第8章 全知王の宮殿 後編

 5


 聴聞は毎日夕食時に行われた。それまでは各自自室で過ごすのだが、外に出たいと言えば中庭までは散歩をすることができる。だが、みっこが何度散歩に出かけてもカッコやリョキスン、リンゴと出会うことはできなかった。

(きっと、意図的に時間をずらしているんだ。警備のことを考えても、そう離れた所に置くとも思えない)

 みっこは中庭に来るまでの道順を思い出す。

(この中庭は回廊で囲まれた形になっている……そして中庭の真ん中には以前銀腹と別れた円柱の広間に繋がる階段……。回廊には目に見える限り8つの部屋があって、内一つが私の部屋。となれば、残り7室の内2つか3つに皆がいると考えるのが自然なはず)

 そこでみっこは気付く。てっきり1室に一人の兵が警備についていると思っていたが、実際は2部屋の間に一人という形で警備がしかれているのだ。

(この城は少ない人数で回っているって聞いたし、余計な人員は割けてないんだ。なら、多分隣り合う部屋に人は入れてない。他に客がいるならともかく、毎日会食をしていることを考えるとそれもなさそう……きっと一つおきに部屋を使ってるんだ)

 みっこは思う。何とか部屋の中の彼等とやりとりができないだろうか。考えながら中庭をうろつく。

 中庭には人工の泉があり、太陽の光を反射させている。

「兵士さん。わたし、毎日同じ中庭で退屈!他のところにも行きたい」

 みっこは振り返り、少し距離を保って見守っていた兵士に呼びかける。

「すまないが、客人はこの階からの移動は禁じられているんだよ。この中庭で我慢してくれ」

「つまんない。じゃあ、せめてこの泉で遊んじゃだめ?」

 なるべく、バカっぽく。みっこは子どもらしい声を作る。

「泉でかい?——まあ、それくらいなら構わんが、その泉は作りものとはいえ中には泥もあればカエルも住んでる。大丈夫か?」

「平気。私、カエル捕まえる」

 みっこはそれから許された散歩の時間をカエル取りに費やし、泥まみれになって部屋に戻るのだった。

 散歩が終わるとすることも特にない。みっこは備え付けられた本棚から本を取り出してみるも、クリオの国の文字はたどたどしくしか読めないためもっぱら絵付きの本をめくって時間をつぶす。また、いざという時に体が動かないのでは話にならない。みっこはトレーニングなんて一切知らなかったが、ともかく暇さえあれば本を読みつつ部屋の中を歩き回った。そうこうする内に夜の会食の時間がきて、また不毛なやりとりが始まる。

 その日の会食は、断崖絶壁の頂上にて行われた。毎度毎度仰々しい。どうも全知王はこの術が気に入っているらしく、毎回趣向をこらした景色を用意してくれる。

(どんなに景色がかわっても、話の中味がかわらないんじゃ意味がないよ、王さま)

 みっこは内心毒づくが、それでもこの会食は一日の中での楽しみでもあった。全知王は嫌いだが、皆と顔を会わせられるのはここだけだ。おおっぴらな情報共有はしにくいが、少なくとも各自がどのように過ごしているかは共有できる。

「そういえば、全知王。中庭の泉にいた珍しいカエルはなんて言うの?」

『何色のカエルだ。青か?それとも黄か?』

「青。黄もいるんだ」

『青いカエルは霧鳴きガエル。霧の日にのみ求愛行動をとり、鳴くことで知られている。黄のカエルは泥ガエル。普段は泥の中にこもっており、獲物の音を聞きつけて長い舌のみを泥からだし補食する』

「道理で黄色が見つからないはずね。私今日は青いカエル探しをしたのだけれど、なかなか捕まえられなかった。泥だらけになっちゃって、着替えないといけなくなっちゃった」

『知的好奇心があるのはよい。だが、あのカエル達はそれなりに希少なもの。あまりいじめてくれるな』

「うん。カエル、好きだから。さわりたいだけ」

 みっこはチラっとカッコやリョキスンに目配せをする。

(伝わっただろうか。いや、これ以上は深追いしない。あくまで種まきだ)

『ときに娘よ。お前の中にはわずかな記憶すら存在しないのか?父母の顔や、言葉のいいまわし、歌——記憶を失っても消えにくいものはあるだろう』

 全知王はカッコに向かってワインのグラスを傾ける。

「おぼろげですが、米を育てていた記憶はあります。あとは、沢山の人が兄をどこかに送り出す光景……そのくらいしか。もっと深く思い出そうとすると――悪夢を見るのです」

 王は興味深げに返す。

『どのような夢だ。人が死ぬか。何かに追われるか。それとも恥をかくか』

(ほんとうに無神経なやつ!)

 みっこは舌打ちをしそうになり、慌てて口をつぐむ。カッコは眉間にしわを寄せて答えた。

「——赤い夢です。ともかく赤い中をさまよう夢です」

『赤か。血……炎……夕日……生命力の象徴、あるいは衰退……闘争……』

 全知王は興味深い話を聞くとまれにこうした思索状態に入る。この間は基本的にはみっこ達に発言は許されない。

(それにしても、カッコがそんな夢を見ていたなんて知らなかった)

 みっこが彼女に視線をやると、たまたま二人の視線が交錯した。カッコはにこっと微笑み、口元で「大丈夫」と伝えてくる。健気な少女だ。

(ここから脱出する鍵はいつか現れる。根拠のない考えだけど、そう期待するしかない。だからここで私がすること――それは全知王から必要な情報を抜き出すこと!)

 やがて思索が終わった王はゆっくり口を開いた。

『お前の夢はおそらく炎か闘争の痕跡だ。強烈な心の傷から身を守るためにお前の精神は思い出したくない記憶にふたをした。もしかしたら、その事件がクリオの国にやってくる原因となったのかもしれん。クリオの国は、元の世界から心が離れ始めている者と繋がりやすいからな』

「わたしが――元の世界から心が離れ始めていた……?」

『リオネルも見立てた通り、お前からは元の世界に帰ろうという気持ちが希薄だ。抑圧された記憶の中に何か理由が隠されているのだろう。なかなか興味深い』

 今まで意識してこなかったが、カッコにとって過去の記憶はどのような意味を持つのだろう?みっこは少し考える。記憶喪失になるとはどのようなものなのか。

 今のみっこを形作っているのは彼女の過去の経験や記憶に他ならない。ではある日それをいきなり失ったら?そこにいる人間は今のみっこと同一人物であると言えるのだろうか。そしてそれ以上に気になるのは、記憶喪失となった人間が再度記憶を取り戻したときだ。そのとき、過去の人格と今の人格はどのように折り合いをつけるというのだろう?

(カッコはそういう色んな不安を抱えながら、それを見せずにここまでやってきたんだ)

 絶対助けねば。みっこは思う。

「そう言えば全知王、私が住んでいる世界にはとっても大きな時計台があったの。昔絵本でみたんだけれど、感動したわ」

『それはどのような時計台だ?材質は、土か。石か。動力は?』

「私が知ってるのは、もともとは囚人を幽閉する施設だったっていう石造りの建物よ。そこからにょきりと塔が立っていて、巨大な時計が時間を刻んでいるの。クリオの国にはそういう大きな時計台はないの?」

 全知王はふんと鼻をならす。

「お前はもう一人の娘と違い、油断がならんな。生命の大時計についての情報を私から引き出そうということか。たしかにあの付近には、中つ国への門がよく開くという情報がある」

 バレていた。そしてみっこたちの目的地が生命の大時計であるということも気付かれた。胸の動悸を隠しながらみっこは立て直す。

「バレちゃったら仕方ない。そう。生命の大時計について知りたいの。私たちの旅の候補地の一つだったから。本当は他にも聞きたい場所はあったけど、やめとく」

『——お前との対話は別の意味で刺激があるものだ。答える義理はないが、全知王たるもの知っている知識を伝えないのは信義に反する。少なくとも生命の大時計については話してやろう』

 王は周囲を見渡すと、『ゲラン・ルジカ』と呪文を呟いた。すると、空にシルクで出来たかのようなクリオの国の地図が広がる。

『私達のいる王都から東へ車で7日程。ちょうどおまえ達が銀腹と遭遇した影切り森を抜けていくと、霧に包まれた巨大な湖が現れる』

「星乙女の湖か。かつて元の世界に戻れぬ嘆きの中で乙女が身をなげた伝説のある湖ですな」

 リョキスンがフォークにつきさした人参を口に放り込みながら合いの手をうつ。

『それは私にとって何の牽制にもならんぞ、宿無し。まあ何はともあれその湖の真ん中に島がある。一面草原に覆われた、小さな島だ。そこに場違いにそびえているのが生命の大時計だ……。島には最早人はいない。時計は人の手もなくずっと動き続けている』

 人のいない島で動き続ける大時計——。誰も見ることのないその時計は、何のために時を刻んでいるのだろうか。みっこはひどく寂しい気分に襲われる。

「その大時計は、一体どんな動力で動いているの?」

『命だ』

 それは、なんの?——みっこは王の黒い瞳を伺うが、なにも見えてこない。

『大時計は、島に入った者達の命を集めて動く。そして、誰かの命が失われた時には、その鐘の音をもって知らせるという』

「ほう、その話は初耳でしたな。できれば詳しくお聞かせ願いたい」

 リンゴの言葉に、王は嘆息。

『これでは私の知識ばかり奪われる。どちらが客人なのかわかったものではない。だが、いいだろう。おまえ達がまだかすかな期待を持っている島がどのような場所か。知っておくがいい』

 王の話は余談の雑学が多すぎて、みっこの頭は痛くなりそうだったが要約するとこういうことだった。

 

 かつて、星乙女の湖の周囲を支配している王がいた。王は湖の真ん中にある島に居城を構え、いつも決まった時間に各集落の長を集め、報告を受けていた。

 だが、王には気にくわないことがあった。決まった時間に皆が集まらないのである。当時は各家庭に時計などない時代。仕方がないことなのだが、横着な王はそれが気にくわない。

 そこで彼は私費を投じて巨大な時計塔を作った。周りの集落に鐘の音が聞こえるように。試みは成功し、彼のもとには決まった時間に長が集まるようになった。

 しかし、別の問題が起こった。巨大な時計塔を動かすために、通常の動力では無理があったらしく、立て続けに故障する。そこで王は、クリオの国一と謳われた技術者をよび、王の要望を伝えた。壊れず、止まらず、人の手を加えずとも動き続ける。そんな動力を作ってほしい、と。

 技術者は言った。王様、ご要望にはお答えできますが、これだけの巨大な時計を動かし続けるとなればそれなりの代償が必要です。たとえばこの島にいる者達の命を吸い上げるといったような。

 王は問う。その命とやらは寿命ということか?技術者は答える。いいえ。生気といいますか。いわゆる元気のようなものでございます。見たところこの島には100を超える人間がいる様子。でしたらば、やや疲れやすくなるといった程度の負担であるかと思います。そうはいっても、命は命。住民のみなさまに合意が得られたのであれば、私はすぐにでもその改装を行いましょう。

 王は言った。いいだろう。明日までに合意をさせよう。だが、一つ条件がある。病人や老人など、命を吸われるのが辛い者達もいるだろう。城の一角に、命を吸われない場所を作ることはできないか。

 技術者はその問いに頷いた。翌日、王は全島民の合意書を彼に見せ、ほどなくして永遠の動力をもつ時計が動き出した。

 最初の1年は平和だった。さしたる問題もなく、島は機能した。翌年も、疲れやすさを訴えるものはいたが、大きな災いには至らなかった。

 問題が起きたのは3年めであった。島民の中に、心を病む者達が現れ始めたのである。小さな無茶の積み重ねが、知らず知らずのうちに島民をむしばみ始めていた。

 そして4年目に、事件は起こった。きっかけは時計を作った技術者が島を訪れ、様子を見に来たことだった。島民達はそこで初めて知ったのである。自分達の不調が大時計によるものである、ということに。王は、島民に何も説明をしていなかったのだ。

 島民は王の居城を取り囲んだ。事情を説明せよ。そして謝罪をしてほしいのだ、と。島民達にとって、島は故郷であり、王は共に生きる仲間であった。彼等は、王には王の事情があったと信じたかった。

 だが、実際は王は何も納得のいく説明を行うことが出来なかった。そればかりか、時計の影響をうけない部屋を王が自室として使っていることが明らかになったのだった。島民達は悲しそうな顔をして一人、また一人と島から去っていった。

 悲劇は続く。島に住む人間が少なくなるに従い、人々の疲労感はより強くなっていった。時計が必要とする生命力は島民の数には関係ないのだから、住民が減ればより一人の負担が増すのは自明であった。

 やがて、老人が死にだした。次に、生まれたばかりの赤子が。その次には幼児が。最早島民の我慢は限界だった。この島を去るしかない。だが、失われた命はもう戻らない。彼等にはやり場のない怒りをぶつける対象が必要だった。

 王はいつものように時計の影響のない部屋で目を覚ました。もはやこの部屋以外に安心出来る場所はないと、王は感じていた。技術者への怒り、去っていった島民への怒り、それらを常につぶやきながら、彼は悔恨の言葉を口にすることは決してなかった。王は気付く。食事が用意されていない。王は怒りとともに扉をあけようとした。——開かない。

 彼はわめきながら戸を動かそうとするも、ぴくりとも動かない。そのとき、戸の外から声が聞こえた。

『私達はもう耐えられない。この島を去る。私達が去れば島の呪いはより強くなり、貴方の命を奪うかもしれない。だから貴方は安心できるそこで過ごすといい』

 声は少女から少年へ、女から男へ、老人へ、めまぐるしく代わりながら冷たい声で言い放つ。

『そこで干からびていけ!』

 最後の一言は、一際大きくまるで数百人の人間が声をあわせたかのようであったという。

 こうして、島には誰もいなくなった。唯一、戸を激しく叩く音のみがそれから数年聞こえていたようだが、それもやがて絶え。島には時計が時を刻む音のみが残るようになった。最早命の絶えた島で、なにが時計を動かし続けるのか。それは技術者にもわからなかったという。


 6


 全智王の長い話が終わり、静寂が場を支配した。話の内容が悲惨なものであったこともある。だが、それ以上に問題だったのは、みっこ達はその島に上陸しなくてはならないということだ。

(もし無事にこの城を抜け出したとして――私たちは3人と1匹、一体どれくらいの間動くことができるのだろう?)

 表には出さないが、内心ずんと重たいものがのしかかる。それを察したのか、全知王が口を開く。

『年齢のわりに聡いお前のことだ。気付いたのだろう?生命の大時計にたどり着いたとして、その後に何が起きるのかが』

 反論が、出来ない。みっこに限らず、カッコも。リンゴも。リョキスンですら。

『仮に命知らずに島へ上陸をするつもりだったとしても、そんな自殺行為をみすみす私は見逃さん。万が一城を抜け出たとして、私の命令一つで星乙女の島は封鎖できる。……それとも今までの話はすべて虚言、実は本当の目的地は別にあるか?そこまで知恵が回るのであれば大したものだ』

 そう言って、全知王はふうと息を吐く。

『だが、なかなかに楽しい会合ではある。お前は思った以上に博識のようだ。さっきの時計塔の話もそうだが、私の知らなかった知識をまだまだ持っているように思える。それに……もう一人の娘の失った記憶についても興味深い』

 その時、どこからか厳かな鐘の音が鳴り響いてきた。会合の終わりを告げる合図である。

『ゆっくり話を伺っていこう。素直に語りたくなるまで。記憶のかけらを取り戻すまで。では、諸君。いい夜を』

 全知王の姿が光のカーテンに包まれたかと思うと、次の瞬間は消えていた。

(私達にとっては魔法でも本人にとってはからくりがわかっているわけで……恥ずかしくなったりしないのかしら。まあそんな繊細なヤツじゃないのか)

 みっこはため息をつきながら立ち上がる。会合が終わったあとは各自の足で部屋の入り口まで戻る。どうもこの部屋には衛兵は入ってこれないようで、入り口から会食場までの往復時間は、貴重な仲間達との交流の機会であった。そうは言っても、同じ部屋の中には術者や王がいる可能性はあるわけで。なにか打ち合わせができるというわけではないのが歯がゆいところである。

「カッコ、気分は大丈夫?」

 みっこは少し青い顔をしたカッコが立ち上がるのを支える。

「ありがとう。少し……嫌なことを思い出しそうな気分になっただけ。大丈夫」

 かっこはにっこり笑うとわざとらしく大きな伸びをした。

「それにしても――だ。生命の大時計は厄介な場所のようだな。みっこがソーダ水の空から現れたと聞いたときには随分運が悪い門をくぐってきたものだと思ったが……生命の大時計の門からクリオの国にやってきてしまったお客さんのことを考えると、悲惨な。引き潮の夢ではそのあたりはどうしていたのだね?」

 リンゴはしばし思案してから口を開く。

「お客さんが現れる場所は、過去の記録からある程度絞れているのじゃ。ゆえにソーダ水の空のような場所にはお客さんがいつやってきても対応できるよう近くに待機場を用意しておる。みっこのケースでは予想と出現点が大きくズレていたために対応が遅れたのだがの。だが……生命の大時計からやって来たというお客さんの話は聞かなかったためあそこには待機場はない」

「なるほど。ではあそこには事情も分からぬまま命を吸い取られた哀れなお客さんの残骸も残されているのかもしれないということか。過去にのみならず今もなお人々の命を奪っているとは、時計を作らせた王は実に罪深いな」

 みっこは自分やカッコが人知れず力尽きそのまま煙となっていく様子を想像した。ぞくり、というより胸がすうっと吸い込まれるような漠然とした不安がわきあがる。幸い、前回はそうはならなかった。だが今回は。

(ようく考えないと確実にそうなるんだ)

 だからみっこは考える。どうすれば大時計のカラクリを突破できる?どうすればこの城を脱出できる?

「あまり根を詰めすぎるな、みっこ。大方状況は悪化したとでも思ってるのだろう?」

 リョキスンの声に、みっこは素直に頷く。

「行き先は王にバレちゃったし、変な仕掛けはあるし。正直、このままここにいる方が安全なんだろうなとか思うと心が折れそうだよ」

 そう。何もしないほうが安全ということはままある。だけど。

「——だけど、私まだ諦めないかんね」

「その意気だ、我が君。我々は着実に進んでいる。なにせ、今日の会合で時計のカラクリを聞くことができなければ我々は全滅していたのだ」

「あ」

「我々は新たな課題を与えられたのではない。隠されていた1つの罠に気付き、対策に悩む猶予を手に入れたのだ。状況はまだ動いている。決して、追い詰められているわけじゃない」

 そこまで話したところで、一行は部屋の入口に到着した。扉が開き、すぐに衛兵がそれぞれを出迎え時間差で自室に連れて行く。衛兵の後ろを歩きながらみっこは思う。

 リョキスンの言う通りだ。むしろ重要な情報を聞き出せたと喜ぶべきなのかもしれない。それでもみっこは薄々と感じている。

(それでも中で動けることには限りがある。少なくともここを出るには外の動きがないと――。やっぱりショーリにもここに踏み込むのは難しいのかな)

 弱気が浮かび上がってくる。ぎゅっと手をにぎり、その後緩める。考えても仕方ないことは一度除外だ。

(今できるのはチャンスが来たときにすぐに動けるよう準備をしておくことだ)

 みっこの直感は正しかった。みっこ達が全知王とにらみ合っているその時に。確実に脱出のための準備は動いていた。そして、その兆しを伝えるのは、意外な人物だったのである。

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