第25話 人魔万勇
かつて、アルフレッド大陸にいた伝説の勇者が持つ最強のジョブの事である。
人魔を超えし能力。
理外の理。万物の外と言われたその力は、世界も揺るがす大きな力だ。
世界で唯一、とある勇者にだけ発現した能力だ。
神に近しい実力を得たとまで言われた。
そんな男は、突如として世界から消えた。
魔王戦後の彼の情報が無いのである。
情報がないので、彼の真の像が見えてこない。
歴史から抹消された男は、謎しかない。
しかし、彼は生きていた。
千年経っても、彼は変わらぬ姿でこの世界にいたのだ。
「
彼の背を見るシオンが呟いた。
◇
「懐かしいのを覚えている魔族もいたか。お前。人魔大戦に出ていたか?」
「私ではない。父が出ていた」
「ほう。それで俺を知っていると」
「魔族を超えし男がいたと、こちらではその認識がある」
「超えたか・・・それは違うな。俺とお前らの相性がすこぶる悪いだけだ。戦う時に俺が有利なだけよ」
魔族にとって、クロウは相性が悪い。
それは彼が極端な光を持っているからだ。
「
クロウの体から白い光が溢れる。
眩い光で、現場にいた者たちの目が見えなくなりそうだった。
「これよ。お前らが圧倒的不利になるのはな。魔族の魔は、基本が闇。光とは相反するから、こちらとしても弱点となるはず。だけど、俺のこれは光魔法じゃない。神聖魔法だ」
「神聖?」
「神の聖域の魔法。圧倒的光を携えて発動する魔法だ。だから、お前らと相性が悪い。これを発動させるとな。およそ、お前らの攻撃の八割をカットする」
「八割だと!?」
「そんで俺は、独自に。こいつを混ぜる」
クロウの光が青白い光に変わった。
「防護魔法。インペリアルブロック! これで魔法耐性を上げてるからさ。ほぼダメージを食らわねえ。彼女以外の攻撃ならな」
「なに!? そんな人間がいてたまる・・いや、なぜ千年も貴様は生きているんだ。偽物じゃ・・・」
「ないぞ」
お前の予想通り。
本物だ。
相手の言葉を否定しないクロウは、正々堂々宣言する。
「俺はクロウディオ・エクスタイン。かつて、魔王メリア・リンシェントと戦った男だ」
「そんな馬鹿な。普通の人間が? エルフでも。ドワーフでもない男が・・・ありえん。人の寿命などせいぜいあっても百年」
「そう。寿命が延びても、百年が限度の人間。しかし、通常の人間ならな。俺は別物だ」
「ば、化け物め。人を超えたというのか」
「いいや、人じゃなくなったって言った方が正しいわ。死体が動いているみたいな感じだ」
「まさか。死霊!?」
テスタロッゾは魔族でも従える事の出来ない死霊にたじろぐ。
「死んではいない。でも生きてもいない。今という部分を生きていない。まあ俺はいいとして。ここで顔も知らなかった魔族にべらべら喋るのも駄目だろうから、お前を使うわ」
「つ、使うだと。何を・・・する気だ」
「すまんな。俺って魔族に恨みがないけどさ。あんたの命を使うわ。ほんじゃ、いくぜ」
クロウがその場から消えると同時に、テスタロッゾの前に現れる。
彼の拳が、テスタロッゾの腹を殴ると、九の字に曲がる。
「がはっ・・・信じられん。拳の振りが見えない」
「悪いわ。んじゃ。ちょっくら見に行くか。ほい」
テスタロッゾを抱えてクロウが空を飛ぶ。
目指す方向は東の空だ。
「ど、どこに」
「魔大陸が見える所までだな。それ以上行けば、干渉しちまうから、近づけん」
「は?」
「お前、どうせ死ぬから、そこは教えてやろう」
ものすごい勢いで空を飛ぶクロウは、海の上で説明をし始めた。
「魔大陸を封じている結界。あれは、俺と彼女が生み出した。究極の牢獄だ。あのまま人魔大戦を繰り返せば、双方ともに共倒れになると感じた俺たちは、最後の切り札を使用した。それが、煉獄蓮華っていう。封印だな。あれで双方が戦えないようにしたんだが、どれどれ。もうチョイいけば、見えてくるはず。近づくのも一か八かだから、あんまりよくないけどな」
自分が魔大陸に近づくと、結界に干渉してしまう可能性がある。
だから、クロウは東の端にいて、大陸を見守っていた。
海の上を飛んで魔大陸を目指さなかった理由だ。
「見えた・・・・あ、やっぱりな。威力が弱い。カーテンが薄いわ」
魔大陸の周りにある光が薄くなっている。
自分が作りだした時の光のカーテンよりも、光がかなり弱まっていた。
「しょうがねえ。こいつの魔を代用して、ぶちかますか」
「な、何をする気だ」
「あの結界は、人と魔族が協力しないと出来ない。俺と彼女が作った結界だと言っただろ。だから、今度の補修作業も魔族の力が必須ってわけ。それで、お前はどうせ協力してくれねえだろうから、お前の命を使って、このままあれを修復する」
「は?!」
事態を把握できないテスタロッゾは言葉を出せずにいた。
大混乱している。
「んじゃ。煉獄蓮華を出す。本当はそっち側に彼女がいないといけないんだが。やるっきゃない」
クロウの体から、ドンと大きな音が出る。
爆発音のような音の正体は、彼の魔力だった。
その音と何よりも彼を包み込むオーラの大きさに猛烈な力を感じてテスタロッゾが震えだす。
「に、人間の量じゃない・・・嘘だ・・・貴様。量でも異常ではないか」
相性なんかの問題じゃない。
そもそものスペックに違いがありすぎる。
虎の尾を踏んだどころか、地獄の門番に唾を吐いた並みの行動だったと、テスタロッゾは反省するのだが、もう遅い。
彼は行動に出ていた。
テスタロッゾの頭を鷲掴みにしているクロウは、彼を放り投げる。
「ほんじゃ。悪いわ。贄になってくれ。えっと・・・・名前がたしか。テルトカッゾだっけ?」
「テとゾしかあってないわぁぁぁぁあああああああ」
自分の意思に反して、テスタロッゾの体は魔大陸へと飛んでいく。
「動かない。私の体が動かない。このままでは衝突するぞ」
体が動かないのは、クロウの魔法が掛かっているから。
煉獄蓮華の中に、行動不能の魔法を合わせていた。
テスタロッゾが、魔大陸の光のカーテンにぶつかる。
「ぐあ・・・な、なんだ。体が溶ける・・・分解が・・はじま・・・・って・・・しまった・・・興味・・・本意で・・・・・・」
人間の大陸に手を出さねば良かった。
消えゆく意識と体の中で、テスタロッゾは後悔し続けた。
◇
「さて、見ようによっては完璧に見えなくもないが・・・」
クロウはテスタロッゾの事は無視して、光のカーテンの状態を遠くから見た。
彼の魔力と自分の魔力があの壁に吸収されていくと、徐々にカーテンの光が強くなる。
しかし。
「無理か。あっちの魔力が足りねえ。あの男の量じゃ。完全な修復は出来ないと見た。やっぱり、メリアがいないと駄目だ。彼女なきゃあ、あれを修復するのは不可能・・・しかしな。あの男が言うには、もういないとの事・・・どうするか」
空で悩むクロウは、途中で気付く。
「ま、ここではいいか。帰ろう」
いつまでも海の上にいても、事態は良くならない。
メイフリンとロミオリに相談しようと引き返したクロウだった。
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