架空の王国の物語。若き封土騎士フィリップは、幼い頃一度だけ訪れた山奥の砦をどうしても再訪したいと願い、砦周辺の地方を荒らす山賊退治に勇み立つ。だがその旅路で出会ったのは、彼の騎士道を大きく揺るがす、破天荒な遍歴の騎士だった。そして恋い焦がれた砦には思いもよらない形でたどり着くことになる——。
正直に言えば、この遍歴の騎士(騎士崩れ?)が完全に主人公を食ってしまっている。主人公の砦や騎士道への憧憬が吹き飛んで価値観が揺らぐことは、彼の変化と成長の契機となるはずが、残念なことに物語はそこで終わってしまう。とはいえ騎士道もクソもないこの騎士の登場で急にピカレスクロマンのようになるため、読む方としては飽きないのだが。彼もまた砦に固執している(全く別の砦だが)のが、主人公と鏡像関係になっていて面白い。
前半と後半で読み味が変わる小説だが、全体を通しては若い騎士の憧れが挫折しその後の成長を予感させるに止まる物語である。中世特有の薄暗く閉塞的な空気感も巧みな筆致で描かれている。アンチ騎士道な物語に関心があれば、ぜひ覗いてみてほしい。