第2話 自称:中堅配信者

「えー、こんばんは。深夜のゲリラ配信に来てくれてありがとう。そらの魔王:カガヤキ・トライスティルだ」


 配信が始まると、俺はカガヤキになった。

 もちろん、見た目は完全にカガヤキで、設定を忘れたりはしないのだが、中身は俺のまま。

 自我を出した状態で中途半端なキャラを演じたのだが、それが如何にもハマっているのか、誰も文句を言わなかった。



メスシリンダー:こんばんは

00017:ゲリラ配信なんて珍しいですね

紙コップZ:今日はなんですか? またおもちゃ紹介ですか?

ゆうちゃ:この間紹介してたゲーム買いました!

田中一郎:よっ、魔王様降臨

牛乳瓶:魔王様、よーっ。魔王様!

……



 民度の高い視聴者ばかりで助かる。

 こんな激ヤバな時間にゲリラ配信をしても、怒ったりしない。

 ホッと胸を撫でるのだが、一つだけ気に入らないことがあった。


「今日はおもちゃ紹介はしない。あれは企業案件だっただけだ。それと、俺のことを魔王と呼ぶな!」


 俺は如何しても許せなかった。

 一応俺の演じる、カガヤキ・トライスティルは、《宙の魔王》という設定がある。

 だがしかし、その設定とこの見た目があまり好きじゃない。

 なにせ、イラストモデルになっているのは俺自身であり、そこに明らかにコスプレだと分かる格好をしている。恥ずかしいし、らしくない。全身が悶えてしまう。



月と太陽:よっ、魔王様!

キャトル:えー、魔王ってキャラ珍しいから好きなんだけどな

29021:そうですよ、自信持ちましょう。魔王様w

山田ボロ太郎:キャラって大変ですよね魔王様www

68213:魔王ってキャラ、辞めればいいのに

カガヤキ様LOVE:カッコいいですよ、カガヤキ様

……



「茶化すな」


 俺は一言一蹴する。

 しかしコメントがドンドン溢れていて、気が付けば同時視聴者数も二万人を超えていた。

 

 まさかここまで集まって来るなんて。

 俺は自分が広告塔として機能していると思いゾッとする。

 それと同時に唖然になると、死んだような目をしてしまった。


(俺、中堅配信者だよな?)


 正直、ここまでの反響は想定外だった。

 ふと登録者数に目をやると、五十万人を超えている。

 正直この界隈だと、中堅だ。充分食っていける。けれど、ここまで伸びるなんて、過去の俺は思っていなかっただろう。


「まあいいか。今日の企画はこれ、最近何かと噂のゲームを遊んでみるぞ」


 俺は早速ゲーム画面を立ち上げた。

 非常にモッサリしていてギコちなく、スタート画面が出るまで時間が掛かる。

 それは今なにか噂(悪評)が広まっているゲームだった。


「ってことで、タイトルも文字化けしていて分からない謎ゲーム。世界含めてたったの三人しかプレイしていないけど、やってみるぞ」



カルボナーラ:待ってました!

バグゲーマー:魔王様のゲームコーナー!!!

レッドホルダー:しかもこれ、今ダウンロードできない奴じゃない?

574osu:なんかバグ? っていうか、ヤバい奴でしょ。大丈夫?

〇亡フラグ製造機:魔王様、死なないで!

レイン:マジでヤバいの持って来たな。警告くらいませんか?

……



 早速凄まじい盛り上がりを見せた。

 まさかここまで盛り上がるなんて、少しネットでも調べていたが、想像以上だ。

 しかもこの反応は、本気でヤバそう。俺は今からでも引き返したかったが、そうも言ってられない。


「まあ、やりたくは無いけど、やるしかないんだよ」


 俺も嫌々このゲームをプレイすることになった。

 それもその筈、数日前に依頼があったのだ。

 案件……では無いのだが、友人Aにも勧められ、仕方なくプレイすることにした。


「ん? もるらーさん:どうやってこのゲームをダウンロードしたんですか? URLを送りつけられてた。しかも解凍済みで」



 如何にも怪しい。

 俺は警戒していたが、友人Aによって無理やりダウンロードを強行された。

 流石にあれには腹がっ立ったが、民度の高い俺の視聴者達は、ちゃんと味方になってくれる。


けちゃらー:友人Aヤバい奴だなw

新星A:それってあれですか? 親友ですよね?

れちゃ:友人Aさんって、あの会社の若社長でしょ?

7429t:登録者一万人の人ですか?

電気サーフィ:確か名前は……ホクトだっけ?

じゃがー芋:マジでヤバい人ですね。友達、辞めた方がいいですよ

……


「まあ、そうなんだけどさ。友達は切れないでしょ?」


 俺にとって、友人Aも友人Bも大事な友達だ。

 たまにヤバいことするけど、それでも高校時代からの付き合いがある。

 大学も同じで、学部も同じ。男女の友情は存在する系の腐れ縁はなかなか切れるものじゃない。


「ってことで、早速やって行くぞ。スタート」


 俺はゲームのスタートを押した。

 すると大量の文字化け渓谷が現れる。

 こんなの読める訳が無いので、俺は全力でスルーし、“合意”を押すと、早速ゲームが……


「スタートしないのかよ」


 全然スタートしなかった。

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