現代吸血日誌
アスパラガッソ
第1話 ~吸血鬼は寝坊する~
ここは令和の日本、その都会のホテルの一室で、一人の吸血鬼が目覚めた。
「ふあ~ぁあ……今、何時だ?……アレソウ!今何時だ?」
ジョンソンは眠い目を擦りながら、ベットの上で頭だけを起こして、視線の先の奥にあるカウンターに置かれたAIアシスタントの『アレソウ』に現在の時刻を問いかける。
『現在の時刻は午前9時28分です』
アレソウは抑揚の無い機械音声で、無慈悲にそう言い放つ。
「9時か……遅刻じゃん」
彼の名前は
現在この日本には、正式に登録された人外知的種族が3546名おり、皆政府が管理するアパートやマンションに住み、インヒューマ株式会社で働いている。
表向きには人に関する病気などを研究している会社で、それ用にしっかりと作り込まれた
ちなみに、政府が登録していない不法に滞在している人外は年々増加しており、人狼やトロールなど、凶暴性の高い種族が不法滞在をしていることが多い。
そうしていろいろな仕事を定期的にこなし、この日本を謳歌しているのがジョンソンの現状である。
ジョンソンは大きな仕事をこなし大金を貰い、数カ月自由にぐうたら過ごした後、また仕事をこなすという生活をしており、今日は午前9時からその仕事の説明をする為に、東京にある政府の管理しているマンションに集まる予定が入っていた。
だがジョンソンは前日、ネットリックスでやっている韓流ドラマを夜遅くまで視聴しており、ここ数日の寝不足も重なってか、いつものアラームをすっぽかし、現在に至る。
「すいません、西宮ジョンソンです……。はい、寝坊をしてしまいまして着くのが遅れます。はい、今急いで準備をしているので……。はい、あー10時頃には……」
『はぁ……分かったわ。貴方の為に少し待つから、なるはやで頼むよほんと……』
仕事の斡旋を担当している『
「
「
「かしこまりました」
静通タクシーのように、人外を採用している会社は一定数存在している。
今回ジョンソンを西田マンションまで送迎してくれる人外は、『
日本に住むにあたり、このように日本風の名前に改名している人外も多く存在しており、もちろん苗字だけ日本風という、ジョンソンのようなスタイルの人外もいる。
「エイル、この仕事にはもう慣れた?」
エイルとは三得がワルキューレとして仕事をしていた時の名前で、エイルとジョンソンは昔から関わりがあり、時々両者の近況報告などを兼ねて話すことがある。
「はい、もうすっかり。日本というのは所々に趣があって良いですね。特に京都なんかは、私が日本で一番好きな街です」
「それは良かった。私は最初全然慣れなかったからさ、ちょっと心配になって」
数年前に引っ越してきたばかりのエイルに、ジョンソンは自分を重ねており、日本に来たばかりの苦い思い出を思い出したジョンソンは、それについて話し始めたのだった。
「じゃあ帰りもよろしく頼むよ」
「えぇ。仕事、頑張ってくださいね」
目的の西田マンションに着いたジョンソンは、さっきから感じる呆れた視線の方向を見る。
そこには紫色の髪の毛先をカールさせた女性が立っていた。
「遅れてすいません!」
「みんな待ってるわ。それにしても良いご身分ね、朝からゆっくり寝呆けて
「番いなんてそんな……ただの友達ですよ、奈々さん」
エレベーターに乗っている間、奈々に皮肉交じりの文句を言われながら、ジョンソンは奈々と一緒にマンションのある一室に入る。
「おう奈々ちゃん、ソイツ縛ってええか?」
ジョンソンと奈々がリビングに行くと、大柄で坊主に赤のレザージャケットを着た『
「遅れてすいませんでした…………」
「なんぼわしらが長寿でも、他の
「ぶっははっ!西宮怒られてやんの~」
髪を金色に染め、見た目は完全に少年である
「國神!ジブンもやで!今回は遅刻して来ぇへんかったけど、累計遅刻回数が一番多いのはジブンやぞ?」
「ゲッ、しーらね。時間が勝手に進むのが悪いんだろ」
錦の悪びれもしない他責志向の返答に、鈴男は一つため息を付くと、奈々の方を見る。
「まあええ、これ以上怒っても時間の無駄や。とりあえず作戦の説明を始めんと。奈々ちゃん、頼んだで」
「では、今回の作戦の説明を始めるわ。まずはこの映像を見て」
リビングの机に置かれたパソコンに映し出された映像は、どこかの路地裏の監視カメラの映像で、一瞬だけ画面の端で黒い何かが動いたと思った次の瞬間、路地裏を歩いていた人を攫った。
「一瞬しか映らなかったけれど、これが今回の標的よ」
「なんや?これだけじゃ標的がなんなのか分かれへんな。他の映像は無いのか?」
「現状これしか無いわ。一応推測だけれど、種族はシャドーピープルだと思うわ」
「えと、どないな感じの人外やったっけ?」
「シャドーピープルは闇に潜む人型の影らしいです」
ジョンソンがスマホで検索を掛けながら鈴男にそう報告する。
「なんや、見たまんまか」
「うわ死んだ……まぁとりあえず倒しに行けばオッケーって感じなんでしょ?じゃあちゃっちゃと行こうよ」
ゲームのキャラが爆散して、画面に出た『GAME OVER』の文字を見ながら、錦は軽くそう言う。
「それが、これ以降目撃情報が無いの」
「いやいや、僕白沢だよ?そいつの居場所予知してあげるからさ」
白沢である錦は、ある程度の予知能力を持っており、かなり抽象的な予知も出来る。
例えば、今回の顔も素性もほとんど知らないやつに関係した居場所を予知できるという、予知能力を大幅超えた能力を有する。
「相変わらず便利な能力だ」
「いいっしょ?」
「ほな早速、そのシャドーピープルっちゅう奴をぶっ飛ばし行こか」
「待って、今のステージクリア出来なかったからやり直してる」
「ゲームクリアしたかったら、そのお得意の予知能力つこたらええやん」
「はぁ?そんなんつまんないじゃん、だからこういうのには能力使わないようにしてんの~」
「國神、どうせそれ時間掛かるんやろ?ほなワイはバイク乗って来るさかいに、準備が出来次第連絡してぇや」
「行ってら~」
「はぁ、男どもは自由で羨ましいわ……」
色んな方向にマイペースな人が多いせいか、奈々は完全に呆れ返っていたのだった。
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