-Sky is the Limit-
【可能性】
時代は目まぐるしく移り変わっていく
技術の発展は速く今では実現不可能と言われていた宇宙進出も日常的に行える時代を迎えた
けれどいくら技術が進化を遂げようと人類の欲望は更に貪欲さを増していく
夢の新時代
何が夢なものか
様々な惑星へ移り住んだ人類は欲望のままにその星の物資を喰らい尽くした
喰らい尽くしたらどうするか
今度は他の惑星を奪う
それが人類の行った選択だ
何も変わっていない
人類は再び愚かな選択を繰り返した
私はこの地球という星を離れる選択をしなかった
生まれ,死ぬまでこの地球という星で過ごしたかった
そして何よりこの地球という星の空が好きだ
その空を汚す者を許さない
「隊長,東部の前線が突破されました,私達に要請が来てます」
「分かってるわよ,私は先に行ってるから後から着いてきて」
新時代
それは戦争
ただ国同士の戦争から惑星同士の戦争へ変わっただけだ
私達のいる地球もその戦争に巻き込まれている
元々地球に住んでいた人類に攻撃を受けるなどと誰が想像しただろうか
人類は手を取り合って今まで発展してきた
それだと言うのに…
「行くわよ…ッ!」
「うひゃー…隊長はっやい…」
私が所属しているのは地球連合
地球を防衛する為の機関だ
その中でも私は地球本土を防衛するチームの隊長を務めている
『そっちの状況は?』
「今向かってます,でも私達に要請が来るっていうことは…」
『えぇ…宇宙側は一部の前線が突破された,ごめんなさい』
「そっちも頑張って,地上は私達でなんとかするから…!」
惑星間戦争は当然宇宙も含まれる
そしてその前線の一つが決壊し地上へ降りてきた
このまま侵攻を許せば地球そのものが危険になる
その為私達に与えられた力
地球全土へ展開出来る程の速力を持つ高機動型の兵装だ
敵はどこから降下してくるか分からない
要塞を構えたとしても効果は薄い
だからこそ私達がいる
「レーダーに反応あり…敵の数は……12体……宇宙の前線を突破してきたには随分と数が多いわね…」
防衛に当たる部隊は到着していない
最速で辿り着けるのは私達…いえ,私だけ
相手の数が多くても敵は宇宙から降下してきた
つまりその装備は宇宙戦の兵装だ
「敵が一機こちらへ向かってきます」
「地球防衛隊ってところか?全機戦闘準備,蹴散らしてやれ」
陣を組んでの迎撃体制
なるほど,そうきたのなら
「…真っ直ぐ突っ込んできます!」
「撃ち落とせ!!」
私は敵目掛けて真っ向から突っ込んだ
宇宙戦と空中戦の違いを見せてあげる
「馬鹿な!?避けただと!?」
真っ直ぐ突っ込んでくる相手に対して真っ直ぐな攻撃
回避するのは難しくない
それに"真っ直ぐ飛ぶ"程空は甘くない
「狙い撃て!接近を許すな!」
敵はすぐさま次の手へ移る
「何故だ!何故当たらない!?」
避ける
だが実際は避けている訳ではない
宇宙戦と空中戦の違い
地球には風がある
風
それは私にとって味方だ
ほんの僅かな風であってもそれは弾の軌道に大きく影響する
風のない宇宙戦では計算に含まれない
だから避けるまでもない
少し体を動かすだけで当たる事がないからだ
「ぐぁぁぁぁっ!」
一気に駆け抜ける
これが私の戦い方だ
敵へ接近しブレードで斬る
それの繰り返しだ
「撃て!撃てぇぇぇ!!!」
見たところ指揮官はあいつか
ならば指揮官を落とすまで
「地球へようこそ,ここに貴方達の居場所はないわ…ッ!」
「くそっ!こいつ…!」
私はこの地球で何年も戦ってきた
宇宙での戦闘をしてきたこいつらと
地球を捨てたこいつらとは違う
「指揮官は落とした,このまま戦闘を続ければ分かるでしょ?大人しく投降しなさい」
全て倒す必要はない
私一人でこのザマだ
このまま戦闘を続ければどうなるかくらい少し考えれば分かるはずだ
「隊長ー!遅れました!」
「って…どうやらもう終わったみたいですね」
「えぇ,一時はどうなるかと思ったけど楽勝だったわ」
死傷者0
敵もあくまで行動不能にしただけだ
何も命を落とす事もない
戦争はいずれ終わる
再び人類が手を取る可能性は0ではない
私はそう信じている
地球連合/本部
「12名確保完了しました」
「ご苦労,相変わらず大した働きぶりだ」
「はい,私達はその為に戦っています」
「しかし…どうして命を奪わない?」
「…殺す必要がありますか?」
「確かに殺す必要は必ずしもあるとは言えない,しかし敵は再び武器を手にして我々に牙を向けるとは思わないのか?」
「…可能性はあります,けれどそれでは戦争の終わりはいつまでも訪れません」
「ほう?」
「私達人類は遥か昔から一つでした,過去に戦争はあれど...宇宙進出を目指して心を一つにしてきました,それならばもう一度手を取り合う事だって出来るはずです」
「…君の考えも理解出来る,しかしそれがいつ訪れるか…」
「難しいでしょう,しかし諦めてしまったら全てが水の泡です,私はまだ人類を諦めてはいません」
人類は誤った選択をしているだけだ
それは歴史においても同じだ
けれどこうして地球は今も残っている
それは過ちを犯した人類がその過ちを気付き,正したからだ
今回の戦争も過ちを正す事ができる
その時が来るまで戦う
それが私の使命だ
「お疲れ様隊長,相変わらずの活躍ぶりですね」
「別に嬉しい事でもないわよ?私達が出撃しなきゃいけないってくらい宇宙の方は状況が芳しくないわ…」
「スペース・フォースの方も大変みたいですね…」
「えぇ,宇宙戦の兵装は地球にも技術はあるけれど他惑星へ移り住んだ人類の技術に比べて惑星間移動を考慮していない,宇宙開発は他惑星に比べたら劣っているからね」
「…いつまで続くんでしょうか…この戦争」
戦争が起こってからもう5年が経つ
宇宙の状況は悲惨だ
惑星同士の戦争という途方もない規模
国同士の戦争とは違ってその物資も豊富だ
戦争の長期化は始める前に分かっていた
それでも永遠に続く訳ではない
私達が勝利して手を差し伸べればきっと分かり合えるはずだ
「隊長,拘束した人達はどうしますか?」
「武装解除はしてあるから他の人と同じよ」
「わかりました,けれど危なくないですか?いくら武装解除しているとは言え本部を自由に動き回られては…」
「警報システムもあるし妙な動きをしたらすぐに分かるわ,それにあの人達も私達と同じ人間なの,扱いは変わらないわ」
ただ勝利するだけでは戦争は終わらない
戦争は正しく終わらせなければ次の戦争までの準備期間でしかない
憎しみや暴力では何も解決しない
優しさこそが戦争を止める唯一の手段だ
「お疲れ様ドクター,定期検診に来たわよ」
「おぉ…ちょっと待っておれ…確かこの辺にスリッパを置いたはずなんじゃが…」
「スリッパなら履いてるでしょう?今度は何?かけている眼鏡でも探すのかしら?」
「おぉ眼鏡も見つかったの,ありがとのぅ」
私達は鋼鉄の鎧に身を包んでいるだけでただの人間だ
厳しい訓練の末にそれらを使いこなせる様になっただけだ
その為私達は定期的に医師による検査が義務付けられている
人類がそれまで手にしていなかったものを使っているのだから自然な事だ
「体は健康的な様じゃな」
「体調管理も仕事のうちだからね」
「しかしこうしてワシがいつまでも面倒を見れる訳じゃないからのぅ…」
「爺さんだって健康でしょ?」
「確かに健康じゃ,じゃがワシはもう長くはない,分かるんじゃ,自分の命がいつまで続くかがのぅ」
「縁起でもない事言わないで,言ってたでしょ?また娘さんに会いたいって」
「あやつも地球を離れて随分と経つ…また会いたいものじゃ」
どんな気持ちなのだろうか
地球から離れて,その娘がその地球と戦っているのを見ている事しか出来ないのは
私達も命令が第一だ
けどその為に自分の家族の命を狙うというのは…
「……………」
「ワシは信じておるよ,お主達がこの戦争を終結させてくれると,じゃからワシは最期の時までお主達に夢を託しておるんじゃ」
「夢?」
「ワシらの未来,かつて人類は宇宙進出を目指した時に大きな夢を掲げていた,例え地球を離れようとも絆は変わらぬ,より大きな問題にぶつかった時に力を合わせて解決できる様にと」
「宇宙進出の計画はかなり急ピッチで行われたというのは話に聞いているけれど…」
「お主なら伝えても問題ないじゃろ,人類が宇宙進出を何故ここまで急いでいたのかには理由がある」
「…いいの?それって機密事項じゃ…」
「ワシもまだまだ現役じゃよ,権限は生きておる」
人類の宇宙進出
全人類が一丸となって宇宙開発を行っていた時代
私からしてみれば新しい時代の幕開けなのだと思っていた
けれどその実態は違った
宇宙は広い
それこそ生命が人類だけとは限らない
地球外生命体
所謂宇宙人は実在していた
宇宙人達は何光年も離れた遠い惑星に存在している
そんな宇宙人から送られた一つのメッセージが全てを変えた
宇宙は終焉を迎える
私には宇宙に関する知識はない
けれど宇宙崩壊というとてつもない問題は確かだ
崩壊を防ぐ為にも宇宙へ進出出来る人間,いや全ての生命体が力を合わせなくてはいけない
絵空事の様だがこれが真実である事
思えば腑に落ちない点もあった
人類が宇宙進出を目指してからかかった期間は2年ほど
あまりにも早すぎるのは技術の提供をされていたから
そして私達人類はこの太陽系で宇宙崩壊を防ぐ為の準備を行う
そうなるはずだった
それだというのに私達は地球を離れ,使命を忘れ,人類同士での戦いを始めてしまった
今となっては宇宙崩壊の事を語る者も少ない
このままでは宇宙崩壊を待つまでもなく私達人類は滅んでしまうだろう
「今は世界が…宇宙全体で手を取り合わなくては待っているのは破滅じゃ,しかしワシら人類は自らの手で崩壊を招いている,この問題を解決できるとすればワシら人類自身じゃ」
「宇宙の崩壊なんて規模の話…けれど事実なのよね…?」
「宇宙は原点じゃ,その核に当たる部分には所謂神と呼ばれる存在があるらしい,その神はこの宇宙全てを…いや,宇宙そのものと繋がっておるらしい」
「負の感情…それこそ私達の様に争う存在が増えていってしまったら…」
「崩壊は更に加速していく…との事じゃ,ワシらも当初は絵空事じゃと思っておったが知ってしまったらな」
「実際に見たの?」
「見たとかではないんじゃ,言葉で表せるものではなくてな…強いて言うのなら知った,というだけじゃ」
「そして知った者の使命…って訳ね」
「アイリス,お主なら分かるじゃろ?この世界は偶然ではない,幾つもの奇跡が重なり生まれたものじゃ,そしてワシらは更なる奇跡を求められておる,それは一種の可能性じゃ」
「可能性…」
「うむ,可能性に限界はない,あの空の様にのぅ」
今までの人類ならただの絵空事と吐き捨てたであろうこの宇宙
しかし宇宙へと進出した人類は更なる問題に直面した
宇宙全てが崩壊を防ぐ為に手を取り合う
人類は未だにそれが出来ていない
自らの欲望でこの有様だ
必要なんだ
人類を導く存在が
そしてその役目を担うのは誰でもいい
私だってそうだ
私だけが出来るじゃない
誰もがその役目を担わなければ実現なんかあり得ないだろう
今一度私はこの胸に刻み込む
かつては戦争を終わらせる為,私は戦う選択をした
けれどそれだけじゃ足りない
私達が真に戦うべきなのは自分達だ
人類が進む為には今のままではいけない
心を繋げ,手を取り合う
その為の戦いなんだ,私がしているのは
「隊長どうしました?難しい顔をして」
「あ…そんな顔してた?私」
「水くさいじゃないですか隊長,私達がいるんですから何でも話してくださいよ」
「…みんなは何の為に戦ってるのか教えて?」
「そりゃあ地球を守る為ですよ」
「私も同じ,けど私達の力はそれだけじゃない気がするの」
「うん?何か他の理由があるの?」
「私達に与えられたこの力,戦う為の力じゃないと思う事があって,人類は古来より飛ぶ事を夢見てきたじゃない?今はそれが実現している,これって凄い事でしょ?」
「飛行機とか?」
「もう茶々を入れないで,この翼を使い私達は自由に空を飛ぶ事が出来る,自由の為の翼なんじゃないかなって」
「自由の翼…ふふっ,人間の可能性かしら」
「そうですよ隊長,だからこそーーーー」
『緊急事態発生,各隊速やかに司令室へと集合せよ』
緊急招集
けたたましいサイレンが本部に響き渡る
何か問題があったのだろうか
地球連合/司令室
「集まってもらってすまない,先程敵の部隊が総攻撃を仕掛けてきた,既に交戦状態だが状況が芳しくない,増援部隊を送ったが一部の前線は崩壊して既に地球への降下を始めている」
「次から次へと…最終作戦ってところかしら」
「現在他の支部も迎撃部隊を送って地球へ降下してくる部隊への対応をしている状況だ」
「と言う事は私達も…」
「いや,我々は出撃しない,スペース・フォースが総力を上げて戦っている…が,いつ前線が崩壊するかは分からない,幸いにもこの本部の近辺に降下部隊はいない,その為我々は第二波に対する為の待機を命じられた」
「…他の迎撃隊は?」
「無論それも理解している,彼女達を信じるしかない,本部からもスペース・フォースへ増援を送った為戦力が乏しい,君達まで向かってしまったらここに防衛する力はない」
「見ているだけしか出来ないってのも嫌な命令ね…」
待機命令というのは建前だろう
実際はこの本部を失う訳にはいかないからだ
この本部には大規模な宇宙へと伸びる軌道エレベーターが存在している
これはスペース・フォースとの重要な繋がりを担っている
補給ラインを絶たれたら後は一気に崩壊する
つまり私達に与えられた命令はこの軌道エレベーターの防衛という訳だ
それを皆理解していた
何故直接的な命令を下さないか
敵はどこから見ているかも分からない
壁に耳あり障子に目ありという事だ
作戦が漏れる事は許されない
私達はそれぞれ防衛の準備へと当たる
出来る事ならこのままスペース・フォースが食い止めてくれれば良いのだけど
「……………」
前線では起こっているであろう戦い
反面こちらは嫌なほど静まり返っている
胸騒ぎがする
敵の狙いがこちらの壊滅ならば何故わざわざ他の支部へ降下をしたのか
軌道エレベーターを破壊すれば補給ラインが絶たれ宇宙側は壊滅的な被害を受ける
狙うのであれば軌道エレベーターがあるここの本部を狙うのが自然だ
偶然突破した前線が他の支部に近かったから?
そうだとしても降下した後にここの本部を目指さなかった理由は何故?
「……ツッ!!」
そうだ
見落としていた
送る必要がないからだ
何故ならここには既に"送り込まれている"
先程私達が迎撃した部隊
過去にも幾つかの部隊がこの本部へと送り込まれている
しかし隊を率いている私は誰一人として殺してはいない
反抗作戦の為の隊員の数は十分過ぎる程存在している
恐らく敵はその情報を手にしている
そこから考えつく最悪の事態
「そんな…っ!!」
ドッグへ辿り着いた私の目に映ったのは作業員達の無惨な死体だった
もっと早く思いついていれば防げたと言うのに
「全員ドッグへ集まって!敵はこちらの武器を奪って軌道エレベーターを破壊しようとしている!」
『えぇ〜!?どういう事ですか!?』
「見落としていたわ…警報システムの穴を…宇宙からの緊急事態を知らせるアラートは何よりも優先される,それに被せる様にこちらのドッグを敵は襲撃した,警報は作動しているけれど本部からは優先されたものしか映し出されない…!」
軌道エレベーターの破壊は何としてでも防がなければならない
幸いにも敵はまだここを襲ってから時間は経過していない
「こちらアイリス,司令官,スフィアの起動準備をお願いします!」
このドッグからの出口は一つしかない
一度この本部の外の空域へと出てから軌道エレベーターへ向かうには時間がかかる
そして軌道エレベーターも脆くはない
私達の装備で破壊は困難を極める
しかし数次第ではそうも言っていられない
「行きましょう隊長!」
「グラインダーセット,カタパルトスタンバイ,射出!!」
私達の出撃に合わせて拠点防衛用のスフィアが起動される
一時的に外部との繋がりを完全に遮断するシールドだ
これで敵もこちら側へ手は出せない
「ちっ…もう追ってきやがったか」
「大人しく投降すれば命までは奪わない,私達人類同士で争うなんて意味がないでしょう?」
「人類同士だから争うんだよ!!!」
やむを得ない
今回の戦い,可能ならば命を奪いたくはないけれどそうも言っていられない
100%で一気に片をつける
空での戦いならこちらの方が有利だ
「はぁぁぁぁぁっ!!!」
「かはっ……!」
やっぱり敵の練度は高いけれど今まで宇宙戦をしていた部隊だ
こちらの動きについて来れていない
けれど…
「多いわね…大丈夫?」
「はぁっ…はぁっ…まだいけます…!」
「私もまだやれます!!」
明らかに無理をしている
私達はただの人間だ
数の差がここまであると流石に厳しい
私が何とか突破口を開かないと
「ぐっ…おらぁっ!!」
「くっ……」
このまま長期戦になれば不利だ
仕方がない
本当はやりたくはなかったのだけど…
「ぅ………」
「……………」
確かに伝わる腕の感触
私の手に持つサーベルが相手の体を貫いた
峰打ちじゃない
確実に殺す一撃だ
「あいつ…殺さない筈じゃ…!?」
嫌な感覚だった
他人の命を奪い取る感覚が私を襲う
仕方のない事
それだけでは到底片付けられない
けれど今は…
「ぐぁぁぁぁ……!」
「くそっ!!話が違うじゃねぇか!!」
敵の動きに焦りが見える
殺される事はないだろうと油断していたみたいだ
隙を見せれば崩れるのは容易い
私はひたすらに命を奪った
狂っているだろうか
本当にこれが正しいのだろうか
私は…
「貰った…!」
「…!はぁっ!!!」
「くそっ!ウィングが…う……うわぁぁぁぁぁあ!!!!」
急所を外した
私の放った一撃は敵のウィングを破壊し落下していく
この高度から落下したら命はない
「くっ……間に合え……!!!」
手を伸ばす
助けたい
そうだ
誰だって殺したくないはずだ
この手が届く距離にいる命は失いたくない…!
「…………」
「はぁっ……はぁっ……よかった……」
「あぁ…本当によかった…あんたが俺を助けてくれたおかげでな」
「え……しまっ」
「……ちょ……………た…………隊長!!!」
「………………」
「良かった…気がついたんですね…!」
「私……一体……」
「敵が自爆してそれに巻き込まれたんです…良かった…生きてて……」
「痛っ…!……あの後……どうなったの………?」
「残りの敵は私達が…他の支部への攻撃も防衛に成功しましたけど…スペース・フォースは…」
「……………」
あの時
私は助けた敵に自爆を受け重傷を負ったらしい
気づけばあれから3日の時間が経っていた
もう助からないだろうと,それ程までの重傷だったらしい
まだ体の感覚がおかしい
「目を覚ましたところで悪いのじゃが…残念な知らせがある」
「ドクター…何?私は戦えないって知らせ?」
「いや…そうじゃない,体は無事に治った,もう2.3日休めば戦闘を行えるくらいには回復するじゃろう,問題は装備じゃ」
「私の…私の試作型高起動装備丙型に問題が…?」
「うむ…自爆の影響で命が助かった理由じゃ,じゃが損傷が激しく直す事も出来ぬ」
「それなら…私は普通の装備でも…」
「無論それも良いじゃろう,じゃが選択肢はもう一つある,宇宙へ行くつもりはないかのぅ?」
「宇宙へ…」
「聞いての通りスペース・フォースの戦況は悪い,この本部からの増援部隊もその大半が撃墜されておる,今スペース・フォースは打開の一手を求めておる」
「けれど私は今までずっと空中戦しかしてこなかった…私が行ったところで宇宙は空と違う…」
「うむ,確かに宇宙と空での戦いは違うじゃろう,じゃが空である事に変わりはないぞ」
宇宙
空を超えたその先
私が今までにいた戦場とは違う
けれど私は宇宙へと上がる事を選んだ
私の体が回復するまでの3日
急ピッチで私の装備が仕上げられた
「随分と今までの装備とは違いますね」
「そりゃそうじゃろう,これはワシの宝物じゃ」
「ドクターが…?」
「…本当は娘にこの装備を託すつもりじゃった,不完全だった為渡しそびれたがのぅ」
「そんな大切なもの私には…」
「良いのじゃ,ワシにとってお主はワシらの未来,夢じゃ,この力で導いておくれ」
「……ありがとうございます,ドクター」
「いや〜隊長が宇宙へねぇ〜」
「貴女達…」
「まぁ見送りっていうかー?なんか挨拶しとかないと隊長拗ねそうだなーって」
「はぁ…そんな事で拗ねる訳ないでしょ,けどありがとう」
「こっちの事は私達に任せてちょうだい,隊長」
「次の隊長は貴女でしょう?」
「私達にとって隊長は隊長ですよ」
「…じゃあ行ってくるわね,任せたわよ,Sky is the Limit」
「例え離れていても一緒ですよ,私達は」
Sky is the Limit
私達の部隊の名前
空の様に限りなく限界はない
私達の名前に込められた意味だ
限りなく続いていくこの大空
私はこの空が好きだ
私達人類の可能性は無限大だ
この空の様に
今のこの状況
人類同士での戦争は必ず終わりを迎える時が来る
いや,必ず終わらせてみせる
私はその為に宇宙へと上がる
自分にしか出来ない事はない
けれど自分に出来る事は精一杯やるつもりだ
例えそれは戦場が変わったとしても同じだ
私が飛ぶ戦場が空となる
人類の可能性を私は信じたい
その為の力なのだから
『よぉルーキー,地上のネームドだろうがここではあんたはルーキーだ,その腕前見せてもらおうか』
『はっはっは!俺たちゃ運命共同体だ,志すものは一つ,生きて帰ろうぜ!地球へ!』
『新入りに圧をかけないでよあんたら,ごめんなさいねうるさくて』
「いえ,大丈夫です,行きます!!」
可能性は誰にだってある
この戦いの先に必ず平和な時代が訪れると私は信じる
そしてこの戦いはその為の戦いなんだ
もう誰も無意味に命を落とす必要はない
この戦争を終わらせる事が私に与えられた使命であり可能性だ
私の名前はアイリス
この空に生きる人間
そして限界まで私はこの空を飛び続ける
果てのその先まで
-fin-
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