16. 舞踏会にて妻と共に


 その後、彼女に泣かれ……いや泣いてくれて、過去も話してくれた。そして、いい返事をもらい、身内だけでこっそり結婚式を挙げた。母からは遅いとはたかれた。解せぬ……。

 どこか外国でも、と考えていたが、新婚旅行は、レイラの希望で領地を回ることにした。その中で、俺は先輩方こどもたちに揶揄われ、レイラは何かを納得していた。……何を納得していたのだろうか。


 俺は、可愛く美しい妻と素晴らしい日々を過ごしていた。……誤解させてしまった上に身を引くとまで言われたり、やきもちを焼いてもらえたり、まあ色々あったが、それも乗り越えた。


「ローガン様、実は……」


 そのうち、子にも恵まれた。レイラに似た青い瞳と俺に似た白髪の男の子だった。命に変えても守り通すと誓った。過保護になりすぎて母からまたはたかれた。なんと、レイラからも怒られた。少し嬉しかった。


「幸せだなぁ……」

「そうですね。……だから早くお仕事に戻ってください」

「あと五分。あと五分抱かせてくれ」


 腕の中で子供を抱いたレイラが渋い顔をする。うん、この顔も可愛い。


         *


 色々と落ち着いた数年後、舞踏会に、コルベール夫妻ではなく彼女の異母妹とおそらくその婚約者が出席した。まだ正式な話は聞いていなかったため、顔見せなのだろう。


「……レイラ」

「コルベール家も当主を交代するつもりなのでしょうか……それにしても、あのドレスはエリーを引き立てていて凄く似合っていますね」


 そこなのか……と思い見て、驚いた。

 今までの派手で華美な、悪く言えばコルベールらしいドレスから、シンプルでいながらも品が良く、自分を引き立たせるようなものに変わっている。

 我々の視線に気がついたのか、スススッと婚約者の方が寄ってきた。


「ああ、これはこれはウィンザー伯爵。お初にお目にかかります。ワタクシは、エリー・コルベール婚約者のジョセフと申します。どうぞ、お見知りおきを」

「……ああ」


 長い赤髪を一つにまとめ、目を弓形に閉じている男と握手をする。

 こいつは食えないやつだ。そして……優秀な商人なのだろう。

 職業柄というか立場的に、人を見る目はある方だと自負している。この会場の何人が、この男が貴族出身ではないと気づくだろうか。それほどまでに、振る舞いは完璧だった。

 そして図ったかのように、挨拶を終えたところで演奏が始まる。


「……もう少々お話したいところでしたが。では、良い夜を」

「そちらもな」


 二人がくるりと回って去る瞬間、今まで一度もこちらを見ていなかった異母妹がレイラを見た。……その横顔は、笑っているように見えた。レイラは見られたこともそれも気づいていないようだった。


「皆様踊り始めましたね」


 いや、俺が教えるのも野暮というものだろう。

 コルベール家の二人も何かを話しながら、楽しそうに踊っていた。いや、悪い笑みを浮かべた男に異母妹が怒っている様子だが……まあ仲がいいのだろう、うん。俺も早くレイラと踊りたい。


「レイラ、俺と踊ってくれるか?」

「ええ、もちろんです」


 初めて会った時には考えられない、艶々な髪に、健康的な体。俺の瞳の色に合わせた紫色のドレスを見に纏い、頬を赤く染めて、優しく微笑んでくれる姿。

 誰にも見せたくないが見てほしい。俺が育てました。正確にいえば、回復させただけではあるが、ドヤりたい。


「さ、行きましょう」

「……ああ」


 彼女は、妹の代わりに嫁ぐことになったが、ウィンザー家の家族になれてよかったと、俺に会えてよかったと言っていた。そして、誰にも文句はないとまで。……まあ俺はそれまでのレイラの扱いに文句しかないが。


 だが俺も、妹から姉になったことだけは、文句どころか感謝しかないのだった。

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妹の代わりに嫁がされましたが、何も文句はございません 秋色mai @akiiromai

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