだけ血がついており、違和感を覚える。一度右ひじから先を切断して、また再生しないと説明つかない感じではある。

気になって見ているとふとその方の紅色の瞳と目が合う。明らかに不機嫌そうにしていた。


「危ない!」


家臣が私の目の前に防御魔法を展開する。槍が私のことを貫く勢いで迫っていた。防御魔法は破壊されてしまうも、その一瞬の猶予は私が避けるには十分な時間だった。


間違いない!やつがベッロ・オッディオ!

私は確信して、ベッロの行動に警戒する。


ベッロは軽々と城壁を飛び越えると次の瞬間、地獄と化した。


「く、供物の場」


家臣が恐れるように呟いた。その間にベッロは城壁の中に静かに着地する。

しかし見渡す限り、民は串刺しの状態になっていた。股から頭が槍で貫通している。


あぁ、ここまで無力なのか。串刺しされるシステムがわからない。あまりにも一瞬すぎた。でも、まだ、チャンスはある。


「やあぁぁあああああ!!!」


私は空歩魔法を使い、急速にベッロに迫り、長剣で切りかかる。

ベッロの前に宙を飛んでいる槍に簡単に防がれる。


それと同時に足元から違和感を感じ、空中を舞う。地面から槍が飛び出て来たが当たらなかった。


串刺しは地面から出てくる槍、なら空中で戦えばその心配はなくなる!


そう考えていた。


「え?」


唖然とした。空中で様子を見ていた家臣が串刺される。呆気なく落ちていく姿を見る。


「ルルナ!!!」


思わず叫んでしまう。嘘だと言ってほしい、悪夢だって言ってほしい。

吐きそうだ。でもベッロを殺せばなんとかなる。


「あぁぁぁぁぁぁぁあああああ!!!!」


叫びながら襲い掛かる。防がれて何度も攻撃を繰り返す。


殺す。


無意識に魔法を発動していく。色々な攻撃魔法がベッロを襲う。

周囲を気にしない、環境を破壊していくことなんて今はどうでもいい!!


「『雪山崩れ』!!」


私が勝敗を決める大技を放つ。

ベッロの付近一帯に雪崩がきて、積もり雪山になる。

まだ生きているはずだ。私はベッロが雪山から出てくる瞬間を待っていた。

だから背後から槍がきていることなんて気付きもしなかった。


「え?」


脇腹が指されて瞬間、疑問が浮かんだ。どうして刺せるのか。

ベッロは雪山に押しつぶされているはず、なのに槍をどうやって?


地面に落ちていく。刺されて気付いた。

この槍、魔力を吸ってくる!!


出来る限り、衝撃を抑えるが、体を打ち付けたので全身が痛い。ボロボロになりながらも立ち上がる。


「ぐぇえ」


反応できず蹴られた体は家の壁に叩きつけられる。

なんとか片目を開けるとベッロは無傷であり、なんともないかのように倒れている私の方へと近づいてくる。

そして私の頭を掴み、王宮に跳んでいく。


王宮の正面の外壁に縛り付けられる。一番目立つ場所だった。


「んああぁぁああああああ!!!」


絶叫する。手足が槍が刺さり、外壁に貼り付けられる。

嫌だ、いやだ、嫌だ、死にたくない。


私はみっともなく号泣する。

痛いのはどうでもいい、生きたい!!


どこからともなく氷の矢が飛んで、ベッロの体を貫く。誰がしたのか見るとちだらけになって、明らかに体の一部欠如してルルナであった。


「ちっ」


ベッロは舌打ちしたその時、彼女の首が飛ぶ。そしてベッロは無傷になっていた。


「あ」


本能的にわかった、勝てない。漏らしてしまう。

嫌だ嫌だ死にたくない。


「ぐぁあああああ!!」


両脇の下から槍がクロスしながら体内に入って、貫く。

痛い!!痛い!!気持ち悪い!!!様々な気持ちが混ざっていく。


カシャ


聞きなれない音が聞こえる。視界が狭く、ぼやけているが音の方を見るとベッロが何かを手に持って私の方を構えていた。


「これで見せれる、でも......こんな私が彼に見せても......そもそも私は彼に対して何も思っていない...気持ち悪い気持ち悪い!あぁああああ!!」


ベッロは叫ぶ、エーリカのことなぞ眼中に入っていない。


エーリカはベッロのだんだんと嫌悪に満ちた独り会話を聞きながら、意識が薄れていく。


あぁ、私死ぬんだ。

ルイーベ幸せになってください。


そう直接言えなかった言葉を心の中で遺言として何度も言った。




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