二十四話

 テントを出て、そして改めて自分の事を考える。

 きっと、このタイミングでしか考えることができない事だ。


 まず大前提として、僕には使らしい。

 これは紛う事ない、事実だ。


 超能力、基本的にはスキルヴィング使用者が用いるスキルヴィングに由来する能力とされているが。

 僕が使える超能力は、スキルヴィングに寄与しない僕自身の力だろう。


 その能力名、もし名を付けるのならば『愚かな驢馬エセル・トラグト』だろう。

 何せ発動した時に、僕が無意識に叫んでいるようだから。


 その能力の正体は全く分からない、ただ一つ分かるのはこれを使えば僕は窮地を脱することだ。

 死ぬような、いや実際に死んだだろう窮地が奇跡的に逃れられる。

 これはそういう能力に違いない、最も謎の確信があるだけだけども。


 その他に、この能力によって僕は異常な再生能力を保有している気がする。

 いや、違いない。

 僕はあの戦闘で掌を傷つけた、ソレこそ何度も何度も。

 出血量を冷静に考えれば大凡3リットル近く、最も正確に測ったわけではないが確かに僕は3リットル近く。

 最低でも1リットル以上の血液を、僕は流出していたはずだ。

 なのになんの違和感もない、これは明らかな異常だ。

 だから僕には、常識で考えられない再生能力を得ているという結論に至っている。

 そして、さらに推論を重ねるのならば僕がスキルヴィングを扱える理由もこの超能力が関係していると考えられた。


「……まず、間違いなくあの老人の吸血鬼とアナスタシアは僕の超能力を知っている」


 老人は僕を見て『シーカー』と言った、アナスタシアは僕に対して含みある発言を行ったりしていた。

 間違いない、彼らは僕の力を知っている。


 だが謎なのは、僕が吸血鬼でないことだ。

 いや、正確にいうのならば吸血鬼特有の吸血衝動がなければ血液検査でも人間だった。

 体温が恒常的に高いという症状はあっても、僕は初めて超能力を使ったあの時から一切の変化なく人間である。

 少なくとも、再生能力や超能力が使えるのを無視すればの話ではあるが。


「聞くべきなのか……? けど、相手は吸血鬼だぞ?」


 地下では何をトチ狂ったのかアナスタシアを助けたが、よく考えれば彼女も吸血鬼だ。

 ならば殺す他に一切の理由がない、そうするべきだ。

 吸血鬼は討滅すべき存在であり、人間の世界に不要な代物。

 逆に、地下で助けた僕が間違っている。


 コホン、少し物騒な思考になった。

 まぁ、老人はともかくアナスタシアは悪い人間? 吸血鬼でもないだろう。

 話し合いもできるし、状況によれば協力も不可能ではなさそうだ。

 地下で再度、出会うことがあれば是非とも僕の力に関しても聞きたい。


「……ってそうじゃない、あの美貌に惑わされるな……!!」


 一応は吸血鬼と名乗ってるんだ、もしかすれば油断させる方便かもしれない。

 ああ、あの時に拘束しとけばよかった。

 というか伊勢さんも僕も、結構緩い対応をしたなぁ。

 いや、拘束というか戦闘行為をすれば負けてた可能性もあるのか。

 吸血鬼相手に戦闘行為は死亡行為だし、命があると考えれば結果オーライなのか?


 何も分からない、なのでとりあえず思考を放棄しよう。


 ともかく、僕がしたいことはある程度整った。

 とりあえずあの老吸血鬼は倒す、あれは明確に害意や悪意を持って対応している以上殺すべきだ。

 その上でアナスタシアを発見したら、できれば事情聴取を行うのがいいかもしれない。


「ああ、あと超能力を報告するべきか否か……」


 いや、報告する必要性はないと思う。

 勿論、これが外部に分かりやすく出力される能力ならば報告すべきだろう。

 けど症状というか、目に見えている効果は全て幸運の一言で片付く。

 そんなものを報告すれば、おそらく戯言と処理されるのが当然だ。


 とはいえ、再生能力の限界は知りたい。

 僕の再生能力は相当高いのは間違いないだろう、改めて地下での事を思い返せば相当な怪我を負っているはずなのだ。

 筆頭として、伊勢さんに傷付けられた腕。

 改めて見ると、一切の傷がなく生まれたままの姿を晒している。


 掌、何度も何度も傷を付けたはずなのに一切の傷跡がない。

 体にあるはずの打撲跡や、服の傷により導かれる体にある筈の傷も一切存在し得ない。

 明らかに異常だ、人間の常識の範疇を大きく上回っている。


「……試す、べきだろうけど?」


 掌にスキルヴィングを向ける、同時に血液が沸騰したような感覚を覚え。

 僕は思わず、スキルヴィングを手放した。

 できるわけがない、そんな自傷行為。

 ナイフで切り裂くが限界、いやソレですら僕は怖い。

 スキルヴィングで手を撃ち抜くのは、あまりにも無謀だ。

 再生する保証がない、ソレに骨が壊れ風穴が開けば流石の最先端医療技術とはいえ再生は不可能だろう。

 そんな危険な行為をしてはいけない、人間の常識として。


 地面に落としたスキルヴィングを広い、小さくする。

 そのままネックレス状になったスキルヴィングを首にかけ、僕は額の汗を拭った。

 怖かった、間違いない。

 あの戦っている時の昂りはない、普通に死の恐怖を感じていた。

 息を深く吸い、吐く。

 結構普通の学生をしていたかと思えば、今は命のやり取りをするほどになるなんて。

 そんな感想が僕の心を刺す、そしてその感想を僕は無視した。


「頑張るか、色々と」


 もしくは頑張るしかない、か。

 帰る道はない、もはや。

 進み続け、その果てに見つかる答えを探すしかないのだ。


「ひ、柊ちゃんっ!!」


 小鳥遊さんの声が聞こえた、僕は振り返る。

 返り血を全身に浴び、少し戸惑ったような笑みをあげる彼女がそこにいた。

 僕は、少し足を止めて。

 だが気持ちを新たに、足を歩める。


 目的は決まった、クラートとしての目的は魔徒の骨の髄まで滅殺すること。

 では僕の、柊 真琴としての目的は? これまた単純だ。

 僕は僕の、僕に宿る超能力の正体を知ること。

 これこそが、僕自身の目的である。


 目的が明確になったことで、僕の中で何をするべきかという思考がまとまった。

 これだけで、心が随分と楽になった気がする。

 そして改めて、僕は相当な特異点という自覚が出来始めた。


 再生能力一つをとっても異常だ、ソレに特殊能力というか超能力が奇跡を起こすというのも曖昧すぎる。

 もう少し、この能力を解明する必要もあるだろう。

 やることが多すぎる、だがそのやる事を目の前にして僕は少し以上にワクワクしているのは間違いない。

 スキルヴィングを触る、あらためて恐怖を覚えつつ。

 ソレでも進む、前進していることが理解できた。


「あ、あのもうすぐ作戦会議をするって。だから、その……」

「分かりました、すぐに向かいます。あと、ちゃん付けはやめて下さい」


 何故か知らないがちゃん付けされているがソレは無視、僕は改めて心機一転し少し晴れやかな顔でテントに向かう。

 外は曇天だ、今にも雨が降りそうな空。

 だけど今の僕には、どこかその曇天も思ったよりいい天気のような気がする。


「にゃ、生贄木偶の坊。遅いにゃ、タマとるにゃよ?」


 ごめんなさい訂正します、全然いい天気じゃないです。

 というか曇天がいい天気ってなんなんだよ、過去の僕!!

 曇天は曇天だ、いい天気な訳がない!!

 そんな単純なこともわからないのか!? 僕!!

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