ドラゴンライダーに憧れて ~仲魔と歩む竜騎譚 転生テイマーパルムの冒険~
@aozora
第一章 いつか見た夢、その続きへ ~エルドラ王国編~
第1話 夢の続き
子供の頃、大好きだった漫画があった。
田舎の村で生まれ育った少年がモンスターと心を通わせ、世界に旅立つ物語。
そのお話の中で少年は様々なモンスターに跨り世界各地を旅して行く。それは大きな狼であったり、ダチョウよりも大きな地面を走る鳥の魔物だったり、顔は鷲、胴体はライオン、大きな翼を持つ空飛ぶ魔物だったり。
飛び交う魔法、武器を使った様々な必殺技。
週刊少年雑誌に掲載されていたその漫画目当てにコンビニに走り、立ち読みに
余りお小遣いは多くなかった為少年雑誌は買わず、資金を貯め単行本を購入していた当時の俺は、コンビニの経営者にとっては迷惑以外の何物でもなかった事だろう。
そんな子供時代を過ごした俺だが、ずっと憧れていたものがあった。物語の終盤、主人公の少年、その時は幾分成長し青年といった風貌になっていたが、彼が騎乗していたあるモンスター。
それはドラゴン、少年は遂にドラゴンに跨り大空を駆け、決戦の地に向かい旅立ったのである。
あれは良かった、目を輝かせ食い入るように読み耽った。
思わずその少年雑誌をコンビニレジに持って行き、そのまま購入してしまった程である。
あのシーンは単行本ではなく描写の大きな少年雑誌で読みたいという気持ちが勝った結果だろう。
あの時の感動、幼き頃の夢は、形を変え、現実のものとして結実した。
「佐藤さん、ベルトの方は確り
「あっ、大丈夫です。確りと嵌まっていると思います」
切っ掛けは友人たちと一緒にバイトで金を貯めて向かったグアム旅行だった。折角だからグアムらしいマリンレジャーを楽しもうという事になり予約したパラセーリング。
眼下に広がる輝く海、海風が自身を上空高く引き上げ、まるで海鳥になった様な錯覚を与えてくれる。
控えめに言って最高の体験であった。
少年の頃に見たあの感動の描写を自分の目で見て実際に体感する、飛行機のように大きな乗り物の中にいるんじゃない、自身が飛んでいるという衝撃は、俺の心と身体に染み付きいつまでも離れる事はなかった。
そして今、俺は大空に飛び立つ。
ここは関東某所にあるパラグライダー場、週末ともなれば多くのハイカーで賑わう標高八百メートル超えの山の中腹にあるレジャー施設。
酒もたばこもやらず、資金を貯めては月一で通い詰めること一年、インストラクターからもお墨付きをいただきいよいよ単独飛行へのチャレンジ。自然と手に汗を握るも、気持ちの高揚の方が先に立つ。
「それじゃ行きましょう。3、2、1、GO!!」
“ダッダッダッダッダッダッ”
グローブをはめた手でラインを握り、傾斜の草原を下方に向け走って行く。
“ブワッ”
吹き上げの風がキャノピー(布製の翼)を広げ、上昇気流を捉えて身体を浮き上がらせる。
地面がグングン遠ざかり、俺はゆったりと上空を飛行する。
「ハハハハ、やった、やったぞ!俺は飛んでるんだ、ヤッフーイ!!」
憧れの景色、今俺はあの主人公と同じ視点で地面を見下ろしてるんだ。心に広がる感動の想い、右に、左に、ゆっくりと旋回し空の旅を楽しむ。
“ボフッ、ボボボボボボボボッ”
それは突然であった。横合いから吹き付けた突風、潰れるキャノピー、今日の天候では吹く事がないとされる突発的な風により落下していく自身。
空の事故は予め説明されていた、物事に絶対の安全など無い事など百も承知していた。
「あぁ、インストラクターの山田さんには迷惑を掛けちまうな。
父さん、母さん、ごめん。でも俺、この夢だけはどうしても諦めきれなかったんだ」
脳裏に浮かんだ思いは、この趣味に最後までいい顔をしなかった両親に対する謝罪の気持ち。
「兄貴、父さんと母さんの事を頼む、本当にごめん」
“ドンッ”
襲い来る衝撃、痛みを感じる間もなく俺の意識は途絶えた。
それはまるで家のブレーカーが音を立てて落ちた時の様に、一瞬にして何もかもが暗闇へと変わったような感覚であった。
――――――――
“・・・・*ルム”
「ウ~~~~ン」
「パルム、確りしろ、大丈夫か?」
ぼやける視界、何か大きなものが目の前にいる様な。
俺は一体・・・、そうだ、確か突風に煽られてキャノピーが潰れて地面に・・・。
俺、助かったのか?
「痛い!」
後頭部に走る激しい痛み、段々と意識がはっきりしてくるも、それにより痛みの方が強くなる。
「どれ、見せてみろ。結構腫れ上がってるな、当たりどころが悪かったみたいだ。
ポーションだ、飲んでおけ。それと念の為今日は家に帰って休んでおくんだ、明日は訓練に参加しなくていい」
「ハハハ、全く弱っちい奴は使えねえな、まともに訓練相手も務まらねえのかよ。まぁ俺様が強過ぎるってのもあるんだがよ」
「よさないか、シルベスタ。パルムはまだ授けの儀の前なんだ、既に職業を授かったお前に敵わないのは当たり前だろうが。
それを稽古をつけてやるとか言って無理やり木剣を握らせて。
聖騎士であるお前の剣をパルムが受け切れるはずもない事など、分かり切っているだろうが」
朦朧とする意識の中聞こえてくるのは、二人の男性の言い争い。
だが俺は何故かこのシルベスタと言う人物を知っている。
「すみませんランド教官、それじゃ僕は下がらせてもらいます」
自然と口を衝く言葉、それは自身のものとは思えない子供のような高い
先程貰ったポーションのお陰か後頭部の痛みは無くなったものの、意識の混濁が甚だしい。自身の置かれた状況がまるで分からない、だがこのまま訓練場にいる訳にもいかないので家路を急ぐ。
「パルム、気を付けて帰るんだぞ?明日はちゃんと身体を休ませること、分かったな?」
「はい、失礼します」
俺はランド教官に礼をし、訓練場を後にする。背後から聞こえるシルベスタとその取り巻きの笑い声が、やけに耳に残るのを感じながら。
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