第9話 国と鉱石

 昨日、エリナといろいろ話をし、この国の成り立ちについて整理してみた。


 リーダン王国は専制君主制の国であり、王の絶対的な権力が全てを支配している。

 現在の王、アルバート・リーダンは二十代目だ。

 だが、二十代も続いているとはいえ、安定した王朝というわけではない。

 

 歴史の中で幾度も権力闘争が繰り広げられ、暗殺や裏切り、さらには教団からの破門などで王は何度も入れ替わってきた。それでも、建国からすでに400年の時が経っている。


 ルバート王は冷酷で、民の苦しみに目を向けることはなく、自身の権力を維持するために暗躍している。


 国の山々には貴重な鉱石が眠っており、その神秘を崇める『深淵の使徒教団アポストリ・アビッシ』という宗教組織が存在する。

 教団の法王、セシル・ウィルソンは国の中で強い影響力を持ち、王と微妙な対立関係にある。


 セシル法王は教団を率いて、ダンジョンの魔物を討伐し民に恵みをもたらすと説いているが、実際のところ、彼もまた権力を追い求める一人だ。

 一方で、アルバート王は鉱石発掘業者に有利な政策を打ち出し、国庫を肥やすことに執心している。  

 そのため、一部の市民は利益を享受しているが、大多数の民は過酷な労働を強いられ、社会の格差は広がるばかりだ。


 オレたちのような者が平穏に暮らせる場所など、この国には存在しないのだ。


―――


 五月の柔らかな陽射しが降り注ぐ森の中、開けた駐屯地でオレは荷運びの作業を続けていた。

 湿気を帯びた空気が肌にまとわりつき、徐々に熱さがこたえてくる。

 重い防具や武器を運びながら、近くで業者たちが話している声が聞こえてきた。

 何気なく耳を傾けると、興味深い話が飛び込んできた。


「最近、エーテルクリスタルがまた手に入ったらしいぞ」


「エーテルクリスタル?」


 オレは作業の手を止め、話に耳をすませた。


「ああ、青く透明なクリスタルだよ。魔力を増幅させるって話で、冒険者たちに人気なんだ。手に入れば強力な魔法が使えるっていう、まるで夢のような代物さ」


「強い奴がますます強くなるってわけか…俺たち下っ端には縁のない話だな」


 オレは小さくため息をつき、肩をすくめた。


 そのとき、別の業者が話に割り込んできた。


「まぁ、エーテルクリスタルもすごいが、最近はフォースコア結晶の需要が高まってる。あの緑色の球体だ。武器に装着すれば、威力がぐんと上がるらしい」


「フォースコア結晶か…」


 オレは頷きながら考えた。


「近接戦闘に特化した武器には欠かせないって話だな。戦士たちにとっては重要なアイテムだろう」


 その時、エリナが駐屯地の外から駆け寄ってきた。


「レイ、何してるの?」


 彼女は少し息を切らしながら話しかけてきた。


「エリナ、ちょっと業者の話を聞いてたんだ。エーテルクリスタルとかフォースコア結晶の話でさ」


「それって、魔法をすごく強くできるやつだよね!」


 エリナは目を輝かせて近くに耳を寄せた。

 オレは小さく頷き、再び業者たちの話に耳をすませた。


「でもな、フォースコア結晶もいいけど、最近はダークストーン結晶が話題なんだ。黒い鉱石で、魔物を引き寄せる性質があるんだが、すっげぇ強力な武器や防具の材料になるらしい。ただし、採掘するためにダンジョンに潜るのは命懸けだがな」


「ダークストーン結晶?」


 エリナは不安げにオレを見上げた。


「私たちも、そんな危険な場所に行くことになるのかな?」


 オレは軽くため息をつき、肩をすくめた。


「どうだろうな。俺たちみたいな者が行っても、簡単に何か得られるわけじゃない。でも、いつかは自分たちの力で何かを掴むために、そういう場所に行かなきゃいけない日が来るかもしれないな」


 エリナは少し考え込んだ後、やがて微笑んだ。


「うん、その時はレイと一緒に頑張る!」


 彼女の無邪気な笑顔を見て、オレも作業に戻る気力を取り戻した。

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