第49話『進軍! モルデール連合軍』

 タンクホルム山の細い道アイアンウルフ峠を抜けると、そこには大国ヴァルガーデンの入り口で、『漆黒騎士団』を率いたブラック・シャドウリーフの名を冠した渓谷シが広がる。


 モルデール連合軍の正面軍を預かるシリアスは、傅役もりやくガーロン・ヴァルダー率いる『幻影騎士団』、二刀流の剣士レオン・レッドウルフ率いる『赤狼騎士団』、弓の名手セリーヌ・ブルースカイ率いる『青空騎士団』の三軍を引き連れる。


 その威容いようは、もはや、ヴァルガーデンの近衛このえ師団しだん”王の槍”トリスタン・ヴァルダー率いる『黄金騎士団』に匹敵ひってきする。


 四方を警戒けいかいしながら、騎馬を駆るシリアスを先頭に、ガーロン、レオン、セリーヌの騎士団長を引き連れて、ブラックの領国ラストウッド村の地面を固めて整備された王道に差し掛かる。


 ラストウッド村は、600人ほどが暮らす小さな村で、ブラックの課す重税じゅうぜい使役しえき、どれだけ働いても自分の生活が良くならない小作農こさくのう政策で、どの村人の顔を見ても、皆、疲れ切ってうつろな目をしている。


 シリアスは、ガーロンに命じた。


「ラストウッドの住人をすべて広場に集めよ!」


「若様、何をなさいますので?!」


「皆を集めればわかる」


 と、不承不承ふしょうぶしょうのガーロンに命じて、『幻影騎士団』員が村人を集めて回った。


 シリアスはラストウッド村の住人を広場にすべて集めるとまるで真の王の風格を持って高らかに宣言した。


「今日より、ラストウッド村は、ヴァルガーデンの支配下を離れ、我らモルデール連合軍の支配下に入ることとする。これまで、ブラック・シャドーウッドが行ってきた領内政策を全面的に見直す。税は三公一民、使役は嵐や地震などの天災の時期を除いてはおおむね免除めんじょ、これまで小作農として働いてきた者には、土地の所有を認めさらなる開墾地かいこんちの所有も認めよう」


 シリアスのこの宣言に領民は歓喜かんきした。


「シリアス様、万歳! モルデール連合軍、万歳!」


 シリアスの隣に並んだガーロン・ヴァルダーが、馬首を寄せてシリアスに尋ねた。


「シリアス様、ちと、甘すぎではございませんか?」


 シリアスは、ガーロン・ヴァルダーにだけ聞こえる声で、「いいのだ、これで。今はブラックの領内を無傷で抜けて、来るべく敵、ヴァルダー。お前の息子トリスタンと『黄金騎士団』を打ち破らねばならない」と賢明けんめい眼差まなざしを向けた。


 ガーロンはさも嬉しそうに、「ガハハッ! ワシが鍛え上げた最高さいこう傑作けっさくの騎士団長トリスタンが我らの敵ですか、これは腕が鳴りますのう」


 と、豪快に笑った。


 ※     ※     ※


 大河マルサネス川をヴァルガーデンへ向けてガレオン船のかじを切る”海シャチ”オルカン・タイドンと、ヴァルガーデンの王ダークスのきさきで皇太子レオの母、マリーナ・タイドン父娘おやこは、一杯に追い風を受けて進路をとる。その脇には『白鷹騎士団』のアレン・ホワイトホークが控える。


 舵を切るオルカンが隣のマリーナに、「マリーナ、もしやすると向かう敵はレオになるやも知れぬぞ、それで真に良いのか」と問うた。


 マリーナは、波風を受けながら、「レオは私とシリアス様の実の息子、シリアス様と和解わかいした今となっては、もはや、夫・ダークスの顔色をうかがう必要もありません。私のこの命、いや、母としての宿命しゅくめいに立ち向かわねばなりません」とよどみなくなく言い切った。


 脇に控えるアレンは、マリーナの覚悟を聞くと、レオの傅役もりやくとしての自分の最期の務めを果たそうと腹を決めた。


 オルカンは、娘の覚悟のほどを聞いて、「よし、すべての帆を張れ、ヴァルガーデンへ向けて先を急ぐぞ!」と舵を切った。



 ※     ※     ※



 遠くタンクホルムを後ろに延々えんえん砂漠さばくが広がる。


 空間に自動扉じどうとびらのような戸が開き、そこから景男とアム、サンチョとアリステロが出てくる。


 アリステロが目をパチクリと白黒させながら小枝をふところに仕舞う。


 アムが、疲れた素振りをみせるアリステロにいつくしむように声をかける。


「アリステロ、大魔法を使った後のMPもまだ完全に回復しておらぬと言うに、無理をさせてすまぬ」


 アムはアリステロの娘孫まごでもある。祖父を気遣きづかう優しさが、まるで娘からうける真心まごころのようにうれしい。


「アム様、アリステロは涙が出るほど嬉しゅうございます。ですが今は、憎きダークス・ストロンガー討伐とうばつのため『モルデール連合軍』の盟主めいしゅとして、お心を強く

 参りましょう」


 と、アムの優しさと慈悲深じひぶかさをたしなめつつ、ほど近くに見えるオアシス都市ホルサリムのピラミッドを指さした。



 サンチョが、景男に尋ねた。


「ポジラー様、のどかわいただ」


 それもそのはず、ここは木々が生い茂るモルデールと違って、砂塵さじんきあがる砂漠だ。辺りを見回しても砂漠の丘陵きゅうりょうとサソリが走るだけだ。早く照りつける太陽から逃れて、ホルサリムに辿り着かないと、昼間の熱さか、夜の寒さに殺られてしまう。


 景男は、丘陵の向こうに見えるヤシの木が何本か立つホルサリムを指さした。


「みんな、とりあえず、オレたちはあそこを目指そう! 話はそれからだ」


 サンチョが、小首を傾げて言った。


「でもようポジラー様、昔、噂話うわさばなしで聞いたんだがよう、確かホルサリムはダークス卿が、シリアス様の母親だったお妃さまの母国だったが、婚姻こんいん関係を結んで油断ゆだんしたところを急襲きゅうしゅうして攻め滅ぼしたって聞いただよ。もしかしたら、ホルサリムにはダークス卿に裏切られた亡霊ぼうれいがでるかもしれねぇーで怖ぇーだな」



 つづく

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