第17話 敗北

 何か違和感を覚えた。音無おとなしへ刀を振るっている中、感じた違和感。それに従い無理矢理、空中に張り巡らしたワイヤーで軌道を変え、奴から距離を取った。


「お?バレたか」


 音無の悪戯がばれたような声を聴きながら奴の周りを把握する。あったはずのワイヤーの幾つかが切られている。


 あの位置……誘ってやがった。あのまま行ってたら脱落していたな。クソッ!見落としてた。見えても、それを処理する側が気づけなきゃ意味ないの典型じゃねぇか!それにいつ斬られた?!


 ワイヤーを足場に加速し、音無へと斬り込むが、そのすべてを音無は捌き、避け続ける。


 クソッ!掠りもしねぇ!考えろ、あほみたいに速く斬られたわけじゃねぇ。出来んなら俺が離脱する前に斬ればいいんだからな。なら、別の方法があるはずだ。それは分からんが、それなら賭けが成立する。

 

 考えをまとめ、その一点に向けて自分を研ぎ上げていく。加速した身体あたまが最適な位置、タイミングを導く。更に速度を上げ、更に深く斬り込む。パターンとリズムを作り、空中での姿勢を安定させ、更に加速。最高速での斬り込む。何度も、角度を変え、軌道を変えて突っ込む。だが、パターンとリズムを読まれ、音無の正面から突撃となる。突撃に合わせ薙ぎ払われる剣。でも――

 

「――来た」


 この位置、頃合い、完璧。


 足を引っかけ急停止。コンマ数cm先を振るわれた剣先が奔る。ワイヤーを引き、蹴り再加速。振りかぶった剣を振るおうと瞬間、俺の意識を断つような衝撃が頭を穿つ。頭から大きく横へ吹っ飛び、木にぶつかりようやく止まる。視界は、揺れ、右半分が赤く染まる。足には力が入らず、吐き気が襲う。

 

 殴られた、こめかみ?足に力、が入らない。まだ、失うな。音がうるさいな。


 ゆっくりとこちらに歩いてくる音無を見ながら、四肢を動かす。刀を杖にして、今にも崩れそうな体を支える。


「うおっマジか。まだ、意識あんのかよ。意識刈り取ったつもりだったんだけどな」


「……」


 何か言ってた?いや、いいや。何してたんだっけ?


「ま、ここまでだけど。お疲れさん。新入りにしちゃ上出来だよお前さん」


 音無の剣を振るう姿が、あいつと重なる。どこからか何かが燃える匂いがする。血が顔を濡らす。


 死ぬ?こいつは――。そうだ。殺さないと。コイツヲコロサナイト。


 ――――

 嫌な予感。今まで、音無を生かしてきた勘が危険信号を激しく鳴らす。今すぐ、排除しろと訴えかける。


 「ッ⁉」


 音無は無理矢理に剣を止め、鳩尾を殴る。


(チッ!断ち切れなかった!)


 無理な体勢で殴ったのもあり、つのるは僅かに意識を保つ。腹を体が折れ、頭が垂れて無防備になった首へ柄頭を落とし、僅かに残された意識をこ削ぎ取る。焦燥感に染まった顔で気を失った募を見下ろす。


(まずかった。今のは本気で……今ので落とせてなかったら、俺が死んでたな)


 意識をしなったのを感知し、募の端末が起動し、地面に沈んでいく。そうするとすぐにアナウンスが流される。


「明石家 募脱落。医療班は、至急、明石家 募を回収し、治療に移ってください。以上です」


「さて、2人に合流するか。これ邪魔だなぁ」


 音無は、剣を鞘に納め、ワイヤーを避けながら森の中を歩きだす。

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