3章 第7話 学園祭・後編!
見事、演劇で大成功を収めたライムたち。
一旦休憩を挟み、午後の部に備えることにした。
片付けと次の準備を進めていくライムとリタルト。
ふと、素に戻ると顔は真っ赤だ。
「私たちお腹すいちゃって、先に休憩入ってるね!!」
「え?みんなでやった方が早く終わるっすよ!」
「お腹ぺこぺこだけど、それぐらいは手伝うよ〜」
「空気読みなさいよ!バカ!」
「「え?」」
空気を察したのかハルがキクとイーネを連れて、教室の外に出る。
小さい体で二人の腕を掴んでその場を後にした。
「あはは、なんか二人になっちゃったね……」
「そ、そうだね……」
背を向けて、準備を進めていく二人。
いくら演技とはいえキスをしたのだ。
鼓動が高鳴っているのだろう。
「さ、さっきはごめん。私なんだか、気持ち高ぶっちゃって。」
「う、ううん。最初はびっくりしたけど……嫌じゃなかった。むしろ、嬉しかった。」
「ほ、ほんと!?」
グイッと顔を寄せるリタルト。
ライムは赤面しながら微笑む。
「準備、終わらせようか。」
リタルトの手に優しく触れ、もう一度微笑むライム。
もう少し先の言葉を求めてしまうリタルト。だが、ライムは少し距離を保っているようだ。
「そ、そうだね……」
リタルトは少し落ち込みつつも、ライムが魔王に体を乗っ取られた日を思い出す。
そして、恐らく書庫でどんな知識を得たのかも分かっている。
リタルトにも隠していることがあり、ライムにも隠していることがある。
気持ちだけは先行し、想いは溢れる。
だが、素直にその先には進めない。
でも、思い出だけはしっかりと刻みつけて、今の時間を大切にしていく。
二人はそんなことを思っているのかもしれない。
ーーーーーーー。
「その後、ライム・コリアンダーに変化は?」
「何も無いっすよ。あの日の覚醒が嘘のように魔力を使ってないっす。」
「ホントにあの人が魔王候補なんですか?」
「知るかよ。アタシはあの人に依頼されて監視してるだけだ。護衛と警戒を兼ねてな。」
「そうですよね。……そちらは?」
「問題ねえな。まあフェニックスの力とヒールの力は狙われる危険はあるがな。……ところで、見張りはちゃんとつけているか?」
「分かってるっすよ。いくらなんでも姫と2人にはさせないっす。」
「ならいい。あの人からは引き続き見守るように言われてる。特に危険な四人はあの人が見ているとはいえ、警戒は怠るなよ?」
「了解」
「了解っす」
どこか分からない空間。
黒いフードを被った3人は、秘密の会議を進める。
以前、魔王の前に現れた6人のうち3人だろうか。
学園祭が進む中、影で動くものたちもいるようだ。
ーーーーーー。
「いやあ〜ほんとに良かったね!キキ!!」
「うん……感動した……!!」
ライムたちの演劇に感動したキキとアノン。
昼食の時間を迎え、シルビアたちのメイド喫茶へと向かうことになった。
5人は楽しそうに歩いている。
「おいおい!お化け屋敷あるぜ!行こうぜ!!」
「あ、おい!昼食が先じゃないのか?」
お化け屋敷を見つけ、テンションをあげるバロゼ。
4人から離れ、ひとりで向かおうとする。
それを引き止めるテンダリア。
「怖いの……いや!」
「おわっ!?キキっ!?」
「先行っててくれ!俺様一人で行くからよ!!」
「私も行こう。少し興味がある。」
「おおっ!ミルク付き合いいな!お前!」
「ったく。仕方ない。……悪いアノン。キキ頼めるか?」
怖がるキキを無理やり連れていくことに抵抗を感じるテンダリア。
バロゼは理解した上で先行する。
意外にもミルクが食いつき、バロゼと肩を組みながらお化け屋敷の列に並ぶ。
どうやら、バロゼのことも心配なテンダリア。
キキは怖がり、アノンに抱きついて離れようとはしない。
「…主、おいて行くの?」
「暗いのとか、怖いのとか苦手だろ?アノンと美味しいもの食べて待ってて。できるか?」
「う、うん。……ぜったい、来てね。」
「もちろんだよ。じゃ任せるよ、アノン。」
キキに優しく話しかけると、涙目ながらに納得するキキ。
アノンは任せて!というような表情でテンダリアにアイコンタクトする。
「うん、楽しんできて。テンダリアは優しいね。」
「……ただ、失うのが怖いだけだよ。過保護なんだ、俺は。」
「それって……どういう……」
「おーい、テンダリア!見ないのか?」
「ああ、悪い。今行くよ、ミルク。」
不意にこぼれたテンダリアの言葉。
その真意を知ることなく、背中は遠ざかる。
「いこっか。」
「……うん」
切り替えるように進むアノン。
キキは震えながら、アノンにつかまる。
本当に怖いのが苦手なようだ。
ーーーーーーー。
「怖いの苦手なの?」
「……私は暗い闇の中で生まれた。何も無い寂しいところ。……行き場がなくて、暗くて、今にも消えそうで怖いところ。」
アノンが怖がるキキの手を握りながら、優しく話を聞く。
人通りの少ない静かな空間。
少し落ち着いてから、メイド喫茶に向かうことにしたようだ。
アノンが話を聞くと、ぽつりぽつりとキキはゆっくり言葉を紡ぐ。
闇のリベレイトと魔力を使える少女。
どこか演劇に登場したメアを思わせる。
深い闇の中で生まれたからこそ、その力が身についたのかもしれない。
「生まれたところを思い出すの?怖いところって?」
「うん……きっと、バロゼが行ったところは楽しいところ。分かってる。……でも、怖かった。……主に嫌われたかな?」
「そんなことないよ。すごい心配してたよ。テンダリアの場合は、バロゼとキキ2人とも心配みたいだけど。」
「バロゼは憎しみの炎から生まれた。……明るく振舞ってるけど、危ない時がある。ほっとけない。」
「バロゼの強気な感じは、自分を守るためなんだね。」
こくりと頷くキキ。先程よりも震えが落ち着いて見える。
不意に人形を抱き寄せるキキ。クマのぬいぐるみだ。
どうやら、いつも持ち歩いているようだ。
「怖いの……苦手な私に、くれた。寂しくないようにって。」
「初めて会った時も持ってたよね。テンダリアは優しいね。」
「主は私に色んなものを、くれる。空っぽな私を満たしてくれるの。」
「わかるよ、その気持ち。僕も何も無かったからさ。あったかくて、嬉しいよね。」
記憶を失い、魂の在り方を求めたアノン。
虚無の中、彷徨っていたキキ。
どこか通じるものがあったのだろうか。
二人は微笑み合う。
「少しは落ち着いた?」
「うん。ありがとう。」
キキは満開の笑みをアノンに向ける。
キキがアノンに心を開いた証拠だろう。
刹那。アノンの中で景色が浮かぶ。
ーーーーーーー。
『……人は変われるのだ。ルキ。』
『やめろよ……お前まで俺の前から消えるなっ!!!こんなのオレが求めた結果じゃない!!!俺は……俺は……!!お前のこと……』
『今更後悔しても遅いのだ……でも、優しすぎるあなたがずっと、ずっと、大好きなのだ。……だからもう。……自分を傷つけちゃ、ダメなのだ。』
『やめろ……まってくれ、やめてくれ!!!』
ーーーーーー。
「アノン……?また頭抱えてた。」
「ああ、うん。ごめん。最近多くて。……戻ろっか。」
「うん。……大丈夫なの?」
「問題ないよ!」
「よかった……」
記憶の混濁。
誰かの記憶。
テンダリアたちと関わることが増えてから、アノンはこの現象によく出会う。
なんとも言えない悲しい記憶。
アノンは少しづつ、何かを思い出そうとしているのかもしれない。
ーーーーーーー。
「お、お帰りなさいませ……ご主人様……」
「お帰りなさいませ〜!」
シルビアたちが行っているメイド喫茶にたどり着くアノンたち5人。
出迎えてくれたのはシルビアとルネの2人だ。
メイド風の衣装に身を包み、満開の笑みのルネ。
やや着慣れないというように、乗り気じゃないシルビア。
二人の性格がよく出ている。
「うわあ!!めちゃかわよだよ!2人とも!!!」
「ありがとうございます!!」
「に、似合ってるのこれ?」
「うん!!素敵だよ!」
「よかったね!ルビアちゃん!」
「う、うん……」
アノンは興奮気味に2人を褒める。
室内を見ると、装飾された机や壁が目立ちまるでいつもとは違う教室だ。
シルビアの父親らしき人物が腕組みをしながら料理を待っていたり、サクラがいたり、他にも沢山のお客さんで賑わっている。
教室の端と端を走り続けるココア。呼ばれる度に驚き跳ねている。
結局可愛らしいメイド服を身にまとい、男の子とは思えない可愛らしさがあった。
チョコは気だるそうに注文を聞き、料理をココアに手渡していく。
「姉様も運んで!!!」
「いやだよ、めんどい。注文聞いてるだろ?」
「もお!!!」
奥の厨房らしき部屋にはレトが炎のリベレイトを上手に扱い料理を作っている。
「3番にお願いします!」
以前までの形相とは打って変わって、穏やかな表情を浮かべている。
「随分賑わっているな」
「はい!お陰様で!……ごめんね、アノンくん、あんまり相手できなくて」
「ううん、大丈夫だよ。午後にボクたちの展示あるから、見に来てよ!」
「楽しみにしているわ。」
「うん!!!」
ーーーーーー。
「リベレイトを料理に応用ね。扱っているのも加工食品では無いな。」
席につき、それぞれにオムライス、チキン盛り合わせ、野菜や肉を挟んだパン、クリームのスイーツ、パスタを口にする。
どれもかなり上等な味をしており、テンダリアは深く考え込む。
「これっ、すっごく美味しい!!!」
「へえ、貴族たちがいる割にはやるじゃねえか。」
「……それが狙い……かも」
「うむ、故郷で食べていた物に近いな。調理法は色々違うみたいだが。」
「なるほど、商品になりづらいものを格安で仕入れたわけか。多少保存が難しくともルネフィーラのリベレイトなら可能か。」
「私はなかなか良いコンセプトだと思うが……なにか思うことでも?」
みんな美味しいとテンションが上がる中、考え込むテンダリア。
ミルクは不意に疑問を口にする。
「いやなに。結局能力による格差が生まれそうだなと思ってさ。味に文句はないよ。」
「人と魔族。次は人と人の争いが起きると?」
「貴族と平民はそのうち揉めそうだがな!」
「リベレイトは人間なら誰にでも身につけられる力だ。理論上はね。」
「でも、個人差がある」
「……だから、争い起きる?」
「結局は個性を認め合えるような世の中じゃなければ、争いは起きるのさ。彼女たちはそれだけ、難しいことをテーマにしている。」
「でも理想のために頑張ることはとても尊いことだよ。ボクはそう思うな」
「そう、かもね。」
どこか歯切れの悪いテンダリア。
それでも、ほか5人は美味しそうに食事を楽しむ。
テーマやコンセプトを深く考えてしまうほどに刺激されたのかもしれない。
改めて、ただの学園祭ではなくアンジュ学園のまつりであると実感できたかもしれない。
ーーーーーーー。
そして、いよいよアノンたちの出し物の時間。
闘技場には多くのお客さんが集まってきている。
噂の転入生アノンが今度は何をするのか、アンジュ学園のトップ生徒であるテンダリア達は何をするのか、そんな期待の眼差しを向けている。
「すっごいよ!!めちゃ集まってる!!!」
「みんな、準備はいいね?」
「もちろんだ。」
「問題ないぜ!!」
「……いける」
「みんなで楽しく、作り上げよう。」
「おー!」という全員の掛け声。
ここまで準備してきた5人は微笑み合う。
ーーーーーー。
闘技場を覆い包むように、キキの闇が天井を染める。
そこに一筋の光が煌めき爆発する。
アノンの光だ。
その爆発した光から、燃え盛る炎が生まれ、各所を熱く盛り上げていく。
すると、風が突如吹き荒れ、炎を青く染め上げる。
今度は中心に集まり巨大な炎となるが、天井を包む闇が覆い隠す。
球体のように包み込まれ、闘技場の真ん中に降り立つ、闇。
だが、次の瞬間には中心から、光が溢れ出し綺麗な光の粒が会場を包む。
観客全員が大きな拍手を送り、無事大成功を収める。
ーーーーーー。
全員が闘技場の中心に集まり、一礼する。
「これにて、発表を終わります。ありがとうございました!!」
リーダーであるテンダリアが先陣を切り、頭を下げる。
全員合わせるように頭を下げる。
会場は歓声に包まれ、拍手がなりやむことは無かった。
「たのむー!!もう1回見せてくれ!!!」
「お金は払いますから!」
「まだみたい!!!」
拍手はなり止むどころが気がつくと、手拍子のように変わっていく。
いわゆるアンコールというやつなのだろう。
会場は収まりがつかない程盛り上がっている。
「ど、どうすんの!?ボクもう力使い切ったよ!?」
「私も……無理。」
「俺様でギリギリってとこだな!」
「中々厳しい状況だね、こんなに評価貰えるとは……」
大成功で終わったかに思えたが、逆に成果を出しすぎたようだ。
観客の想いに応えたい面々。
だが、エーテルは底をついていた。
そんな中、ミルクが口を開く。
「一つだけ……方法がある。」
「え?」
全員の視線がミルクへと注がれる。
ーーーーーー。
「アノン、テンダリア、キキ、バロゼ。……私は本当に楽しかったんだ。この数日間。」
「んだよ、どうした。今更よ。」
「生まれて2度目の感動をわたしは感じているんだ。それだけにきちんと、この学園祭を終わらせたいと思っている。」
「ミルクさん……なにか、筋を通したいんだね?」
「ああ。私は君たちに嘘をつきたくないし、君たちを心の底から信じたいと思ってる。」
ミルクはテンダリア、キキ、バロゼに視線を送り、エーテルを高めていく。
「『エレメンタル』」
ミルクがそう呟くと炎、闇、光、重力のリベレイトが同時展開される。
「えっ……ミルクさんリベレイト何個使えるの?」
流石のアノンでも目の前で起きていることの異常さは理解出来る。
ふたつでもリベレイトを使えるだけで奇跡と呼ばれるようなこの世界において、四つの同時展開。
もはや人間の領域を超えていた。
「私は魔族と人とのハーフなんだ。」
「魔人族……ほんとにいたんだ。」
人と魔族のハーフ。魔人族。彼らはとてつもない力を有していると伝えられている。
古の時代。
魔族と人が手を取り合っていた時代。
共に生きることを誓った人は多かった。
戦争が起きている中、争いを避け、東の国へ安寧を求めた人たちがいた。
魔族、人、そんな概念に囚われない地域。『アズマ・ミツルギノヤマト』。
人や魔族が普通に暮らし、世間的に迫害を受けてしまうような魔力の持ち主も受け入れる地域だ。
当然ながら、魔族と人との間に生まれる存在が数多く、総じて『魔人』と呼ばれる。
「私は魔王の器たるもの、魔王に命を狙われるもの、配下になりうる存在を見極め、警戒し、守るのが使命だ。君たちを疑っていた。それをちゃんと、伝えておく。」
「今は疑っていないと?」
「ああ、信じたいと思ってる。だから信じさせて欲しい。君たちは魔王の手先でも、魔王の器でもない、と。」
勇者の力を使うテンダリア、魔力を扱うキキ、アストラル『べヌー』を使うバロゼ。
3人は優れた力を持ち、魔王の器として選ばれる可能性が高い。
封印されている魔王が姿を表せる唯一の方法であるからだ。
ライムの例もある。
既に操られていることも考えられるわけだ。
どういったわけかそんな使命を持つミルク。
それを四人に公にして、彼らを信じていると証明しようとしているのだ。
誠意を見せれば、誠意を返してくれる。
そういう相手だと理解しているからこそできる事だ。
「なるほど、嗅ぎ回っていたのはそのためか。……いいだろう、『俺は魔王の器では無いし、魔王に支配されてなどいない。』これでいいか?」
「俺様も承認するぜ。今の言葉に嘘はねえ。」
「私も……教えてくれてありがとう。」
三人は微笑みミルクに向き直る。
ミルクは微笑み返し、安堵する。
ミルクは既に三人は魔王の手先ではないと、確証を得ていたのかもしれない。
だからこそ、疑っていたことを伝え、自分をさらけ出したのかもしれない。
ちゃんと向き合って、本当の意味で青春の日々を過ごした友であると誇りたいから。
「信じよう。」
ミルクにもう迷いはない。
展開させていたリベレイトを四人に向け放つ。
すると、みるみるうちに4人のエーテルは回復されていく。
「これでアンコールに答えられるだろ?」
「うん!!ミルクさん、さすが!!!」
「なに、君たちに貰ったものを返しただけだよ。」
「ほんとにこれが最後だ!でかいの打ち上げるぞ!」
全員が「おー!」と拳を突き上げ、特大の一撃を闘技場に打ち上げる。
大きな拍手と歓声。
それぞれの思い出と笑顔がそこにはあった。
学園祭は、楽しい思い出とともに幕を閉じるのであった。
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