第42話

 二人は、幼い頃からずっとずっと一緒だった。

 小学校が一緒で、初めて自己紹介をして、隣の席で。すぐに仲良くなった。二人の仲は一生変わらない、ずっと一緒にいられるのだと、疑っていなかった。

 小学校を卒業し、中学校に入学するまでは。

 晶と巡の小学校は小さく、生徒数も少なかった。だから二人はずっと同じクラスでいられたが、中学校からはそうもいかない。他の小学校から進級した生徒が合流し、生徒数は二倍以上、クラス数も倍に。二人は三年間、一度も同じクラスになれなかった。

 そして、二人のコミュニケーション能力には大きく違いがあった。片や社交的で、友達が多かった。片や内向的で、他人への興味も希薄。次第に、後者の彼女はこう思うようになった。


「あの子の友達は、あたしだけじゃないんだ」


 あたしの友達は、あの子だけなのに。

 幸い、二人には共通の趣味があって、それもあって二人で配信者として活動するようになった。


 外交的な彼女は小蜜晶として。

 内向的な彼女は狼牙巡として。


 けれど、不安は拭えない。

 巡は思ってしまうのだ。晶と一緒にいると。

 あたしはあきちゃんの唯一じゃないんだ、と。

 だから消えようとした。一番だとか一番じゃないとか、そんなことは関係ない次元に行こうとした。

 つまるところ、巡は晶に見捨てられたくなかっただけなのだ。見捨てられてしまう前に、自分が傷つく前に、全てを無に帰したかっただけなのだ。



「ぁ……きちゃ……」


 じわじわと地面に血が広がり、晶のそれと混ざり合う。背中から落ちた二人は横並びに倒れ、そして霞む意識の中で見つめあっていた。


「すてないで……」


 捨てないで。離さないで。見限らないで。友達でいて。

 どうか、ずっとずっと一緒にいて。

 その懇願に、晶はふっと笑った。ひどく愛おしげに。


「おばかだねぇ、うちの、たった一人の、親友は」


 言われなくても、今更離せなんかできやしないのに。

 二人は手を繋いで、眠るように意識を落とした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る