第28話 キャッチ&リカバリー

 ガレックたちのパーティは、数で押し寄せる『デヴォアラーアント貪るアリ』の群れに対して冷静に連携を取って戦っていた。アントたちは強力な顎で噛み付き、数で圧倒しようとしてくるが、彼らは素早くその動きを封じていく。


 ガレックが前線に立ちながら、鋭い声を上げた。


「ケイン、左の足だ! こいつの動きを止める!」


 ケインは即座に反応し、ガレックが斬りつけたアントの左足を目掛けて素早く駆け寄った。

 「了解!」と叫び、短剣を一閃。

 関節部分を的確に狙い、アントの足を切り落とす。

 アントはバランスを崩し、動きが鈍る。


 その隙にリリスが後方から叫ぶ。


「次、右の群れに氷の槍を飛ばす! 気を付けて!」


 ガレックはすばやく後方に下がり、リリスの魔法が発動する。

 氷の槍が空を切り裂き、正確にアントの頭部に突き刺さった。

 硬い外骨格を貫いた槍は、アントを痙攣させ、そのまま地面に崩れ落ちる。


「よし、ケイン、止めを刺して!」


 リリスが冷静に指示を出す。

 ケインはすぐに駆け寄り、動きを止めたアントの頭部に短剣を突き立てた。


 その間、ガレックは次のアントに向かって立ち上がり、再び前線を維持する。


「ガレック、傷を癒すわ! 動かないで!」


 サリナが後方から呼びかけ、彼の体を優しい光が包む。

 温かい魔力が彼の傷を癒し、痛みが和らいだ。


「助かった、サリナ!」


 ガレックは軽く礼を言いながら再び戦いに集中する。


 リリスは次の動きを考えながら、仲間に声をかけた。


「もう少し足を狙って動きを止めないと…こっちの群れに広がってる! 氷の槍を再度準備する!」


 戦場は混乱しているが、彼らは互いに的確な指示を出し合い、状況を把握して連携していた。他のパーティもそれぞれのリーダーが指示を飛ばし、効率よくアントの群れを制圧している。素材を守るため、腹部を避け、足を狙う戦術が徹底されていた。


 そんな中、レイは道具の管理をしつつ、冷静に戦場を見守っていた。


「ガレックさん、武器の手入れは終わりました! 持ち堪えられるよ!」


「サンキュー、レイ! 助かる!」


 ガレックはレイに感謝の声をかけながら、次のアントを迎え撃つ準備を整える。


 声を掛け合いながらの戦闘は、各メンバーの結束を強め、アントたちに対して確実に優位性を築いていった。効率的な連携によって、戦場は彼らの冷静さと技術が支配する場所となり、アントの群れは次々に崩れ落ちていった。


―――


「はぁはぁ…大方片付いたな…」


 ガレックは息を切らしながら、言葉を吐き出した。


「そうね…わたしも燃料切れよ…」


 リリスが呟く。


「私も、もう回復魔法が数回しか残ってないわ…」


 ケインが静かに言った。


「…任務完了…か…?」


 オレは周りを見渡し、アリたちの死骸がそこらじゅうに転がっているのを確認した。もう、動いているアリはいないと思うが、念のため観察してみる。推定、数十匹のアリの死骸が散乱していた。


「………」


 中々にキモイ光景だ…


 途中、生き残っているアリがいたため、オレもナイフで止めを刺していた。それは、オレの荷物持ちとしての役目でもあった。それに、どれくらいの液体が必要かわからないし、何より生き残らなければ意味がない。


 そう思い、オレは必死に補助に回った。


「よし、もう大丈夫そうだな。後はギルドの連中に連絡して回収解体を頼もう」


「「「OK」」」


 三人ともガレックに同意する。


「よし、レイ。連絡を頼めるか? 門近くに待機してるはずだ。『シルバーストライク銀の一撃』と言えば伝わるはずだ。それでも聞き返されたら、「サンチェス」さんを呼び出してみてくれ、そうすれば大丈夫だ。頼んで大丈夫か、レイ?」


 任されたオレは、ガレックさんを不安にさせないように力強く返事をする。


「大丈夫です! 任せてください!」


「お、頼もしいな。はは。じゃあ、頼んだぞ。オレたちは、ちょっと休憩してるわ」


「はいっ!」


 そう返事をした後、オレは駆け足でギルドの人が待機している門前へと走り出した。


 『クエスト探求・コレクティ集団ブ』の建物が近づくにつれて、賑やかな声や忙しそうに動く人々の姿が見えてきた。門をくぐると、すぐに一人の冒険者ギルドのメンバーらしき人が目に入る。彼は疲れた顔をしながらも、仲間たちを迎え入れる準備をしているようだった。


 オレは忙しそうに指示を飛ばしている人を見つけ、その人に声をかけることにした。


「あの、すいません」


 その人は一瞬こちらを振り返り、少し驚いた様子で言った。


「あ? 子供がなんのようだ? 忙しいんだから、あっちいってろ」


 たしかに、こう忙しくしてるんだから、子供のオレが声をかけても邪魔なだけだろう…だけど、それではいけない。


 オレは気を取り直して続ける。


「私たち、デヴォアラーアントの回収を頼みたいんです。パーティ名は『シルバーストライク』です!」


 その言葉を聞いた瞬間、彼の表情が変わった。


「ああ、聞いてる…が、おまえさんのような子供が参加してるとはな…はぁ…」


 なんだか、呆れた様子でため息をついた。


「なにか、問題でもあるんですか?」


 オレの問いに少し驚いた様子で一瞥しながら、指示を飛ばしていた人が話し出す。


「いや、問題はない…が、ある。こんな危険な場所に子供がいるとは…世の中どうなってるんだって、情けなくなるよ…ま、いいわ。それより、すぐに手配するから、待っててくれ」


 オレは安堵の息を漏らし、心の中でほっとしたのだった。

 忙しい中、オレの声に耳を傾けてくれたことに感謝を感じながら、彼が手配を進めていくのを見守った。


「しかし…お前さん、子供なのにしっかりしてるんだな」


 その人は微笑みながら言った。

 まさか自分が褒められるとは思っていなかったので、驚きと照れくささが入り混じる。


「ありがとうございます!」


 オレは頬を赤く染めながら、素直に感謝の言葉を返す。


「仲間たちが頑張って戦った成果を、しっかり回収してもらいたいんです。」


「ああ、任せておけ。きっちり回収してやるから、安心して待っててくれ」


 彼は再び忙しい仕事に戻り、オレはその様子を見送りながら、少し胸を張ることができた。

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