第15話 異世界の魔法

 みんなと別れたあと、私は明日どこへ行くかを考えていた。


 う~ん。ここは無難に今流行りのカフェとかかなあ?

 カラオケとかボウリングみたいな娯楽施設があればよかったけど、日本と違って異世界のこっちにそういうのはない。


 私の好みか。

 そういや、岩下真帆だった時はよく猫カフェに行ってたっけ。


 部活もバイトもしていなかったし、特に打ち込んでいることがあったわけでもないんだよね。


 それはリーシャ・リンベルとなってからも同じ。

 前世の記憶を思いだしていなかった私も、特に趣味はなかったからなあ。

 魔獣の森で、動物と戯れていたのが趣味になるのかな?

 あとは両親の仕事を眺めているのが好きだったな~。


 ん? 両親か。


 よし! 明日はみんなを連れて両親が働く冒険者ギルドに行ってみるかな?


 それがいい、そうしよう!


 そう思って女子寮に入ろうとしたら、背後から人の気配が⁉


「うわっ!」


「失敬、リーシャ殿でしたら驚かれないと思ったのですが」


 低くて渋い声が耳に届いてくる。


「いえ、爺やさんだってのはわかったんですが。……そのう、髭の生えたメイド服を着たジイさんって見慣れなくって」


 しかも羞恥心なしで堂々としているし!

 ガーターベルトに絶対領域の露出したすね毛有りの太ももが、不気味さを増大させているんだよ!

 この変態がああああああ。


「そのうち見慣れますので、大丈夫でございます」


 淡々と言われても見慣れたくないぞ、ジイさんのメイド服姿なんて。


「私に何か用ですか? 私に話す前に、ソフィアに通さなくて大丈夫なんですか?」


「はい、時間がかかってしまいましたが、例のテスト勉強の時の謎の問題文の件でございます」


 ほほう?

 あれの犯人がわかったとなると、勇者と結びつけて考えていけるかも。


「誰だったんですか?」


「……残念ながら誰かまでは。ただ、魔法が使われた形跡を発見いたしました」


 魔法ねえ。

 異世界ならそりゃ魔法ぐらいあるだろうし、それじゃ何もわからないと一緒かな?


「ありがとうございます。つまり誰が犯人かわからないってことですよね。お手数おかけしました」


 ガッカリして女子寮の扉に触れる私だったけど……


「魔王が勇者に殺されて以降、魔法を使用できる人間は存在しません。リーシャ殿は、魔法を使用できる人を複数知っておられるのですかな?」


 なっ!

 たしかに言われてみれば、魔法を使う人を転生後に見たことがなかったかも。

 アンゼリカちゃんは、この世界とは別次元に存在しているみたいだし。


「もし魔法を使用できる者がいるとすれば、魔王か、魔王を倒した勇者に該当する存在がいることになります。魔王でないとすれば、勇者ですかな?」


 爺やさんの言葉に驚きを隠せない。

 魔王が殺された後、この世界で魔法が使えなくなったというのは重大な情報だ。


 ということは魔法を使った者が爺やさんの予想通り、まさに勇者の転生体なのか?


 まずったな。

 私の反応は、魔法使用者が大多数いるのを前提としていた内容だった。

 奇異な目で爺やさんが見てくるのも当然だ。


「例の問題文が掲載された紙ですが、魔法の質から察するに、テスト勉強をしていたソフィアお嬢様たちの誰かからの範囲でしか発動できないでしょう」


「それってつまり?」


「魔法を使える人物が、あの時に存在していたということなのでございます」


 魔法……か。

 勇者が魔王を殺したら魔法が使えなくなった理論もよくわからないけど、そんな世界で魔法を使える存在。

 魔王だったという私じゃないのは確定なのだ。

 なら、勇者の可能性がめちゃくちゃ高いだろう。


 爺やさんの言葉を聞きながら、私の中で様々な感情が渦巻いていた。

 驚き、恐れ、そして決意。

 勇者の存在がより現実味を帯びてきたことで、私の危機感も同時に強くなっていく。

 しかし、その一方で友人たちへの疑念を抱くことへの罪悪感も感じずにはいられなかった。


「そうですか……ありがとうございます」


「いえ、お役に立てて何よりでございます」


 言い終えると消える、爺やさん。


 この爺やさんも一体何者なんだろう。

 ソフィアの執事が本職とは思えない。

 この問題を調査している真の理由が気になる。

 彼もまた何か隠し立てしているのかもしれない。


 でも貴重な情報をありがとう。


 絶対、役に立ててみせる!


 この情報は間違いなく重要だ。

 みんなの中に勇者の転生体がいる。

 私は絶対に見逃さない。

 前世で殺されたことを許すはずがない。

 絶対に見つけ出してボコってやる!


 新たな情報を得て友人たちへの見方が少し変わってしまったことへの戸惑いと、真実を明らかにしたいという強い思いが交錯する。

 明日の集まりが単なる楽しい思い出になるのか、それとも大きな転機になるのか。


 その答えを求めて私は女子寮の扉を開けた。


 ***


『リーシャ・リンベル


 年齢 16歳 王立学校1年生

 容姿 黒髪 貧乳 身長普通

 身分 平民

 能力 人誑し 魔獣誑し 大抵は力でなんとかなる

 性格 真面目だが考えなしに行動する癖がある

 人生 3度目

 目的 前世を殺した勇者を探してボコってやる!』

 

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