私という存在
1
目覚ましが鳴る5分前。いつものようにタイマーのセットを解除して起き上がる。
この目覚ましの音ってどんなだっけ? と、ぼーっとした頭で考える。
朝6時30分。その前は4時23分。昨夜寝る前の記憶は午前2時を少し過ぎた頃だった。
頭が痛い。いつもの事だ。
重い身体をようやく起こして、洗面所へと向かう。坪庭を配したガラス越しに見えるリビングはひっそりと静まり返り、ダイニングテーブルには、昨夜飲んだ薬の残骸と、水の残ったコップがそのままになっている。
ママは昨夜も帰って来なかった。最後に見たのはいつだったろう?一週間前?それとも、もっと前?
まあ、別にいい。あの人にはあの人の場所があるから。
洗面所で歯を磨き、顔を洗い、制服に着替える。白いリボンタイをきゅっと結び、鏡を見る。
青白く不健康な顔色に、くっきりと二重の大きな目。そこに映っているのは、残念なほどママに似た私の顔だった。
パパに似れば良かったのに、と思っても、パパがどんな人なのか私にはわからない。
ママはいわゆるシングルマザーというやつで、女手一つで私を育ててきた。といえば聞こえはいいけど、結局は男に捨てられ、結婚も出来ずに私を産み、仕事一筋で生きてきた
放送作家
シングルマザーがまだ世間的にも眉をひそめられていた頃、それを逆手にとって自らを売り出した。
持って生まれた美貌を武器に、女として、母として、仕事もバリバリこなす彼女に、世の女性達はこぞって共感し、羨望の眼差しを向けた。
世の女性達の教祖的存在でありながら、その一方で絶えない男の噂。恋多き女。スクープには事欠かないママを、マスメディアは大きく取り上げ、はやし立てた。
私がお腹にいる頃から、私をも自分の野心の為に利用してきたママ。
別にいい。おかげで私は苦労する事なく、マンションの最上階に住んでいられるんだから。
ママが今、どの男のところにいるのかなんて、どうでもいい。
そう思ってしまう私は、もうずいぶん昔に心なんていうものを置き去りにしてきた。
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