第34話 悩み
時計の針が進むのを何度も確認し、待ちに待った診療の時間になったのを機に、俺は図書室から借りてきていた分厚い本を閉じた。
こんなに診療時間を待ち焦がれたのは初めてだ。
「時間なので行きます」
「ああ。では、明日」
執務中の王様に切り出すと、眉頭を揉みながら書類から顔を上げた王様は、洸哉の顔を見て
王様のやってることは横暴だが、俺にだけ見せる優しい顔に、つい絆されそうになる。
だが、治療師として役に立ちたいのとは全く別の、『恋人役』に戸惑う自分がいた。
いくら、王様が直面する問題に同情の余地があろうとも、いくら王様が男から見ても抜群の容姿を持ち、背も高くて地位も完璧で、目を奪われるような存在であろうとも。
王様は男だ。男の恋人になんかなれるか。俺は女の子じゃない!
確かにこの世界は、男同士の恋愛に寛容で、男同士のカップルも少なくないらしいが。
以前の世界でも、少しずつ性の多様化が認められて来ていたとはいえ。
俺は淡白だったとはいえ、女の子が好きだった。王様に惹かれてなんかないはず……だよな。
何だか、色々わからなくなってきた。
執務室から出て行く俺を、手を止めたまま見送る王様から目を逸らし、一旦団室に戻るために廊下を進んだ。
「遅かったわね。メイリーン様をお待たせすることはできないわ。急いで行きましょう」
「ごめん。記録は俺がするよ」
団室の前で待ち構えていた2人と合流し記録用の冊子をマリアンから受け取る。
ダレスと3人でメイリーン様の部屋へ急いだ。
部屋の前で警備をする騎士に取り次いでもらっていると、扉が中から開き慌てて横に避ける。 貴族だろう衣装にマントを付けた男の人が出て来た。
咄嗟に俺たちが揃って頭を下げる間に、グレーの髪をした、地位の高そうな男は1人の供を連れて歩き去った。
「お待たせしました。どうぞ中へ」
侍従長に招き入れられた部屋では、寛いだ様子でメイリーン様が座っていた。
暫くぶりにお目にかかるが、顔色も以前に戻られ、笑顔が眩しい。
「午後はマリアンと、ダレスね。ごきげんよう。後ろにいるのは治癒魔法使いのコーヤかしら。その節はありがとう。おかげですっかり良いのよ」
お声にも力が戻っている。体調が良い証拠だ。
「ご無沙汰してしまいましたが、お元気になられたようで何よりです」
「陛下と一緒に、ミダリル辺境伯の城に行かれていたのですって? 羨ましいわ。国境はどんな所なの? 私も一度行ってみたいのだけれど、お兄様が許してくださらないの」
どの世界でも若い女性の特徴なのか、表情がコロコロと変わる。しゅんと項垂れるお顔も愛らしい。俺が返事をするよりも先にマリアンが反応している。
「王様はメイリーン様のご体調を心配なさっているんですよ。しっかり治したら連れて行ってくださいますわ」
うん、それはどうかな。
「まずはご体調を安定させませんと。診療を始めますね」
ダレスに思わず助けられ、早速、問診する2人の診療記録を取り始める。
だが先程、部屋から出て行った人物のことが気になっていた。
王様にも、王宮にも敵が紛れている可能性を注意されている。
王妹様に近づく貴族の男か。王様に聞いてみようかと悩む洸哉だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます