第36話 さらなる頼みごと、ガレックの憂鬱
「…すいません…一気に頼んでしまって。それと、鉱石代とかどうすればいいのでしょうか?」
「ほんっっとに、この子は! 心配すんなって。お前が使ってるそのグローブ、大きな鉱石は使ってないだろ? 普通に売ってる鉱石一個あれば、全員分のグローブを作るには十分だよ。それに、粉末にする鉱石もそんなにたくさんはいらない。ただ、その一個がそれなりに高いってだけだ…」
ガレックは肩をすくめて笑いながら続けた。
「でも、お前からは代金は取らないよ。だってな、お前が考えついて作ったグローブのおかげで、俺たちのパーティの戦力は一気に上がる。そうなりゃ、もっと強い魔物も倒せるし、良い報酬も手に入る。その分で鉱石代なんてすぐ取り返せるさ。だから、気にすんな」
「…ガレックさん、本当にありがとうございます。これで、ほかのみんなが何かあっても、生存率が上がりそうです…」
俺は、ガレックさんに心から感謝の気持ちを伝えた。
その姿を見たガレックさんは、少し気恥ずかしそうに微笑んだ。
「…なぁ、お前がよければ…いや、なんでもない」
俺は、その言葉に首をかしげた。
ガレックは内心で思っていた。
こいつを俺が引き取ろうかって言っても、きっと聞かないだろうな。
他にバレたら自分が危険にさらされるかもしれないものを仲間にも分け与えるなんて、簡単にできることじゃない…
そんな仲間がいたんじゃ、レイはきっと断る。
それが、分かっているから聞くのを辞めた。
…本当に、いい奴だな。
オレも少しでもレイの力になりたいもんだ…
「…あの、それで…もう一つ相談があるんですが、いいですか?」
「………」
俺の言葉を聞いたガレックさんは、なんて言うか、呆然とした顔で「…また何を考えてきたんだ?」と言いたげな表情をしていた。
「…おまえ、あれ以外にもまだ何か考えついたのか?」
「あ…え…そ、そうです…むしろ、今からが本番というか…なんというか…」
ガレックさんはさらに複雑な表情を見せて、身構えた。
「すぅぅ…はぁぁ…よし、聞こうか!」
「ええっとですね…妖精の涙を、輝魔結晶と魔素結晶に挟む形で短剣の柄尻に仕込みたいんですが、その短剣の分解方法が分からなくて…ちょっとお聞きしたいんです」
ガレックさんは俺が言い終えると、額に指を当てて目をつむり、怪訝な表情を見せた。
「これはまた…なんというか…それを付けると、短剣はどうなるんだ?」
「えっと…強化できます」
ガレックさんは短くため息をつき、静かに話し出した。
「ほんと、お前には驚かされるな…普通はな、魔石や結晶を混ぜて入れ込むなんて、危険すぎて試す奴なんてほとんどいないんだがな…」
「そうなんですかっ?」
俺は意外に感じて驚いた。もっと強くするために色々試す人がいてもおかしくないと思っていたんだけど…
「昔はそういったことを試す奴もいたらしいんだ。でもな…魔石同士を隣り合わせに組み込むと、いきなり激しく燃え出したり、爆発したり、溶けたり、空間がねじ曲がったり…事故が相次いでな。危険すぎるし、なにより高価な魔石を消失するリスクが大きい。だから、そんなことをやる奴はどんどんいなくなったんだよ」
なにそれ…怖い…
そりゃ、そんなことがあったら試す人はいなくなるかもな…
ただでさえ高い魔石を失うなんて…嫌だよな…
それに、普通は大きくて綺麗な魔石一個でも十分強化できる。
リスクを取ってまでやろうなんて思う人はいないんだろう。
「…あの、それでどうでしょうか?」
オレの提案にガレックさんは難しい表情を浮かべた。
「…レイ、たぶん分解は難しいと思う」
「え…」
「基本的に、武器は分解するようには作られてない。だから、分解して入れ込むよりは、初めからオーダーメイドで作ってもらうほうがいい。分解しても組み直すにはそれ相応の工具と技術が必要だ」
その言葉を聞いて、オレは力なく肩を落とした。
現代だと、ネジやボルトなんかで固定されていて、分解が簡単だと思ってたけど…
この世界が中世くらいだということを忘れてた…。
オレがうなだれていると、ガレックさんが続けて言った。
「…仕方ない、レイ。それも貸せ。このついでに制作を頼んでやる」
「そ、そんな悪いです…これ以上迷惑かけるなんて、できませんよ」
「ほんっぅんとに、この子はぁぁぁ!! いいから、オレに任せておけってのっ!」
「は、はいぃぃっ!!」
ガレックさんの勢いに驚き、オレは思わず返事をした。
「それでいいんだ。子供は子供らしく、大人を食いもんにして生きりゃいいんだよ…まったく…」
「またガレックさん、世話を焼いてるのねぇ」
少し離れて聞いていたリリスさんが、ガレックさんの大声を聞いて皮肉めいた言葉で割り込んできた。
「この人、こんなこと言ってるけど、昔はレイ君みたいに「あの…どうすればいいの?」とか言ってたのよ、ふふ」
「う、うるさいよ…リリス…」
「いつも、人の顔色伺っていて、頼りなかったのよ。それに、この人も孤児でね…」
「リリス! そこまでにしろ!」
ガレックさんは聞かれたくないのか、少し怒りを露わにして言い放った。
「はいはい、ここまでにしておくわ、ガレック」
「まったく…レイ、だから任せておけ」
「はい、お願いします」
そして、すべてをガレックさんに任せて、オレたちはまたアント退治の準備に取り掛かるのだった。
ガレックさんの過去か…
リリスさんの一言で、気になってしまったけど、これ以上踏み込むのはよくないかもしれない。
「今は、オレのやるべきことに集中しよう…」
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