第38話 風竜は風流じゃない

 99階層までは虫系のモンスターだったが100階層はやはりドラゴンだった。しかも風と雨を操る、いわゆる【暴風雨竜テンペスト・ドラゴン】だ。


さてこいつに彼女達はどう戦うのだろうか?


俺はギリギリまで手を出さない。ここは2人の踏ん張りどころだ。


「さあ見せて見ろお前たちの生き様を!」

「承知!」「任せて!」


ドラゴンの攻撃は熾烈を極めた。横殴りの雨と風、木の枝や葉っぱがぶつかって視界を奪う。防御結界を張っていなければこれだけで半分のHPをうばわれてしまうだろう。

更に吹き飛ばされないように踏ん張らなければならない。

その上で攻撃の行動を起こさなければいけないのだ。

ドラゴンは更に竜巻を起こして俺達を巻き込もうとする。


飛ばされまいとがんばっていたが体重の軽い紗耶香が巻き込まれて飛ばされてしまった。紫苑は見た目と違って重いんだよねアンドロイドだから。それでも一応女の子だから口に出して体重が重いなんて言わないけれど。


その時紗耶香は思い切った行動に出た。

風の流れに乗って回転する速度を上げてドラゴンの視野から外れたと思った瞬間ドラゴンの後頭部に転移してドラゴンの首に切りつけた。

俺が作って与えた日緋色金の刀の切れ味はドラゴンの首の3分の1くらいしか切れていない。いくら切れ味抜群の日緋色金の刀でも使い手の技量によって切れ味が変わるのだ。


が、その時だ、ドラゴンが苦し気な咆哮をあげると沙耶香に雷が落ちた。

「キャッ!」慌てて紗耶香は刀を手放した。雷は今度はドラゴンの首に食い込んだままの刀に落ちて、ドラゴンは自分の放った雷で自分に大きなダメージを与えていた。


俺はその光景を見て驚いていた。俺がここに来たときはドラゴンが雷魔法を使わなかったからだ。使ったのは俺の方だったのだ。

(ひょっとしたらこいつ進化してる?学習したのか?)

別のA級ダンジョンに行った時は気を付けないといけないな。


紫苑の為にボスドラゴンがリポップするのを待った。


リポップしたドラゴンだったが情け容赦ない紫苑の1撃でボスドラゴンは首を切り落とされて息絶えた。


自分が1撃で倒せなかったのに紫苑が簡単に倒してしまったのを見た紗耶香の負けじ魂に火が付いた。

「私が1撃で倒せるようになるまでここで修業させて!」

まあ良いだろう。何事も経験だ。納得がいくまで色々とやってみるが良い。


リポップを待っているとさっきよりも随分早くリポップするようになった。紗耶香が何度か挑戦していくうちにとうとう1撃でスパッと首を切り落とせるようになった。大したものだ。


そこからが大事おおごとになった。ここでも倍々ゲームで次々とラスボスがリポップする。紗耶香と紫苑で相手する。


えげつないラスボスの出現率だ。風流の欠片も無い。

それでもコツを掴んだ2人の戦いぶりは見事だった。

既にS級の実力を持っている。

出会ったばかりの時のメアリーと恵よりも強いと俺は見た。

だがまだ2人はA級止まりだ。後4か所のA級ダンジョンを踏破しないとS級には上がれないんだろう。

こうしてみると日本のダンジョンは他国よりも難易度が高そうだ。

とんでもない量のドロップ品をゲットして紗耶香は満足そうだ。

昨日までC級収集人だったのに今はもうA級収集人なのだから、喜びもひとしおだろう。


そこのダンジョンで1泊して次のA級ダンジョンに行くことにした。

そう言えば【風竜】の肉は食ったことが無かったなあ、あの頃は新築の家を妹の静江一家にプレゼントするために金が欲しくてそのままダンジョン庁に売り払ってしまっていたからなあ。

あの頃の妹一家はまだ顧客が増えなくてあまり裕福ではなかった。なのでプレゼントするのはやめて、俺の名義のままで固定資産税や光熱費は俺の銀行口座から引き落とされるようにしたまま妹に貸与する事にしたのだった。


「うん、ドラゴンの味だな」

「そうですね普通ですね」

紫苑が同意する。

紫苑はアンドロイドだけど料理スキル持ちで味の確認の為に人間同様に食事する。だけどトイレには行かない。アイドルだからではない、体内で浄化、清掃してしまうからだ。


俺の鍛冶空間は成長して、個室も広く、数も増えた。

さて寝るかと思った時ドアがノックされた。

紫苑だ。桜の助言に従って紫苑の本来の使命を果たさせたので今夜も訪ねて来たのだ。そう、ラブドールとしての役目を果たす為に。

大人の皆はこの後のことは予想がつくだろうからあえて詳しいことは書かなくても良いだろう。


翌朝


「あれ、今朝はおじちゃんもしおりんもスッキリした顔してるね」

紗耶香に言われた。

紗耶香にはもう知られている気がする。

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