第10話 役割
「奴隷であるアナタを勝手に所有すると、私達は罪人になってしまうの」
そうか・・・私は売り物で、それを勝手に連れていくのは法律違反か何かなんだ・・・。
この人達に連れて行ってもらうということも、相手からすればただ狼に襲われたのを自分の手で何とかできないような力のないお荷物を引き取るだけだもんね・・・。
これはしょうがないこと・・・なんだけど、今この機会を逃すと私がこの世界を生きる力を手に入れることはもう出来ないかもしれない・・・。
さっきの出来事でハッキリとわかった。
この世界の命は私が居た日本よりも軽い。
誰かが死んでもそれが国全体で報じられるようなニュースになったり、それを大人数で捜査したりなんかしない。
だからこの世界を私の様な人間が生きていくには、力が必要なんだ。
そう思ったからこそ彼女達と同行させてもらおうとしたのに・・・断られちゃった・・・。
私これからどうしよう・・・どうやって生きていけば・・・。
私の願いが却下され、これからの生き方、進む道が
「だからこういうのはどう?」
「え?」
落ち込み俯く私に、カデナさんは少し明るい声で話しかけてきた。
状況に似合わぬそのトーンに素っ頓狂な表情で顔を上げてしまった私に、彼女は「フフッ」と笑ってから続けた。
「私達がアナタを買うの。ねぇみんな。ウチのパーティーの攻撃陣は大雑把な攻撃ばかりだと思わない?剣士の彼女ならその弱点を補えると思えるのだけど。どうかしら?」
さっきまでどん底だった私に突然訪れた朗報に感情が追いつかなくて表情を変えられないまま横に居たアンさんの方を向くと、彼女も先程のカデナさんと同様に少し笑ってから、
「いいんじゃないか?大雑把と言われて少し思うところもあるが、たしかにハンナとアタイの斧は避けられることも多くあるというのもたしかだ」
「そうだな。細かい斬撃で牽制してくれる人材は前からほしいと思っていた」
斧使いと自己紹介の時に言っていたアンさんだったけど、ハンナさんも斧を持っているからきっと二人共同じジョブなのだと思う。
二人は私の表情をおかしそうにしながらも賛成してくれた。
「オイラはカデナがいいのなら反対はしないよぉ。ちょっと前が多くなると後ろが大変になるけどぉ、そこはカデナとの立ち回りでなんとかするさぁ」
「俺が一番二人の大振りに苦労していたからもちろん反対などせんぞ」
カデナさんとイラーガさんは二人共弓を持っているから後衛なんだろう。ジェズのおじさんはおっきな盾を持っているからみんなを守る役割なのかな?
最後の二人も反対しなかった・・・ということは・・・。
「これで満場一致ね。アナタは私が購入するから、このパーティーで働きなさい。いっておくけど、私達は結構厳しいから覚悟しておいてね」
そういって私にウィンクをする。
パーティー加入を受け入れてくれたということに、私はつい嬉しくなって気が付いたら目から涙が零れ落ちていた。
「あーあ、カデナが泣かしたー」
「脅かすようなことを最初にいうからだ。私は最初からいいと思っていたぞ」
「嬢ちゃん、辛いことがあったら俺達に言えよ。カデナはああ見えてかなり鬼畜な要求をしてくるぞ」
「お前も学ばないねぇ・・・。オイラはしーらねっとぉ」
「ジェズぅ?アナタはちょっとこっちに来なさぁい、話があるわ。ついでにこないだの件もゆーっくりと話し合おうじゃなぁい?」
後ろから頭をカデナさんに鷲掴みにされたジェスおじさんが引きずられていく。笑顔なのが逆に怖い。カデナさんだけは怒らせないように気をつけよう。
「あいつは毎回同じことやるけど・・・あれって狙ってるのかね?」
「さぁねー。二人っきりになる口実なんじゃない?」
「おーっと、野暮なことはぁ言っちゃぁいけねぇよぉ」
なるほど。つまり二人は・・・。
まぁ男女が行動を共にしていたらそういうことになるのは普通よね。
でもカデナさんは若そうなのに、あんなおじさんが好みなんだ。私も年下はダメだけど、あんな年上はちょっとなぁ・・・。
こうして私はカデナさんが率いるパーティーの六人目として受け入れてくれることになった。
奴隷として買ってもらうからには働いて返さないといけないけど、きっと一人でいるよりは頑張れると思う。
みんな優しいし、仲良さそうだしね。
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