異国の地から召喚されて以来、勇者ヌアインが挑む初めての大規模な任務は、連合国の北端、寒風吹きすさぶ荒涼とした地での防衛だった。魔物の襲撃は日増しに激しさを増し、その地には国の強大な戦力が結集していた。

冬の終わりを告げる冷たい風が肌を刺すように吹きつける。だが、ヌアインの歩みは揺るがない。彼の横顔は、遠く遥かな過去を思わせるような静謐さを湛えながらも、どこか微動だにしない決意で満ちていた。その冷気すら、かつて魔王として君臨したあの世界での凍てつく戦場の寒さに比べれば些細なものに過ぎない。

城門の前、見送りに来たエリシア王女は優しい微笑みを浮かべながら、そっと声をかける。

「ヌアイン様、北の地は厳しい環境です。どうかご無事で。」

静かに頷くヌアインは、わずかに微笑み返した。その背に、彼が背負う使命の重さが静かに漂う。

冷たい風が周囲を吹き抜ける中、ただ一人、北へと進むその姿は、孤独でありながらも揺るぎない強さの象徴であった。

心の奥に秘めたるのは、まだ掴みきれぬ召喚の真意。しかし確かなのは、「守るべき者たちがいる」という揺るぎない事実だ。

かつて魔王として頂点に立った力を今は慈愛へと転じ、新たな使命のもと人々を守る。その役割こそが、彼の存在意義となった。

やがて、荒れ狂う北方の大地が視界に入ると同時に、彼の心に再び熱き決意が燃え上がった。あらゆる困難を越え、守護者として立つ覚悟。握りしめた拳に、その強さが凝縮されていた。

こうして、慈愛の勇者ヌアインは、希望の灯火を胸に秘めて、北の戦場へと静かに旅立っていったのだった。

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