3章 第2話 本当の名前!


 ルネは思い悩んでいた。

 

 声をかけるべきか、見守るべきか。

 

 Bクラスに入ろうとしていたが、教室の前で独り言を呟く少女に見覚えがあったからだ。

 

 これで遭遇するのは1週間連続である。

 

 いつになったら、話しかけられるのだろう。

 

 「今までごめなさいって伝える……お菓子を渡す……友達になりたいと言う……傷を癒してくれたお礼を言う……あれ、どれから伝えるの?……えっと、もう1回最初から……」

 

 ブツブツと呟く。何度もセリフを言い直し、考え直す。

 

 あと一歩前に進めずにいるようだ。

 

 「あの〜レト・コスモさん……ですよね?」

 

 悩んだ挙句、さすがに声をかけてしまったルネ。

 

 どうしても熱心な想いに応援したくなったのだ。

 

 「ぬぅおおおおおおっ!?」

 

 見たことない驚き方をするレト。

 

 驚きすぎて、壁に衝突する。

 

 「えっと……大丈夫ですか?」

 

 苦笑いしながらヒールをかけるルネ。

 

 1日以内の傷であれば簡単に治癒できるのだ。

 

 「あなたは……シスター・ルネフィーラ!!!!」

 

 「えっと……ちょっとその名前恥ずかしいですね……」

 

 照れくさそうに微笑むルネ。

 

 手を取り視線を合わせ、言葉をかける。

 

 「ルビアちゃんに渡すんですよね?協力しますよ。」

 

 困っている人を放っておけないルネ。

 

 たとえ、かつて友人を苦しめた相手でも、救いの手を差し伸べる。

 

 「い、いえ。大丈夫です。……私一人の力でやって見せます。」

 

 「そうですか?……わかりました。頑張ってくださいね。」

 

 「は、はい!!!」

 

 以前アノンを頼ったレト。だが、自分の力で自分の言葉でシルビアに話しかけたいようだ。

 

 そんな1人の少女の決心を邪魔することはしない。

 

 ルネはその場から離れ、しばらくレトを見守ることにした。

 

 ルネは微笑みながら曲がり角へと向かう。

 

 そこには見覚えのある3人が待ち構えていた。

 

 「あんな貴族放っておけよ。自分勝手な貴族だ。」

 

 壁に手を付き、ルネの進行を妨げるバロゼ。

 

 「貴方は貴族がお嫌いなんですか?」

 

 「当たりめぇーだろ。あんな奴ら。」

 

 「私も貴族自体にはそれほど、良い印象を持ってませんよ。」

 

 「なら……どうして?」

 

 キキは興味深そうにルネを覗き込む。

 

 「全部の貴族が悪いわけじゃないですから。」

 

 「ふっ、君ならそう言うと思ったよ。行くぞ、二人とも。」

 

 満足気に微笑むとその場を後にするテンダリア。

 

 遅れてキキが慌てて追いかける。

 

 舌打ちをし、怒りの眼差しを向けるバロゼ。

 

 仕方なくテンダリアについて行く。

 

 ルネはふぅと一息つくと物陰から、レトを見守る。

 

 「ファイトですよ!レトさん!」

 

 ーーーーー。

 

 「勧誘……しなくて良かった?」

 

 「俺はアイツに振られてばかりだからね。今回もダメだろう。」

 

 「あいつはビスラじゃねえ。同じ力を持ってるだけだぞ。主、判断を間違えるなよ?」

 

 「大丈夫さ。やることは変わらない。」

 

 「今度の試練、誰にするか決めたの?」

 

 「ああ、彼の本質を知りたいからね。」

 

 「フェニックスみてえな、茶番にならなきゃいいけどな。」

 

 「今度は楽しんだもん勝ちだよ。きっと、面白くなる。」

 

 階段を降りながら、微笑むテンダリア。

 

 ただ後ろを着いて歩く二人。

 

 意味深な会話をしているように見えるが、実はイベントの相談をしているだけである。

 

 「学園祭、楽しみ。」

 

 「今年は彼らがいるからね。きっと楽しくなるよ。」

 

 「俺様は屋台やりてえな!運動もありだぜ!」

 

 「お化け屋敷もいいなあ!」

 

 「怖いの、いや。」

 

 「俺も一緒だから、怖くないよ。」

 

 「主……!すき!!」

 

 「はぁ、また始まったよ。」

 

 テンダリアに抱きつくキキ。

 

 呆れた顔で背中を見つめるバロゼであった。

 

 ーーーーーーー。

 

 「え……?ライム……ボクとご飯食べられないって言うの!?」

 

 「いや、違くてね。……もともとリタと食べる約束してて。」

 

 「だれよ!その女!!!」

 

 「なにその口調」

 

 「うわーん!!!ライムのバカあっ!!!シルビアとルネのとこ行ってくるぅー!!!」

 

 「あ、ちょっ……行っちゃった(さすが、アノン。なんて速さだ。僕も負けてられない。)」

 

 アノンとの食事を断り、リタの元へと向かうライム。

 

 あの一件以降よく話すようになっていた。

 

 アノンが立ち去ってから数分、ニコニコと手を振りながらリタルトがやってくる。

 

 傍らには3人の見知らぬ顔があった。

 

 「ごめん!ライム!着いてきちゃって!」

 

 「ああ、うん。全然いいよ。」

 

 「はいはーい!俺から挨拶するっすよ!!」

 

 「まってまって!!私の方が歳上なんだから、私から挨拶するの!」

 

 「はあ!?先輩ここじゃあ同じレベルっすかね!?上も下もないっす!!」

 

 「いいや!私の方が上よ!!!」

 

 「まあまあ二人ともぉ。あんまり怒ったら、お腹空くよお。」

 

 「「お前はいつもだろ!!!」」

 

 ツンツンした濃い金髪の少年は緑色の衣をまとい、陽気な様子でライムに話しかける。

 

 元気な少年を思わせる。

 

 だが、少年の言葉を少女が遮る。

 

 2つ結びのお団子とそこから伸びる綺麗な髪が、水色のグラデーションがかっている。

 

 年齢とは不釣合いなほど美しい見た目をしており、どこかのお姫様と言われても疑わないだろう。

 

 だが、どちらとも背が低く、幼い印象を受ける。

 

 その後ろから白髪でふくよかな男の子が現れ、二人を宥める。

 

 かなり穏やかな顔立ちをしており、渦をまくくせ毛のような前髪が特徴的だ。

 

 

 リタルト同様、異国の和服を身にまとっており、彼女の同郷であることが分かる。

 

 「はいはい、いいから自己紹介して。」

 

 子供を宥めるように声をかけると、3人は切り替える。

 

 「私は!ハル・アーシャ!!好きな色は水色!よろしくね!!!」

 

 「あぁ〜先輩、いつもよりぶりっ子してるっすね!?緊張してるんでしょ!」

 

 「は!?してないよ!!いいから早く名前いいなよ!!」

 

 「へいへい。俺はキク・ヨモギ!!モノマネの達人っす!!」

 

 「もうお腹すいたよお、たべよーよー」

 

 「ご飯はこれからだよ、イーネ。」

 

 「やっとかあ!はやく食わせろよ〜!」

 

 「名前言ったらね。」

 

 「イーネ・ダイフク!!ご飯!はやくご飯!!!」

 

 一通り自己紹介を終え、5人の食事が始まる。

 

 ライムは圧倒されつつ、食事を始める。

 

 ふたつの机で、ライムとリタルト、イーネとハルとキクに別れて食事する。

 

 3人を見据えるように食事を楽しむライムとリタルト。

 

 「ごめん、3人ともうるさくて」

 

 「賑やかな方が楽しいよ。」

 

 「むしゃむしゃ!!!!」

 

 「イーネ、汚い。私みたく綺麗に食べて」

 

 「あっそれ、食べないの!?俺食べる!」

 

 「あ、ちょっと!!!」

 

 「全く聞いてないし……」

 

 「あははは、元気でいいんじゃないかな」

 

 「もぅ。恥ずかしい!田舎の女って思ったしょ!」

 

 「いやいや!そんなことないよ!……僕は戦争で兄上死んでて、こういうの憧れだったんだ。兄弟いるみたいで、楽しいよ。」

 

 「戦争か……」

 

 「うん。……リタが住んでるところはあまり戦争は無い?」

 

 「戦争がイヤで、逃げてくる人多いからね。少ない方なんだと思う。……悲しい思いをした人を見るのは辛い。だから、力が欲しいってここに来たんだ。」

 

 「強いね、リタは。」

 

 「強くならないといけなかったから。この子達を守りたいから。」

 

 「君は……本物なんだね。」

 

 「ライムだって、お父さんのために、この世界にために強くなりたいんでしょ?同じだよ。」

 

 「そう言ってくれると凄く助かるよ。」

 

 リタルトの話にどこか思うところがあったのだろうか。

 

 自分の心根に強さを感じられないのだろうか。

 

 リタルトの強い想いにどこか遠くへ感じるライム。

 

 そんなライムの心を励ますようにリタルトは微笑む。


 ーーーーー。

 

 「それでね!聞いてよ!!!ライムいつもその子と話してるんだよ!!!ボク最近全然構ってもらってない!!!」

 

 「ライムさん、素敵な人と巡り会えたんですね!」

 

 「そうなんだけど!!!ボク寂しいよ!!!」

 

 「わ、私がいるじゃない」

 

 「シルビア!!!!大好きだよ!そういうところ!!!」

 

 「ふふ、私もいますよ?」

 

 「ルネ!!!」

 

 アノンはアノンなりに楽しい食事を送っていた。

 

 だが、教室に来訪者が三人現れる。

 

 一人はレト。

 

 もう二人は黒い和服を身に纏う怪しげな2人だ。

 

 二人とも髪の毛が茶色と黒で良く顔つきが似ている。

 

 一人は強気な女性。左側の黒い髪の毛で左目を隠している。右側の髪の毛は茶色く耳にかけられ、美しい右目がこちらを見ている。

 

 もう一人は大人しそうな男の子だ。左に流れるようなアシンメトリーな茶色い前髪をしており、覆うように周りの髪の毛は黒い。怯えるようにこちらを見ている。

 

 「姉様!!こわい!!!3人ともこっち見てる!!!」

 

 「あん?アタシらが怪しいんだろうよ。いちいちビクつくな。」

 

 「だ、だってえ!!」

 

 「あ、あの、おふたり共やめて貰えます?わたしただでさえ警戒されてますから。」

 

 「わあ!!レトさん!ようやく教室入れましたね!!!」

 

 3人の怪しい様子を気に止めることなく、レトの手を取り微笑むルネ。

 

 「ああ、ええっと。それもそうなんだけど、御三方に相談あって。」

 

 「相談?……ってなによ?」

 

 「し、シルビア・クリムゾン!!私と学園祭、同じチーム組んでください!!!!」

 

 「え?」

 

 「おお、レトちゃん頑張ったね。」

 

 「はい!レトさん頑張ってます!」

 

 レトの思い切った告白に拍手を送るアノンとルネ。

 

 シルビアはポカンとしている。

 

 「え、ええっと……わたしでいいの?」

 

 「その、えっと、だから……」

 

 モジモジし出すレト。顔は真っ赤だ。

 

 小声でレトを応援するルネとアノン。

 

 「色々ごめんなさい!!!こないだ、お家の人にも謝ってきました!あの村にも行ってきました!非があるのはこちらなのに、私火傷しておかしくなって、あの頃の私は何も分かってなくて、村人やあなたに酷いことをしました!それなのに、私のキズ癒してくれて!!!」

 

 畳み掛けるように沢山謝罪するレト。

 

 突然の謝罪にどう返していいのか分からないシルビア。

 

 痺れを切らしたように、和服の女性が割って入る。

 

 「やれば、できるじゃん。……まあ、細かいとこは少しづつ仲直りしていけよ。私らの要件もあるからよ。」

 

 レトの背中をパシッと叩く黒い和服の女性。

 

 弟と思われる男の子はびくんと飛び上がる。

 

 「話し中失礼、アタシはチョコ・カカオ。こいつは弟のココア。まあ、アンタらにお願いがあるんだわ。レトとアタシらをアンタらのチームに入れてくれ。」

 

 「学園祭のってことですよね。でも、学園祭は5人チームですよ。1人余りますけど?」

 

 ルネが困惑しているシルビアの代わりに話を進める。

 

 アノンは、そもそも学園祭ってなんだっけ?という顔だ。

 

 「アノンとかいったな。」

 

 「うん!アノンだよ!」

 

 「悪いが、他を当たってくれないか?」

 

 「なんで!?」

 

 「か、代わりにあなたの事を教えます!!!」

 

 アノンが唐突の申し出に動揺していると、ココアがさらに驚くことを口にする。

 

 「えええええっ!?ボクのこと知ってるの!?」

 

 「ああ、知ってるとも。教えてやるから、他の連中と組んで欲しい。悪い話じゃねえだろ。」

 

 「まってよ、まって。話を勝手に進めないで。レトはいいとしてもあなた達はなんなのよ?」

 

 「悪いことしてるわけじゃないんです!怪しまないで!」

 

 「仕方ないな。さらに、フェニックスの秘密を教えよう。あとはそうだな、ビスラ様のことも教えよう。これなら、どうだ?」

 

 「情報をやるから、怪しまないでってこと?」

 

 「そんな情報持ってる時点でますます怪しいですけどね。」

 

 「ったく、悪い話じゃねーと思うんだけどなあ。」

 

 「姉様。正直に話しましょう。この人たちなら大丈夫です。」

 

 「うーん、わぁーったよ。そんじゃ、シルビア・クリムゾンちょっとこっち来てくれ。お前にだけ話す。その上で判断しろ。」

 

 「なんで私なのよ?」

 

 「ルネフィーラさんは何でも信じて許してしまいます。アノンくんは世界のことがわかっていないので、ガードが甘いです。レトさんはシルビアさんとお近付きになりたいだけですし。シルビアさんが納得すれば、皆さん納得します。」

 

 「随分、私たちのこと調べてるのね。」

 

 「まあ、こっち来てくれよ。」

 

 「わかったわよ。」

  席を外すシルビア。

 

 レトは頭真っ白で放心状態だ。

 

 アノンは自分の記憶を知りたいけど、みんなともチームを組みたいそんな様子だ。

 

 ルネはレトとアノンをヨシヨシして、シルビアを見送る。

 

ーーーーーーー。

 

 数分後、戻ってきたシルビアはため息をつく。

 

 「この2人とチーム組むわ。約束通り、アノンに情報をあげなさい。」

 

 「えええええっ!?ボクと組みたくないの!?」

  「ち、違うわよ!色々事情があるのよ!!!」

 

 「うぅ、今日振られてばっかだ!!!」

 

 「よしよーし。大丈夫ですよ〜」

 

 「うぅ、ルネだって、別チームのくせに!!」

 

 「なんか、ごめん。」

 

 「謝るなよ!レト!シルビアと仲良くね!!!」

 

 吐き捨てるように言い放つアノン。

 

 苦笑いしながら、チョコが話を進める。

 

 「フェニックスやビスラ様の情報はいらないのかい?」

 

 「いいわよ、自分で調べるわ。」

 

 「私もお導きはいつも貰ってますから。」

 

 ーーーーーー。

 

 誰もいない空間。

 

 案内されるがままに着いてきたが、アノンの知らない場所だった。

 

 それもそのはず、メアの象が管理する書庫なのだから。

 

 Aクラス以上と教師のみしか入ることを許されない空間。

 

 アノンは何も知らずに入ったが、何の影響も受けていない。

 

 チョコやココアも同様になんの影響もうけていないようだ。

 

 「アノン、アンタは伝説の勇者様と同様の存在『神候補のひとり』だ。」

 

 「ボクが神様の候補……?」

 

 「本来の名は『アビュート=ハイルケーレ』」

 

 「魔王サタエルを唯一倒せるかもしれない人だ。」

 

 「どうして……そんなことわかるの?」

 

 「それは記憶を失う前、あなたが姫を助けたからだ。」

 

 奥から白髪のセミロング女性が現れる。

 

 白の美しい和服を身にまとっており、少し年齢が高く見える。

 

 「私はミルク・アーモンド。以後お見知りおきを。」

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