第16話 再び疼く日

 綾乃がシャワーを浴びている間、亮介は全員との連絡先を交換する。E君とZ君が帰る時間になったので見送りながらお礼を伝える。再会を約束して、ドアが閉まる。残ったのはS君とJさん、そして部屋の中でただ一人悶々としている亮介。



 

「亮介さんは今日は見ているだけ? したくならないの?」


「そりゃもうしたくて仕方ないですよ。でも、迷うんですよね。こんな機会滅多にないのでもっと見ておきたいという気持ちもあるし……」


「へえぇ……。俺には寝取られ好きの人の気持ちはわからないけど、大変ですね」


「大変なんですよ、ほんと」


 自虐的に亮介が言うと皆笑った。


「じゃ、次は僕とJさんで綾乃ちゃんを楽しませるので、亮介さんは入りたくなったら入ってもらうってのはどうですか?」

 

「ありがとうございます。ぜひそうさせてもらいたいです」

 


 

 綾乃がドアを開けてシャワーから帰ってきた。


「あ、E君とZ君帰ったんだね」


「うん。今度は綾乃を独り占めしたいって言ってた」


「そうなんだ。少しは気に入ってくれたってことかな。なんか素に戻るとどんどん恥ずかしくなってきた」

 

 確かに、綾乃が普段の調子で話すのを見るのは久しぶりな気さえしてくる。さっきまでの綾乃は別人のようだった。亮介がそんなことをぼんやり想っていると、S君が切り出す。


「綾乃ちゃん、素に戻るのはまだ早いよ。もっともっと素敵なところ見せてもらうからね」


「いやん、もうS君ったら〜」


 軽妙なノリで二人のやり取りが始まったかと思うと、いつの間にかバスタオルを剥ぎ取られた綾乃とS君は唇で繋がっていた。


 亮介は思わず綾乃をバックハグする。S君はさっと身を引き、Jさんと綾乃の首から下へと移る。


「綾乃……」


 見つめ合うと綾乃は右手で亮介の顔を引き寄せた。


 

 ◆



「亮介、どういうところで妬いた?」

 

「キス、やっぱりキスが一番嫉妬してしまう」


「ふふふ。そうなんだ〜」


 下から覗き込むように亮介の顔を見る綾乃。その表情はからかうような、勝ち誇ったような微笑みだった。


「もう当分の間は二人きりでいよう。綾乃を誰にも触れさせたくない」


 朝焼けの光の中で、亮介はまっすぐ前を見ながら言った。


「本当〜?」


「いや、またかもしれないけどね……」



 

 ◆



 

 旅先で再開した寝取られ生活だったが、S君たちとの出会いを最後に二人の足はバーから遠のいていた。二人の仲は更に深くなり、結びつきも強くなっていった。


「だんだん寒くなってきたね。なんか温泉とか入りたいな」


「いいね〜。混浴とか。俺行ったことない」


「あたしも!」


「そうなんだ。じゃ、二人して混浴デビューだね」


「うんうん! どんな感じかな。なんかもう恥ずかしくなってきちゃった」


 街ではちらほらと赤や緑のデコレーションが増えてきて、人肌も恋しくなってくる時季になってきた。夫婦として初めての冬を迎える綾乃と亮介。早速携帯で温泉探しを始める。


「見てこの露天風呂の混浴。雪の中で、しかも広いなこれ」


「ほんとだ……。なんだかロマンチック……」



 探せば探すほど。選り取り見取り。各地の魅力的な温泉地の情報で溢れている。


「ねえ、これ見てみて」


 台所にカップを置いて帰ってきた綾乃が自分の携帯を亮介に差し出す。


「うん。ん? 何、動画?」



 

 聞き覚えのある啼き声で電話の小さなスピーカーが音割れしている。

 画面では綾乃が動いている。

 揺れながら、鳴きながら――。


 亮介が硬直する。

(俺、こんな動画撮ったことない。誰、いったい誰が)


 

「T君だよ」


 微笑みながら正解発表をさらりとやってのける綾乃。息を呑む亮介。動かない口をやっと開く。



「い……いつ、これ」


「先週だよ。彼に撮ってもらっちゃった」

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綾乃と亮介 2  three, four or five[改稿版] 宿羽屋 仁 (すくわや じん) @jsrm

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