第34話 想定外の一品

 冒険者ギルドの広場では、『クエスト探求・コレクティ集団ブ』に集まった冒険者たちが、最近発見された『デヴォアラーアント貪るアリ』の巣の殲滅に向けて準備を進めていた。


 しかし、今回は以前のように冒険者たちが溢れることはなく、実力の乏しいパーティは、自分たちの命の保証がないと感じ、金とリスクを天秤にかけて辞退するケースが目立った。


 そのため、手を挙げたのは実力のあるパーティだけだった。

 しかし、その中にも問題を抱えた者たちが多く、いつもとは違う緊張感が広場に漂っていた。

 

 ガレックと共に、レイは周囲のパーティを観察していた。


「見てみろ、あれが『ダスクファング薄暮の牙』だ。実力はあるが、癖が強くてガラが悪い連中だから、気をつけろよ。レイ」


 ガレックが指差した先には、威圧感を漂わせるリーダー、アベルがいた。

 彼以外は常に挑発的な笑みを浮かべ、周囲の冒険者たちに不快感を与え、「近づいてこい」と挑発しているかのようだった。


「アベルは、問題はないんだが、それ以外の連中は力を誇示することに執着している。それで、常にトラブルが起きる可能性があるんだ」


 以前、彼らが依頼を受けた際には、無用な争いを引き起こし、他のパーティとの信頼関係を壊す結果になったという。


 周囲のパーティたちはその様子を警戒し、近づくことを避けていた。

 そんな中、ガレックはレイの方に視線を戻し、「今回は慎重に行動した方がいい」と言った。

 彼の言葉には、ダスクファングの存在がもたらすリスクへの深い理解が表れていた。


「そして、あのパーティは『ゴールドセイバーズ黄金の剣士団』だ。名声は高いが、劣勢になるとすぐに撤退するのが癖だ。彼らのリーダー、セリオンは頭が切れるが、正直に言うとちょっと信用できない」


 とガレックが続ける。

 彼の表情には困惑の色が浮かんでいた。


 それでも、広場には優れたパーティも多く、ガレックはそのことをレイに教えた。


「特に『イーグル・クロー鷲の爪』は優秀だ。隊長のアイラは任務を迅速にこなし、統率力も抜群だ。オレと彼女の関係は少し特殊だが、それでも信頼関係は強い。」


 そう、ガレックは語った。


 ガレックは続けて、レイに頼まれていたマントを渡してきた。

 しかし、彼の表情には複雑な思いが宿っていた。

 まるで、自分たちが欲しくてたまらないかのようだった。


「レイ、これ、染色屋の話なんだが――」


 ガレックは出来上がったマントを手に取りながら話し始めた。


「染色屋も最初は普通に粉末を練り込もうとしたが、うまくいかず、何種類かの定着材を試したらしい。最終的にアントの粘液が一番安定したんだ。最初は粉末が燃えたり、爆発しかけたりもしたらしいが、商業ギルドの知り合いの錬成工房の協力でようやく完成したんだ」


 ガレックはマントを広げて見せながら続けた。


「その出来上がりがすごいもんだったらしくてな。染色屋も、まさかこんなものが作れるとは思ってなかったって驚いてたよ。これ、ただのマントとは思えない。実際、相当な値が付いてもおかしくないほどの代物だって言われたそうだ」


「え…?」


 オレは、そこまでの代物になるとは思ってもみなかった。


「このマントはただの防具じゃない。輝魔結晶と魔素結晶が練り込んであって、特殊効果を持ってるんだ。魔素を吸収して、相手の目をくらませたり、場合によっては魔法を反射できる」


 ガレックは肩をすくめて笑った。


 この世界ではフォトン結晶は輝魔結晶と呼ばれ、エネルギー結晶は魔素結晶と呼ばれているんだな…

 他も結晶や鉱石なんかも、オレの能力とは別の呼ばれ方をしてるかもしれないな…


「それだけじゃない。魔素結晶の力で、体力回復を助けてくれる効果もあるし、魔法耐性も高い。魔法攻撃を受けても、結晶がそのダメージを軽減してくれるんだ」


 レイはマントをじっくりと見つめ、触れてみた。

 その触感は思ったよりも軽く、しっかりとした作りだった。


 …まずい、これはまずいって。

 性能がここまで凄いとは思ってもみなかった。

 軽い防具のつもりだったのに、どんどん特殊効果が増えていく。


 これを人に見られたら、オレがただの浮浪児じゃないと疑われるかもしれない


 …いや、誰かに狙われたらどうしよう。


「…あの、他にもまだ何かついてたりして、はは」


 と冗談めかして聞いてみたが、内心は冷や汗が止まらなかった。


「よくわかってるな。実はこのマント、物理防御もあるんだ。輝魔結晶が入ってるおかげで、軽量ながらも耐久力が高く、剣や矢なんかの物理攻撃もある程度防げる。もちろん、普通の防具みたいに完全には防ぎきれないが、これを着てるだけで相当な防護力を発揮するだろう」


「………」


 どうしよう…これ…高性能すぎた…

 誰かに気づかれたりすると、ほんとにまずい…

 けど、オレみたいな浮浪児がこんなものを持ってるなんて思われないよな…きっと…はは。


 オレは、そう願いつつマントを装備した。

 すると、ガレックが何かを言いたそうにうずうずしている様子が伺えた。


「あの…どうかしたんですか?」


「あ…なんてか…えっとな…オレたちも作ってもいいかな…それ?」


「え…?」


 オレは予想外のガレックさんの言葉に、驚いたのだった。

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