song 003
「そこで、常識を覆したのがザ・クラッシュってわけよ。」
「…クラッシュ。…名前は聞いたことあるよ。明日にでもおすすめのアルバム貸してよ。」
僕は、シドと知り合ってから急激に音楽に、いやロックにのめりこんでいった。それまでは、テレビで見かけるJ-POPのランキング番組を少し見るくらいか、CDを買ったとしても見ていたアニメの主題歌で話題になったものを買うくらいで、音楽には完全に無頓着だった。
みるみるうちに僕は音楽に夢中になっていった。そんな僕がギターを弾き始めることは当たり前の流れだった。
ある日、シドがギターとベースをもって家にきた。
なにやらシドの家では、クラシック > ロックであり、
ピアノ > ギターであり、ピアニスト > ロックミュージシャンなのだと。
バイオリニストとピアニストの息子がロックに陶酔するなどありえない事だったのだろう。
メンデルスゾーンを奏でる父は、セックスピストルズに、ニルヴァーナに憧れる息子をどう思ったのだろうか。
伝統や体系を重んじるクラシック音楽を奏でる母は、アナーキズムやマルキシズムに感化される息子をどう思ったのだろうか。
そして、中学生にしてザクザクツンツンの金髪パンクヘアにしたシドを家族が見下していき、落第者の烙印を押し、つまはじきになったことは容易に想像ができた。
ギターとベースを重そうに抱えたシドは僕の部屋に入ってくるなり
「これ、やるからお前ベース弾けよ。俺がギターでお前がベーシスト。それで高校でドラマーを見つけてさ。ボーカルはやっぱり見た目がいい奴じゃないと売れないよな。まあ、何とかなるだろ!?」
シドには人を思いやる気持ちが欠けるところがある。僕の気持ちを少しでも考慮するなら、"楽器やってみない?"か、"バンドやろうぜ"という誘い方になるものなんだ。そして言うなら誘う側が"花形であるギターを譲り、僕がギターでシドがベース"これが人を思いやる。というものなのだ。
ただ、僕の本意か不本意かを問わず、この一言で僕の人生が決まった。
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1999年 春 吉祥寺南高校 入学式
ザクザクツンツンの金髪パンクヘアだったシドは、入学式に合わせて見事なまでのザクザクツンツンの紫色のパンクヘアになり、スタッズシューズに着崩した制服のシドは全新入生の注目を集めていた。
そして、そんなスーパー目立ちたがりパンクボーイよりも、背は172cmか173cmといったところか、すこし天然パーマで、耳が隠れるくらいの少し長いくらいの髪型で、靴、スラックス、ブレザー全て校則に従ったどこにでもいる男に惹かれた。
その男が久保海斗だった。
僕がなぜ惹かれたのかはわからない。でも僕は、海斗に惹かれた。
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