第8話:未来への選択

神崎との対話を終えた翌朝、僕は再び新しい決意を胸に抱いていた。過去に戻ることなく、今この瞬間で美咲との未来を守り抜く。それが僕に与えられた最後の選択肢であり、もう二度と過去を弄ばないと誓った自分自身のためでもあった。


だが、その決意の裏側には、常に不安がつきまとっていた。美咲を追った謎の人物の存在。彼女が危険にさらされている以上、僕は早急に行動を起こす必要があった。これまでのように、ただ見守ることしかできない自分に終止符を打たなければならない。


その日の夕方、僕は再び美咲に連絡を取り、彼女と会う約束をした。彼女が無事であることを確認したかったし、何よりも今後のことを一緒に話し合うために、直接会う必要があった。


待ち合わせ場所は、静かな住宅街の公園だった。公園のベンチに腰掛け、僕は少し早めに到着していた。美咲の姿が見えないかと何度も周りを見渡していたが、何か不安を拭いきれない。彼女は本当に無事なのか、またあの謎の人物が近くにいるのではないかと、頭の中に悪い予感が広がっていった。


数分後、美咲が現れた。彼女の姿を見た瞬間、僕の胸の奥にあった重い不安が少しだけ解けた。美咲は落ち着いた表情をしていたが、その背後にはまだ昨日の恐怖が残っているように見えた。


「お待たせ、優斗さん。」


美咲は少しだけ笑顔を浮かべて、僕の隣に座った。彼女の笑顔に安堵を感じながらも、僕の心はまだ完全に晴れ渡ってはいなかった。美咲を守るためには、もっと強い意志と行動が必要だと感じていた。


「無事でよかった。あの……昨日のことなんだけど、まだ気になることがあるんだ。」


僕は彼女に率直に問いかけた。彼女の顔から笑顔が少し消え、真剣な表情になった。


「私も……あの時のことをまだ整理できていなくて。あの人が何者なのか、どうして私を追いかけてきたのか分からない。でも……優斗さん、もう怖くないよ。あなたがいてくれるなら、私はきっと大丈夫だと思う。」


美咲のその言葉に、僕の胸は再び強く打たれた。彼女は僕を信じてくれている。だからこそ、僕は彼女を守る責任がある。彼女がこれ以上危険に晒されないように、僕自身が動かなければならない。


「ありがとう、美咲。でも、何かもっと大きな問題が潜んでいる気がする。君を追いかけた人物が誰であれ、僕たちはそれを放っておくことはできない。」


僕は彼女を見つめながら、これからのことを真剣に話し始めた。


「過去を変えることはもうしないと決めた。でも、その代わりに、僕たちの未来を守るために行動を起こそうと思う。まずは、君に何があったのかを詳しく調べて、それに対処するための準備をしよう。」


美咲は少し驚いた表情を浮かべながらも、すぐに真剣な眼差しで僕を見返してきた。


「具体的には、どうするつもりなの?」


彼女は僕の計画を知りたがっている。僕も自分の中で考えを整理しながら、彼女に対してできるだけ正確に説明することにした。


「まずは、君の周りで何か変わったことがなかったか、最近の出来事を整理してほしい。何か気になることや、誰かから連絡を受けたとか、ちょっとした違和感でもいいから教えてくれないか?僕も同じように、自分の周りで何か異変がなかったか調べてみるよ。」


美咲は少し考え込みながら、ゆっくりと頷いた。


「うん……最近、仕事でちょっとおかしなことがあったかも。プロジェクトの内容が急に変更になったり、いつもと違う連絡が入ってきたりして、不自然だなって思ったことがあるの。」


その言葉に、僕はすぐさま反応した。何かが起こっているのは間違いない。美咲が感じた違和感が、今の状況と無関係ではない可能性がある。


「分かった。それを調べてみよう。もしかしたら、君が追いかけられたのは、君が何か知らないうちに巻き込まれている可能性があるからかもしれない。」


美咲は少し驚いた表情を浮かべたが、すぐにその意味を理解した様子だった。彼女は自分が危険な状況にいることを実感し始めたのだろう。


「……分かったわ。もし何か思い出したら、すぐに伝えるね。」


彼女の真剣な眼差しに、僕も強く頷いた。これから、僕たちは本格的に動き出す。過去に頼らず、未来を守るために。


その日から、僕は美咲との関係だけでなく、彼女の仕事の周りで起きている異変についても調べ始めた。美咲のプロジェクトで不自然なことが起き始めたのは、ほんの数週間前かららしい。それが、僕たちが再会してからの出来事だと考えると、偶然ではないのかもしれないという気持ちが強くなった。


彼女の職場や関係者について詳しく調べるうちに、いくつかの奇妙な点が浮かび上がった。美咲が働くプロジェクトは、ある企業との共同事業であり、その企業は最近になって新たな役員を迎え入れていた。そして、その役員の名前を調べているうちに、僕はある名前に目が止まった。


「神崎」


その名前を見た瞬間、全身に冷たい汗が流れた。まさか、神崎がここでも僕たちの運命に関わっているのか?彼が美咲を追いかけた人物かはわからないが、少なくとも彼が美咲の周りで何かを企んでいるのは間違いなさそうだ。


僕はすぐに美咲にそのことを伝えた。


「美咲、君のプロジェクトに関わっている新しい役員……神崎って名前の人物がいるんだけど、覚えがあるか?」


美咲は驚いたような表情を浮かべ、少し考え込んでから答えた。


「確かに、最近その名前を聞いたかも。会ったことはないけど、プロジェクトに関与しているって噂は聞いたわ。」


彼女の答えを聞いた瞬間、僕は確信した。神崎が再び僕たちに関わっているのだ。彼が何を企んでいるのかは分からないが、彼が運命を操作しようとしていることは明らかだ。


「美咲、神崎は僕の知っている人物だ。彼は……過去を変える力を持っている。そして、彼がまた君に関わろうとしている可能性が高い。」


僕は彼女に真実を告げた。彼女は驚きの表情を浮かべ、少し混乱した様子だったが、すぐに真剣な顔つきに戻った。


「じゃあ、どうすればいいの?私たちは彼から逃げられるの?」


僕は深呼吸をして、彼女に向かって答えた。


「逃げる必要はない。僕たちは運命に逆らわず、今この瞬間で未来を変える。彼が何をしようとしているかはわからないけど、僕たちの絆を壊すことはできない。美咲、君が僕を信じてくれるなら、必ず守り抜いてみせるよ。」


美咲は少しだけ涙ぐみながら、僕の手を握り返した。


「信じるよ、優斗さん。あなたがいれば、きっと大丈夫だから。」


その言葉に、僕は強い決意を抱いた。もう過去を変える力に頼ることなく、僕は今この瞬間で美咲を守り、運命に立ち向かうのだ。彼女との絆を壊させないために、僕はすべての力を尽くす。


その夜、僕たちは再び運命に挑む準備を整えた。神崎の思惑を阻止するために、僕たちが何をすべきかを冷静に考え、行動を起こす時が来たのだ。


僕はもう、迷わない。


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