第61話 鮭と長芋の味噌焼き
ハラハラ雪が降る中、アデルハイドは急足で居酒屋「花結び」の裏口を開いた。
学力テストが終わり後は年末の王宮パーティーを残して数日後には年内の「花結び」の営業を終える。
年始の開店は昨年の例を考えても少し慌ただしくになりそうだと、外套に着いた雪を入り口で叩いて落とした。
温かい室内にホッと息を吐いて着替えて戻れば震えながら裏口からアリッサが入ってきた。
「寒いですね」
「本当、今年は寒いわ」
普段積もることのない雪が今年は薄ら積もっている。
おかげでぬかるみが出来た街は馬車の往来も少なくなり貴族街は閑散としていた、対して普段から徒歩の多い平民街は聖夜祭の時期もあり、かなり賑わっていると平民街に出店したアデルハイドの商会が運営する酒場やカフェから報告が上がってきている。
「今日は良い塩鮭を見つけたんですよ」
ニコニコと上機嫌のハノイが奥から塩鮭を持って現れた。
「塩鮭?珍しいわね」
「そうでしょう!国から来た漁師がこちらに移住したらしく、こいつを作って売っていたんですよ」
どうやらハノイと同郷の東の島国からの移住者が作ったらしい塩鮭は前世でいうところの新巻鮭のようだ。
大きな包丁を使い捌いていくハノイを見ながらアデルハイドはメニューを考え出していた。
「さっむ!」
「おい、僕を押すんじゃない」
ワイワイと賑やかにフェリクスとディオンが顔を出す。
続いてディオンの首根っこを捕まえながらマリアが現れた。
今日は室内の護衛にエリックもいるため、ハノイが「独り身には寂しいですな」と冗談を言ったりする場面もあり、居酒屋「花結び」は笑顔に溢れている。
「そうだわ殿下、素敵なドレスありがとうございます」
出勤前に届いたドレスはマーメイドラインの清楚なドレスだった。
シンプルなデザインは合わせて送られてきた青色の宝飾品がよく映えるドレスだ。
「それに素敵なパリュールまで……」
流石に王族相手に「高かったでしょう」とは言えず、内心で前世一般人的には怖いほどの贈り物に少々気後れする。
そんなアデルハイドに気付かないフェリクスは「当然の贈り物」と笑っていた。
「先に塩抜きしましょうか」
丁寧に切り出された塩鮭を塩抜きしていく。
水を張ったボウルに酒と味醂を加え塩鮭を入れる。
これで塩抜きの準備は終わり、暫く置いて水気を綺麗に取れば良い。
合わせて焼く長芋はそろそろ旬が終わる頃。
皮を剥いて厚めの半月切りにしていく。
フライパンに油をひいて塩抜きした鮭と長芋を入れて火をつけ両面をこんがりと焼き色がつくまで焼いていく。
味噌とマヨネーズを混ぜ合わせ味醂で伸ばしたタレを加え鮭の上に切ったカマンベールチーズを乗せて弱火で中まで火を通す。
いつの間にか来店していたアレクがフェリクスに出された鮭と長芋の味噌焼きを見て自分にも同じものをと注文する。
「味噌の風味と少し塩っぱさのある鮭の身で酒が進むね、それにシャクシャクとした長芋が口当たりをサッパリとしてくれて……チーズは味噌と良く合うんだな」
熱燗でほんのり上気したフェリクスが美味しいと言いながら箸を進めるのを見ながらアデルハイドも鮭を口に運ぶ。
「アディ、私のパートナーに」
「私は既にパートナーが居ますよ、アレクそろそろいい加減にしましょうね」
冗談のようにアレクがアデルハイドをパーティーのパートナーに誘うが、もうそれが本当に軽口だとわかっているフェリクスが「アディのお祖母様にパートナーを頼んでみたらいいじゃないか」と揶揄いだす。
「それも悪くないが外面がヒモみたいじゃないか?」
アレクが眉尻を下げる。
留学期間の一年まで時間がないアレクが少し焦っているのは知っていても、アレクの手を取る気のないアデルハイドからすれば何も言えず、既に頭の中は明日はどんな肴を出すかと考えを巡らせていた。
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