三十三話 増える理解者
街中でバッタリとであった繭奈であったが、彼女は友達である笹山と一緒にいたようで、その笹山は俺の事を目の敵にしていたようだ。
しかし、そんな彼女を繭奈は窘めて、剣呑だった雰囲気はだいぶ落ち着いた。
「まぁ繭奈がそこまで言うなら、ウチは何も言わないよ……でも、やっぱり蔵真のことは認めたくないけどね。少なくともウチより背が高くないと許せない」
「言わないのか言うのかどっちかしら?」
「……ごめん」
どうやら笹山は相当に俺のことが嫌いなようだ。どうしてここまで嫌われているのかは分からないが、ここに俺がいると空気が悪くなるな。
「ごめん、俺が繭奈に声をかけなきゃ良かったね。邪魔したな、それじゃ」
申し訳なくなった俺はそう言って踵を返す。
気が滅入ったし、今日はスーパーで買い物をして家で食べよう。
「あっ、龍彦くん……」
「ほっときなよ。この程度のことで拗ねる男とかダサいし」
「っ、いい加減にして!」
帰ろうと二人に背を向けて歩いていると、繭奈が今まで聞いたことないような声で怒鳴った。
周囲の人たちもギョッとした表情で二人を見ている。
「何も言わないって自分で言ったクセに、いつまで続けるつもり?好きな人をこき下ろされて、いつまでも黙っているような薄情な女だと思っているのかしら?龍彦くんの魅力を知らないのは勝手よ。でもこれ以上、悪く言わないで!」
「うぅ……ごめん」
「繭奈!」
血相を変えて声を張り上げる繭奈が見ていられなくて、そんな彼女を背中から抱きしめる。
既に俺の意識には彼女しか映っておらず、如何にして彼女を宥めるかということしか考えていない。
それだけ、好きな人が怒っている姿など見たくないのだ。笑っていてほしいんだ。
「龍彦くん、ごめんなさい……私が不甲斐ないばっかりに嫌な気持ちにさせて」
「俺のことはどうでもいいよ。怒ってくれるのは嬉しい、落ち着いてだなんて言わない。だから、気が済むまで一緒にいよう」
「っ……もう、龍彦くんって私の心が読めるのかしら。でも、嬉しい♪」
俺の説得が効いたようで、彼女は嬉しそうに振り向いて抱き締め返してきた。
喜んでくれたというのなら良かった。
「……なにさ、二人の世界に入っちゃって……これじゃあウチが悪者じゃん」
悔しそうな笹山だが、そもそも繭奈がやめてと言ったことを続けたのだから、悪者なのは間違ってないだろう。
自分で言ったことも守れないで、グタグダと続けている彼女には少し苛立っているのだ。
「間違ってないだろ。繭奈はやめてって言ってたよな?それでもやめなかった笹山さんが悪者だなんて、間違ってないと思うけど?」
「……うっさい」
間違ったことをしていたのは彼女だ。それを自覚しているからかその反抗はとても小さい。
俺を認めたくないのも嫌いなのも勝手だし、文句言うのなら好きにすればいいけれど、せめて繭奈がいないところでやって欲しい。
嫌がっている彼女なんて見たくないから。
「ありがとう、その気持ちはすごく嬉しいわ……でも、今日は冬夏との約束があるから……」
「傷付いた繭奈を放っておけるか」
「っ……好き♪」
傷付いたというか、怒ったという方が正しいだろうが、どちらにせよ不愉快な気持ちになった彼女に寄り添ってあげたいのは間違いない。
だからこその言葉だったのだが、彼女はそれだけの言葉で骨抜きになってしまったようだ。
チョロくて可愛いな。
「……よっぽど好きなんだね、繭奈」
喜んでいる
「当たり前でしょ、一晩どころか一日中犯してたいくらいよ♪」
「あぁ……ぅん、なんかごめん蔵真」
「まぁいつもの事だから」
もはや歯止めの効かないというか、歯止めのなくなって舌なめずりまでしている繭奈の言動にドン引きした笹山が謝ってきた。
何でもいいが、繭奈を怒らせないでね。
「いやほんと、言い過ぎちゃったから。繭奈がここまで壊れてるの初めて見た……よかったら今からウチらご飯行くんだけど、一緒に行く?」
「ちょっと冬夏?龍彦くんは渡さないわよ」
「分かってるってーの!ただ話聞きたいだけ、繭奈が壊れたの面白いから連れてきたいだけであって、別に蔵真に何かしらの感情とかないから」
「そう、それならいいけど」
「いや壊れたのくだりはツッコまないのか」
なぜかトントン拍子に話が進んでしまいついていけない。おかげで変なところにツッコミを入れてしまったではないか。
あまりに流れが急変しすぎてついていけない。
「間違ってないもの、突っ込むのなら龍彦くんの──」
「「分かったもういい!」」
その先を予想した俺と笹山が二人でソレを遮った。もう危ないよこの人。
ちょうどハモった俺たちは、思わず目が合って吹き出すように笑ってしまった。
「アッハッハ!……いや、人って見た目じゃないよね。なんか、アンタのこともっと知りたくなっちゃった。よろしくね蔵真」
「こちらこそ」
この短時間で随分と印象が変わったようで、いきなり彼女は握手を求めてきた。
それを無下にすることもないかと、握って返す。
「笹山さんも案外チョロい?」
「アハハそーかも!」
「ちょっと私を差し置いて二人の世界に入らないでくれるかしら?」
間に繭奈がいて、彼女が普段とは違う姿を見せているからだろう。
その特殊な状況が笹山の認識を変えたようだ。
友人ができるのなら、それを避ける必要も無いか。
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