妖火の樹海Ⅲ/伝説、そして
明るい夜に、足元を取られる。
泥にすくわれマルロドは後ろに倒れた。無様に尻餅をついて、唇を震わせることしかできなかった。
火焔が生い茂る枝葉の熱で目が乾く。青い若葉が燃える匂いで鼻が効かない。気を抜けば、充満する土色の煙を吸って身動きがとれなくなる。
左手に持つ香炉を引き摺り、マエロドは忌々しく唇を噛んだ。
何故、という疑問を抱えながら。
……マエロドの魔術は屍体を操る死霊魔術の亜流。それだけを抜粋すれば唾棄する死霊術師と同じだろう。
だが、それらと一線を引く才がマエロドにはあった。
屍体……人だった肉の器は、魂の抜けた
凡人は見落としている。その骸が、どれだけの力を秘めた宝庫なのかを。
魂がないが肉体はある。使い手がいないだけで、その剣術や魔術や知識は、刻まれた経験は、腐りゆくだけの器に残留している。
故にマエロドは、屍体の質を保つべく術を施す。
腐敗する肉を不朽に。溶けていく骨の一片を永久にすることを。
彼からすれば安易にゾンビやグールにすることなど、愚行であり美学に反する。
個々の力を残し発揮させることこそ、彼が信じる最上の戦術に他ならなかった。
たとえそれが、意思のない骸だったとしても。
屍体を調律する。故に屍律師。
森にいる屍の数は五百。五百の屍を一度に
この敵前に迫るまで、幾つもの戦場を漁り、その道すがらでも屍体を調達した。転がる死兵から市井の者まで貴賎なく。
聖者や農民といった身分は関係ない。死ねば骸となり、一度死んだら糸が垂れる戦奴だ。
戦場の走狗たる一兵一兵を、一箇所に向かわせる。
たとえ如何なる大魔術を行使しようと、物量という圧殺には敵わない。
……だが。
(──何故だ)
マエロドは、困惑する。
目の前の、炎が回る殺戮に。
(何故だ、なぜ死なん!?)
糸が切れていく。何本もの張り詰めた糸が途切れ全身を逆立てる。
葬られている。調律を施した人形が次々と破壊されていく。
異常なのは、その速さ。
弾く間も与えられず、屍体を繋ぐ
十、二十……それ以上の数が、一斉に鏖殺される。
……火炎の勢いが、強くなっていく。
飛び交う影の哄笑が、炎の中で残響する。
アレだ。あの炎の河が、屍体を浄化させているのだ。
樹海に広がる
まるで、血が炎の形をしているかのように。
大気の魔力が濃くなる。もはや瘴気が蔓延しているに等しい。
……マエロドは誤算していた。相手を見誤ったのだ。
結界を破った時点で、相手を自身と同じ魔道に精通する者と見定めてしまった。
樹海に広がる大火、動く屍への対処。それらを観て力自慢だけの兵士ではない測ったのだ。
過ち。大きすぎる過小評価。
アレは魔道に潜む者ではない。別の何かだ。
マエロドは歯噛む。今更ながら、受け入れ難い現実を咀嚼するしかなかった。
(形振り構っていられないか帝国め! 災厄を呼ぶ魔獣を喚んだか!)
無言で、人形を葬る『影』を凝視する。
(だが、あれは生きている! 意思を持ち血肉が脈動してるなら、命を持ち合わせていることに違いない!)
香炉を持つ手を変える。汗が流れる顔を振るい、瞼に溜まった雫を落とす。
(死のない生なぞ存在しない。生きている限り、死は必ず訪れる宿命!)
この世に、完全という概念は存在しない。
(なら、殺せる。殺せなければおかしいんだ!)
そこで彼は、奥歯を思い切り噛み締めた。
生きているのなら、心の臓腑が動いているのなら、死を齎すことができる。
(だが──アレを殺せるのは、私ではない)
憎悪と懺悔とも取れる、歪んだ顔が黒い炎に照らされる。
「許せん」
彼は、己を責めるようにに叫ぶ。
「許せん……貴様如きに、
叫び、決断をして。
轟、と音が爆ぜる。
熱がマエロドを撫でる。絶叫し、足を崩して大きく転倒する屍律師。
衣に炎が乗せ被る。マエロドは即座に脱ぎ捨てて、乾燥な肌着だけになった。衣は瞬く間に赤黒い炎に飲まれ、消し炭と化す。
「片したぞ」
声が聞こえる。
森の中から、火炎が渦巻く中から、炎が喋る。
「五百二十六もの屍肉を灰にした。痕跡も足跡も、跡形もなく全てな」
黒い外套をはためかせ、病的な白い髪を揺らす魔獣が、歩いてくる。
「これで終わりか? いいやまだだ。終わってくれるな。ここで終わりじゃつまらない」
頑張れ頑張れ、と『彼』はせせら笑う。
「
「っ、狂犬がぁぁっ!」
マエロドは喚き、土草を掴むと『彼』に投げつけた。
飛び上がる悪足掻きを、片手で薙いで爆ぜさせる。
一瞬に等しい隙間。それだけで十分。
土が盛り上がる。下から浮かび上がるように、泥濘んだ土塊が飛び散る。
「いいだろう、望み通り思い知らせてやる。勇ましき一花の奇蹟を!」
魔力で作った
土が剥がれ、それが姿を現す。『彼』が慣れ親しんだ寝床を。
鉄製の棺が、燃え盛る樹海の中で顕現した。
立方体のソレは垂直に佇み、音もなく蓋が前に落ちる。
死者の寝床が、露わになる。
狭き花の園に囲われた、接ぎ剥ぎの少女を。
「勇者さま────」
マエロドが、棺の前で傅く。先程までとは全く違う口調で、凍てつく白い少女の手を、自分の手に添える。
「お目覚めを。敵が参られました」
マエロドが手を離す。彼の指には絡まるように魔力の糸が巻かれていた。十の糸は、革鎧に身を包む少女に繋がれていて。
指先が、微かに動いた。
骨が鳴る。肉が蠢く。硬直していた神経が、擬似的に生を取り戻す。
五本の指が曲がる。動きを確かめるように何度も拳を開き、閉じる。
腕が音を鳴らす。生気の宿らない機械じみた手が、胸に抱いていた細剣を掴んだ。
称える呪文は、祈りのように謳われる。
「貴方さまの勇戦に、花の恩寵が在らんことを」
言の葉に従うように、棺の中にいた少女は、足の爪先を地上につけた。
刹那。
炎が、一斉に
「な」
辺りを見渡す『彼』から、声が失われる。
森を焼き尽くさんと手が伸びていた炎が、消滅している。火の海は枯れ果て、元通りの鬱蒼とした樹海が再生されている。
再生、と『彼』は少女を見据えた。
少女は、爪先を下ろした足を地につけた。
足元を中心に、捲れ上がった土塊の罅から、緑が生い茂る。
草原を思わせる若草が、鮮やかな色彩を持つ花が、若々しい木々の新芽が。
生まれる。産まれる。埋まれる。
足をつけるたびに、芽吹く命の園。それが残り足跡となり、声も無く賛美する。
革の鎧に身を包んだ茶髪の少女を。
傷を否定し、死を否定し、呪いを否定する。
数多の戦う者を癒やし、戦火で焼けた大地を二度再生させた人物。
聖方教会による神託を受け、その身に神威を宿した人間。
魔を調伏し、悪の王を打ち倒すべく拵えられた者。
世界を元に戻す調律を奏でる────十六人目の勇者が、開かぬ瞼を開けた。
「────
微かに動いた口が、短く唱える。
展開する魔法陣。六花が広がる円形の陣が光輝を放つ。
音が鳴った。
気付いた時には、幼い勇者は『彼』の眼前に迫っていた。
(速い!)
逡巡する間もなく、鋭利な激痛が思考を寸断する。
鞘から抜かれた
目が追いつかない。
血を喰らう『彼』の目を持ってしても、軌跡だけしか追えない。細身の剣が肩を抉り、右胸を突き刺し、喉を斬り裂く。およそ人体の急所と呼ばれる箇所を的確に穿つ。
口を結び、烈撃の
躊躇なく『彼』は放たれる細剣を掴んだ。掌の中を刃が滑る。血塗れた剣が眼前にまで迫る。
銀色の刃に、火が奔る。
燻る火が爆ぜ、細剣が掌の中で粉と化す。破片が宙に漂い、粉々と落ちていく。
瞬く暇すら渡さず、『彼』は攻勢を打つ。
身を捻り、右腕を引き絞る。並んだ指が切先を模し、剣の如き鋭さで放たれる。
人肉を容易く断つほどの剛拳が肉薄する最中、
「────
死者の唇が、動いた。
足元に輝く花弁の輪。白亜の百合が咲き開き、散華する。
罅割れた魔法陣から、花園が咲き開く。
一面に広がる花。甘い香りが鼻腔を擽り、一瞬動きが停止……否、即座にその場から飛び退いた。
背後に身を引き、口から吐き出すのは血溜まり。
口から、鼻から、目からも血が流れる。動悸が収まらず皮がひっくり返るような異物感が駆け巡る。
この感覚は知っている。血管が傷つき、血を腐敗するのを。
(祝福! いいや違う、似て非なるものか!)
邪なる存在を滅し、人々に祝福の加護を授ける奇蹟の一端。身によりつく魔を退ける人々の祈祷術。そうであるが故に『彼』は追い詰められた。
消滅しないのは、似て非なるものだからだろう。性質が同じでも、祝福を与えるのはかの救世主ではない。
致死量の奇蹟を浴びて留まっているのは、ここが異なる世界だからに他ならない。
だが、偶然は何度も続くものではない。
身体が意思に関係なく再生を始める中で、勇者の少女は手を翳した。
周囲の木々が揺れる。波打つような振動が聳える樹木を打ち倒す。
地面が捲れる。暗い地表から覗かせるのは、鞭のようにしなる無数の根。
四方八方から伸びる根が槍のように迫る。穂先が、『彼』を捉え、咄嗟に足が動く。
「逃がさん」
勇者の背後で、人形師の声が響いた。
土を破って、骨身が見える手が伸びる。
地中から生えた屍
「私の掌から屍肉は途絶ん。文字通り、腐るほどいるのでなぁ!」
肉が骨から崩れ落ちる屍の身体を、即座に腕を振るって吹き飛ばす。
死肉の破片が浮かぶ。その肉ごと、死の根槍は貫く。
穂先が肉を抉る。四肢を貫き、瞬間、身体の中で爆ぜた。
「ガッ…………」
幾多にも広がる枝葉が、内側から外側に打ち出される。肉を裂き、骨に絡んだ枝が重なり合い、樹木と化していく。
「……花の下には死体が埋まっていると、よく言ったものだ」
鼻を鳴らしながらマエロドは姿を現した。樹木によって宙吊りになった『彼』を怜悧に見上げる。
花が咲き誇る樹木に絡め取られる肉体は、両腕を広げられて身動きが取れない。両肘は根が悔いのように打たれており、反抗をも許さない。
内側で広がる枝の管が、血を奪い取る。『彼』の命である血を、貪り喰らう。
「認めてやろう。貴様は強い」
萎び枯れていく『彼』から目を離さずにマエロドは言葉を放った。
「だが彼女には届かない。どんな異業を宿そうと、勇者に敵う者など存在しない。魔物如きが人間に勝てると思い上がるな」
無機質な顔の少女が、命令通りの動きをする。
砕かれた細剣が再生する。粉が瞬時に元の剣に戻っていく。
その再生した剣を、マエロドが恭しく受け取った。
「やはり純潔の身を汚すなど許せぬ。貴様は私が殺す。その心の臓物を刺し貫いてやる」
剣を振り、歩き進むマエロド。右手で構え剣先を、樹木に磔られた『彼』に向ける。
身動きの取れない罪人のようだ、とマエロドはつまらない感想を抱いて。
右手を振り上げ、杭を下すかのように、剣を胸の中心に刺し────
「────違うな」
刹那。
豪炎が、再び樹海を燃やした。
剣が止まり身じろぐ。マエロドの背後から花の勇者が手を伸ばし、即座に主を引き寄せた。
炎が舞う。大木が燃え崩れる。磔刑の十字が灰となる。
その罪人は、傷を残したまま地に降り立つ。
「違うぞ魔術師。
血が指先から滴る。滴る血が地面を濡らし、小さな炎と化す。
「まだ来るか。いい加減に──」
「一つ問おう魔術師。おまえ、その娘を好いているか」
指の動きが止まった。
開いた口が塞がらない。馬鹿馬鹿しすぎて考えることができない。
戦いを一時中断せざるを得ないほど、場違いな問い掛けだった。
「……戯け。気でも狂ったか」
「狂いで結構。私にとっては大事だ。さあ答えてくれ」
愛しているのか、と再度問い掛ける。
形相を変え、魔術師は歯を噛んだ。
「ふざけるなよ、下劣な野獣めが! 邪な情を向けるなど、万死に値する! 彼女に抱くのは敬慕────ただそれだけだ!」
霊糸が動く。剣を勇者が素早く取り、姿を消す。瞬時に広がる再生の息吹は、再び燃える炎を打ち消す。
「素直じゃないな、初心な奴め」
ああ、だが。
「それでいい。それでこそ、戦い甲斐がある!」
『彼』は後方に身を引く。少女の影が迫る中、笑みを浮かべて告げる。
「非礼を詫びよう。卑しい死体漁りなどと言って悪かった」
だから、と『彼』は続ける。
「立たせてくれ、きみたちの舞台に。挑み、阻ませてくれ。きみたちの路を!」
「訳の分からんことを!」
疾駆する少女の勇者が、口を開いた。
「────『花よ唄え』
『祈りの檻』 『永遠の園』
『芽吹き誇りし純白の色彩よ』
『唄え。唱え。謳え。安息の調べを』」
足が大地につく。張り巡らされた地脈が、勇者の声に呼応する。
術式が刻まれ、魔法陣が展開する。深い森が上書きされ、広がるのは白い花が一面に咲き誇る風景。
僅かな間、世界を上書きする結界術の最高峰。知識や才能だけでは到達できない至高の領域。
もはや『彼』に逃げ場などない。必中必殺の檻には、先程『彼』が深傷を負った聖別の術が刻まれている。
息を吸うだけで、存在するだけで、生きているだけで、死に至る世界。
血を吐く。脳髄に至るまで沸騰し、血管は引き裂かれて眼から血の涙が流れ出す。
もはや『彼』の肉体は死んでいるに等しい。二の足で立つのが奇蹟であり、意識が消滅していてもおかしくなかった。
走馬灯が頭の中に流れる。
思い出すのは、燃える城を背後に打ち倒された記憶。
蘇るのは、夢の記憶。
語りかけるは、夢の中で彼女が口にした言葉。
────あなたは、化け物でしかないのだから。
白い花園に、黒炎が押し寄せる。
蹂躙される白百合の園。広がる炎の河。
「馬鹿な、こんな力を、貴様まだ……!」
驚く魔術師の声。呼応するように、『彼』は高らかな笑い声を上げる。
「心地いい」と『彼』は言った。
「もっとだ。喉が引き裂けるほど、喝采させてくれ!
「っ、ほざけ! 何度やっても同じこと! 馬鹿の一つ覚えで彼女は超えられん!」
「よく吼えた! その言葉、哀れな造物主どもにも聞かせたかった!」
炎の河が、両断される。
河が割られた狭間から、勇者が疾走してくる。
「死ね……いい加減に倒されろ、
「死に損ないはしぶといんだ。私も何も成し得ずには死ねない。死にたくなんてない。故に、最後まで
迫ってくる花の勇者。距離は縮まり、凝縮された祝福を纏う剣が構えられる。
切先を『彼』に、炎の魔人に。血と瘴気を放つ異物に。
聖なる剣は、化物を殺すべく振り下ろされる。
……赤い飛沫が、白と黒の花園に散った。
だがそれは『彼』ではなく。
剣を構えていた勇者の右腕から飛び散るものだった。
「……なんだ」
獣油のような血が花を穢す最中、マエロドは呟く。
慄きを、隠さずに。
「おまえ……おまえ、何故だ、これはどういうことだ!?」
マエロドの視界に映るのは、一つの脅威だった。
白い青年の姿は変わらない。噴出した自らの血を浴びて、身体中が深紅に染まったこと以外は。
朱の悪鬼が、右腕を掲げる。
……膨れ上がり変貌する、
──それは、魔法の域を超えていた。
濃密な魔力を纏うことで見せる幻像でもなければ、触媒を通じる一時的な召喚でもない。
肉があり、血があり、命がある、まごうことなき生きる存在。
マエロドは、信じられなかった。
変貌する腕が天を掴むほど巨大となり、それを顕にする。
黒い膜が破れた、尖骨を見せる片翼を。
「──なんだ、これは。大馬鹿だ!」
目の前の光景に、屍律師は吠える。
震える口先は、惨めな喚きを散らすことしかできない。
「こんなの、出鱈目だ! ふざけるな、こんなの……何を接ぎ合わせたら、
『彼』は地を蹴る。飛び上がった体は落下せず、空に滞留する。
変貌した腕……翼から飛び出る尖骨。『彼』の血が変質し、たった一つの矛に集まっていく。
赤い稲妻が、骨の矛へと纏う。
空が荒れる。いつの間にか暗雲が犇き、雷鳴が轟く天候に変貌していた。稲妻が走り、天上から雨が降り注ぐ。
身を打つ冷たい大雨が、感じていた熱を奪い去る。
本来、このようなことはあり得ない。結界は外の干渉を拒絶する術式。故に天候もまた一切の影響を受け付けない。
故に、今の状況は更に酷な事実を示唆していた。
「
落雷が園を襲う。赤き雷が
雷が撃たれ、炎が波打ち、雨が大地を冷たくする。混ざり合うことなく、互いを消滅させることはなく、破壊の権化となった現象。
混沌。
天を降らし、地を砕く混沌の主人は、その狭間に浮かぶ。
赤き稲妻を纏う片翼を掲げ、睥睨しながら微笑む。
それはまるで、天地を創造した神のよう。
「……あってはならない、こんなのは、人の域ではない」
マエロドは狼狽る。もはや彼の中に意気というのは完全に消沈していた。
腕が落ちる。恐怖に濡れた顔は、『彼』を別の存在として見ていた。
彼が生涯にして唾棄すべき存在であり、彼女の命を貪り食らった怪物を。
認めない。こんなの、これじゃあ、まるで────
「……
解を得れないまま、マエロドは呆然と立ち尽くす。
天空に静止していた『彼』は、動き出す。
帯電する尖骨の矛が、まるで殴りつけるかのように右腕が振り上げられる。
『彼』の視界には、崩壊する世界など目に入っていない。あるのは二つの存在だけ。
「きみたちに掛け値なしの敬意を。死してなお別つことない縁に感服する」
故に、と『彼』は言う。
「お互い死力を尽くそう。きみたちの旅路に幸あれと謳わせてくれ」
だから。
「全力だ。この一撃、受け取ってくれ」
空を蹴る。落ちてくる『彼』。同時に、地を振り下ろされる矛。
即座に、勇者が地を蹴った。マエロドの意思に関係なく、屍体が『彼』に向かい────
極小の世界に、一つの雷が叩き落とされた。
音が消える。炎も雨も、破壊も何もかもが消滅する。
花は灰すら残さず燃やされ、展開していた術式も余波によって破壊される。
『彼』を殺すための世界は、『彼』が打ち出した一撃で灰燼と化した。
壊れた結界は存在する意義を失い、崩壊する。
彼らは、元の世界に戻る。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます