ほしめぐり
先崎 咲
報告──F型48号
Note.1 アンドロイドと地球
3712年7月10日
Project Earth Search:type fimale number 048──通称ESタイプF型48号、定期報告を開始します。
天気は鉛のような曇天だった。真っ白な正方形のハコのような建物の屋根を叩く雨垂れの音は強く、どこか無機質さを感じるようなリズムを響かせていた。
そのハコに窓は無く、地面との接地面周辺が跳ねた泥でまみれていることを除けば、神聖な宗教的シンボルのようだとすら思わせた。
ハコの中の白い室内には椅子に座るアンドロイドが一体。髪のような銀のナノチューブを机の上に流して、うつぶせに瞼を閉じていた。少女の姿をしたアンドロイドはかつての地球人類社会においてセーラー服と呼ばれていたようなものを纏っていた。白く化粧っ気が無いその顔は、時代が時代なら文学少女とでも呼べそうな雰囲気だった。
何も知らなければ、眠りこけているか、雨垂れの音に気に入っているようにみえるその様子は、その実ただの定期報告の通信をしているにすぎない。
シリーズの百科事典だろうが、テキストだけなら瞬きもいらないほどの時間で送れる時代だが、視覚などの五感情報も含めるとそうでないのが現在の人類の到達点だった。
無論、それも両手で数えるほどの秒数で終わるのだが。
しばらくして、アンドロイドは目を開いた。その瞳は極彩色が幾重にも重なったような瞳孔をしていて、多くのセンサーが付いていることが明白だった。
椅子から立ち上がり、危なげなく歩いていくアンドロイド。扉の前に立つと、音もなく扉が開いた。
雨の音、泥の香りがハコの中に侵入する。全てが暗い曇天の中、白いハコとその中のアンドロイドだけが白を保っていた。その様子は、暗闇の中に浮かび上がるかつての時代の白い月のように孤独だった。
「ここが、地球──」
扉の先には暗い雲と雨粒、そして緑に侵されたわずかに残された灰色の文明跡。
それが、
そして──、人類がこの星の影響下から飛び出すためにすべての資源が接収されることが決まった終末の星だった。
ほしめぐり 先崎 咲 @saki_03
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