第15話 辺境のギルド職員 フラン
魔法が飛び交う戦場。
この大陸で五本の指に入るだろうシオンの実力は、魔族と互角に撃ち合いが出来る実力だった。
フランは驚嘆していた。
「・・・シオンさん。やっぱりすごい魔法使いだ・・・魔族相手に互角。そんな事、誰もが出来る事じゃない」
特別な人間を目の当たりにして、感心と同時に自分の至らなさを痛感する。
昔と今。
自分に変化がない。
何の役にも立たない。
情けないままの自分に、変わりがない。
その事に腹も立てていた。
「がはっ。フラン殿・・・」
のどに詰まった血を吐き出して、レオが精一杯話し出す。
「ん? レオさん」
「あ、あれを。見てください」
ダメージが深すぎて、レオの手が震える。それでも、懸命に訴えていた。
レオが指差した方角を見ると、上空にいたガーゴイルたちが移動し始めた景色だった。
「移動ですね」
「な、何かする気での移動だと。魔物が引くだけとは考えられない。攻撃だと思います」
レオは立ち上がろうと動く。
「レオさん、少し休んで。無理したら駄目ですよ」
「いいえ。俺はここで頑張らないと・・・・ちゃんとした勇者になれない」
「レオさん!」
「止めないでくださ・・・い。がはっ」
しかし、レオの膝が崩れて、再び倒れた。
「・・・わかりました。僕がやります。レオさんは少し休みましょう。
フランが、レオの額に右の人差し指と中指を当てると。
「な、体が動かな・・」
意識があるが体を動かせなくなった。
「ごめんなさい。僕の技です」
適度な休みが、効率の良い結果を生む。
運を溜め込むのにも効果的だ。
「強制休憩です。休んでください。多少の体力が回復するはずです」
傷までは無理だが、体力を回復させることが出来るのがこの技だ。
回復魔法とは別の回復特技である。
「あれは、変ですね。シオンさんが粘っているだけあって、企みを感じます」
相手の行動を読む。
それが
◇
「はああああああああ」
「必至ですね。レディ・シオン」
「当たり前でしょ。あんたみたいに魔力量がバカ高いわけじゃないからね」
「ふっ。そこも分かっていると」
「当り前よ・・・」
敵の攻撃に対して、シオンは効率を重視していた。
魔力を圧縮して、無駄打ちを避ける。
命中率を上げた魔法で、敵のダークボールを確実に相殺していた。
このセンスが、彼女が魔法使いの中でも超一流である証拠だった。
しかしそれだけで終わらないのがシオン。
互角を演出していた先に、もう一段階先の演出を仕掛ける。
テスタロッゾに気付かれないように、彼の周りに黒い光を四つ浮かべる。
その光は五芒星の内の四つの頂点を描いていた。
残り一。
彼女は、光を足す!
「きた!」
敵の攻撃の隙間。
この一瞬を見逃さないシオンが、千載一遇のチャンスを手に入れる。
「光陰来たりて、沈め。アクシオンフォール」
黒の光が、一瞬だけ明るい光となって、真っ黒に落ちる。
すると五芒星も同時に落ちて、テスタロッゾの体も落ち始めた。
「ぐおっ・・・な、なんだ!? これは。私の体が地面に落ちている?」
「地獄まで落ちろ!」
シオンの魔力が全開となり、テスタロッゾの体は一気に地面に落ちた。
相手を重力で叩き潰す魔法。
それが、シオンオリジナル魔法。
アクシオンフォールである。
魔力が続く限り、相手を強制的に地面とお友達にする魔法だ。
「ここで倒す」
「ぐ。これはまずい。仕方ない。やるしかないな。想定外だが、しょうがない」
こうなったら、奥の手だ。
地面に伏しているテスタロッサは、お連れのガーゴイルたちにテレパシー連絡をした。
意志を強制的に伝える魔族特有の技だ。
◇
ガーゴイルたちの動きを見ていたフラン。
「あれは風魔法・・・それに水も?」
団体で用意している敵を見て狙いに気付いた。
「まさか。津波か!」
海を利用した全体攻撃だ。
あれを止める事が出来るのは、ここではただ一人だ。
フランは的確な判断の元に動く。
◇
シオンの全力魔法の最中。隣にフランが現れる。
「シオンさん。魔法を中断してください」
「え・・フラン? どうして、あれであいつを縛って、倒すのよ」
彼女は、杖を握りしめて、力を制御していたので、フランがその手の部分を強制中断させる。
「
「な!? なにするの。フラン。奴を倒せる所までいきそうなのに・・・」
今ので、魔法解除が行われたので、テスタロッゾが起き上がった。
「シオンさん。すみません。ここは僕の言う事を聞いてください。あれを止めて欲しいんです」
フランが指差したのは、海の方。
それで、シオンも今の事態を把握した。
「まさか、奴らの狙いはここ全体なの!?」
「そうみたいです。あれをやられたら、僕らどころか・・・町が消えます。それを止められるのはシオンさんだけです」
「・・・・でも、あれはどうするの。あたしがガーゴイルを止める事が可能でも、その最中に邪魔をされたら出来ないし、他にあれを止められないわ」
テスタロッゾが黙っちゃいない。
あれを止めることが出来ねば、津波を止める事なんて不可能だ。
「僕がやります。あれを対処するのに、三分でしょう。だから、その時間だけ。僕がやりますよ」
「あなたが・・・でもあなたはそんなに戦闘向きじゃ・・・」
「僕がやるしかない。任せてください」
「・・・そうね。わかったわ」
フランの覚悟のある顔を見て、シオンが引き下がった。
大人しく、ガーゴイルの魔法に対抗するための準備をし始めた。
「僕がいきます」
フランの眼鏡の奥に隠された鋭い目が輝いた。
◇
「ん? 私の相手が変わるのか」
「ええ。不満でしょうが。僕が戦います」
「ほうほう。その態度、自信があるようで」
「いえ、ありませんよ」
「その冷静な態度で自信がないと? 不可思議な人ですね」
淡々としているのに、自信がない?
テスタロッゾは、フランのその態度と言動の違いを見抜けなかった。
「僕は、
「・・・・ほう。面白いジョブですね。
「それでは、いきましょうか。魔族の方。僕のテーブルに着席してもらいます」
腕をまくって、フランが宣言した。
「僕の大切な人が教えてくれた技を披露する時が来たようです。ここから僕の真骨頂をお見せしましょう」
性格は至って真面目。行動も真面目な男そのもの。
なのに、彼の役職は一か八かの賭けの職業だ。
フランを成長させてくれたのは当然、辺境のギルドマスタークロウである。
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