第26話 お歯黒さま⑪
当時の沢渡は、臨時の調査員アルバイトだった。
「白無垢なんてどこかから逃げ出した花嫁さんかな? 」
(隆起したばかりの頃と時系列が合う。)
うっかり寝過ごして、粗のある数え方で帰船に乗り遅れたと言う。気骨のある青年で、話上手。惹かれるまでそう時間はかからなかった。彼は元々計量係の下っ端だったらしい。能力が発現していたが、禄なチェックもされずに一般人としてここに来たようだ。少しづつ能力を見せてくれた。一本、また一本と木が生えていく。魔法のような力に、物珍しさからか感動していた。それが生気の伴わないものであろうと関係なかった。森が出来るまでそう掛からなかった。それをいくつか伐採し、小舟を作り、時折遠くに見える島に持っていき、食料や必需品を手に入れてきた。私はいいが、彼は食べなければ生きていけないからだ。行く宛てのない私に家まで作ってくれた。暫く二人の不思議な共同生活は続いた。そんなある日、彼は言った。「内縁になるけど結婚してくれないか」と。私は神に捧げられたが覚悟なんてなかった。だから彼と一緒になりたいと思ったのだ。私は無意識下でお歯黒にしたのだ。彼に操を立てようと。しかし、それがすべての始まりだったのだ。お歯黒にしたことで沢渡はビックリしたが、その風習は時代が変わっても形を変えて存在していたから理解を示してくれた。
幾年か過ぎると、観光客が訪れるようになった。「彼らが居着いてくれたら村に出来るのにな」
きっかけはそんな些細な沢渡の切望からだった。無意識下とは言え力を使っていたからか、私は次第に引き篭るようになっていた。沢渡が私の顔を見なくなったからだ。きっと化け物じみた顔になっていたのだろうと思う。それからというもの、沢渡と窓越しに話すようになった。私を見て倒れた観光客を地下室に軟禁し、半月ほど経つと彼らは「ここに住みたい」と言い出した。それが私の能力だとまだ知らなかった。
ある日私は気がついた。神などいない訳ではなかったのだと。神は依代をさがしていた。『お歯黒』にすることで条件が解除される。今までの贄は依代に選ばれなかったのだ。気がつけた理由に、沢渡の衣服が私のいた村のソレではなかった、違っていた。早くに気がつけていれば何かわったかもしれない。今更ながら後の祭。……その繰り返しにより、今に至るのだ。
異変により、場所が転移しただけで『お歯黒さま』は昔から存在していたことを知った。可哀想だと泣きじゃくる梨翔は放って置かれた。
「……お辛い話をありがとうございます。では、それを解除することは可能でしょうか」
「旦那さまが……旦那さまがそう言うのなら」
ならば、沢渡を脅してでも『お歯黒さま』の能力を解除させるしかない。
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