13.ホテルに入っていく彼



 ――放課後、みすずとひまりちゃんとカラオケへ。

 店を出る前にカラオケの出入り口付近に設置されているプリクラを撮って、いまはその帰り道でプリクラを片手に駅に向かっている。


「ひまりちゃんは全曲洋楽だったね。英語がペラペラだからビックリしたよ!」

「かっこよかったぁ! 私たちが普段聞かない曲ばかりだったから新鮮だったよ」

「ありがと。海外生活が長いから日本の文化には触れてこなかったの。でも、日本には楽しいものがいっぱいあるんだね」


 彼女はプリクラを何度も眺めながらくすくすと笑う。

 よほどプリクラが珍しかったのかな。


「オーストラリアでは友達と何して遊んでたの?」

「……友達とは遊ばないよ」

「えっ、遊ばないの?」

「実は人付き合いが苦手だから」


 彼女は長いまつ毛を伏せながらそう言う。

 藍とは幼なじみみたいだけど距離を置かれてるようだし、友達の話題も上がってこない。

 オーストラリアでは一体どんな学生生活を送っていたんだろう。

 

「じゃあ、これからは私たちといっぱい思い出作ろうよ! 仲良くなったんだからさ」


 友達と遊ぶことをこんなに楽しんでくれるなら、素敵な思い出をたくさん作ってあげたいと思った。

 楽しい毎日を送ったほうが、明日も頑張ろうって気持ちになるから。


「えっ」

「それいいね! 三人でいーーっぱい遊ぼうよ!」

「賛成! ひまりちゃんが人付き合い苦手でも私たちと友達になれたんだからさ。もっとたくさん友達を作ってJK生活をエンジョイしようよ」


 そう言った瞬間、ひまりちゃんは不思議そうに首をかしげる。


「JK生活……? なにそれ」

「JKとは女子高生って意味。俗語だよ。……そっか、海外にいたら知らないよね。そこから教え込まなきゃダメか」

「知らないことが多いなら教えがいはあるかもね」

「ギャル語とか?」

「ちょっと~! それを教えてもなんの為にもならないかも!」


 私とみすずが盛り上がりを見せてると、ひまりちゃんはボソッとつぶやく。


「どうしてそんなに優しくしてくれるの? 私なんて元は赤の他人なのに……」


 なぜそんな質問をしてきたかわからないけど、私は彼女の為を思って少しばかし傷口を開いた。


「実は私、小学生の頃に太ってて体型のことで男子から酷いことを言われてたんだ」

「あやかちゃんが……? いまは全然痩せてるのに」

「当時は辛くて必死にダイエットした。でもある運動会の日に赤白帽子をなくした女の子を見かけたから、私の赤白帽子をあげたの。そしたら、その様子を誰かが見ていたみたいで、次第に酷いことを言われなくなった。人に優しくすれば気持ちがいいし、輪が広がっていくことがわかったの。だから、誰に対しても優しくしようって思ってるよ」


 口角を上げて微笑むと、ひまりちゃんは言った。


「トラウマを乗り越えたんだね……。凄いな」

「でもまぁ、あの時男子に『横綱』って言われなければいまの体型にはならなかっただろうから、全てがマイナスじゃなかったのかな」


 あれがダイエットのきっかけになったし、前向きにもなれたから、全てが嫌な思い出にはなっていない。

 むしろ、強くなるきっかけになっていた。


「痩せすぎたせいで胸も消えたしね」

「みすず! ……よけいなことをっ!!」

「きゃははは! ちょっと〜、脇腹をくすぐらないでよ!」


 私とみすずが歩道でふざけあっていると、みすずの目線が急にある一定方向へ。


「あれ、石垣くんじゃない?」


 反応してみすずの目線を辿っていくと、藍が制服姿で高級ホテルのエントランスに入っていく。


「本当だ。藍がホテルになんの用事だろう」

「もしかしてバイトじゃない?」

「本人は先日バイトしてないって言ってたよ」


 たしかに先日はそう言ってたけど、その後にバイトを始めた?

 まさかね……。


「藍はここで暮らしてるんじゃない?」


 ひまりちゃんが真顔のままそう言ってきたが、当然現実味帯びない。


「まさかぁ。うちの学校にホテル暮らしの人なんているわけないよ。平凡な公立高校だしさ」

「そうだよねぇ。それに藍は庶民しか見えないし」

「たしかに言える〜!!」

「……」


 この時は彼女の話をまともに受け止めなかった。

 これが彼が抱えてる秘密の大ヒントだったのに……。


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