第5話 『エリナ』

「ねぇ、あなたはどうしてここに来たの?」


 エリナは、周りの子供たちが休んでいる間、好奇心に満ちた瞳でレイに問いかけてきた。


 その子は丸顔であり、少しぽってりとした頬が特徴的で、目は大きく、丸みを帯びた形をしていた。

 瞳の色は明るい青紫がかっており、鼻は小さく、やや丸みを帯びている。

 全体的にバランスが良い可愛らしい顔だった。

 唇も小さくてふっくらしており、髪も瞳と同じように青紫色をしていた。

 そして、肩にかかるほどのショートヘア。

 前髪はやや不規則に揃えられており、額にかかるようにカットされている。

 それが、少し幼さを感じさせた。


 簡単に言えば、ZZのエル○ープルみたいだった。


「…オレ?  盗賊にさらわれて、売られたんだよ」


 レイは無気力に答えた。


「ふーん…それで、ずっとここで働かされてるんだ?」


 エリナは、まるでレイの話が日常のことのように聞いているが、その目は深い憂いを宿していた。


「そうだな。何もないから、ただここで蹴られながら雑用をしてるだけだ」


 レイは肩をすくめ、乾いた笑みを浮かべた。


「それにしても、どうして私たちみたいな子供がここにたくさんいるんだろう?」


 エリナは辺りを見渡し、他の子供たちを見つめながら問いかけた。


「…さぁな。ただ、オレたちは道具みたいなもんさ。使えなきゃ捨てられる。それだけのことだ」


 レイの言葉には、諦めと冷めた現実がにじんでいた。


「…それ、悲しいね」


 エリナは静かに呟いた。


 レイは彼女を一瞬見つめた。

 エリナは他の子供たちとは違い、まだ希望を完全に失っていないように見えた。


「君はどうしてここに?」


 レイは逆に尋ねた。


「うちね、兄ちゃんたちがいっぱいいるの。お兄ちゃんが3人で、お姉ちゃんも3人。だから、ごはんが足りなくて…それで私、ここに連れてこられちゃったの」


 エリナは苦笑いを浮かべたが、その背後には深い悲しみが隠れていた。


「でも、女の子がここにいるのは珍しいよな? ほとんど男ばかりで、あまり見かけないけど」


 レイは眉をひそめ、エリナに疑問を投げかけた。


「私、まだ10歳になってないんだ。だから、ここにいられるんだって。でも、10歳になったら…なんか、違うところに行かされちゃうんだって。みんなそう言ってたよ…」


 エリナは、不安げな目でレイを見つめながらそう言った。

 彼女の声には、子供らしい素朴な恐れが混じっていた。

 未来に対する不安を隠しきれずに、幼いながらもその現実を理解し始めている様子が伝わってくる。


 レイはエリナの話を聞きながら、胸の奥が重くなるのを感じた。

 彼女の未来にも、明るいものは見えないのだ。


「そうか…」


 短く答えたレイは、しばらく黙り込んだ。エリナもそれ以上何も言わず、ただ隣に座り込んだ。


 しばらくの沈黙が続いた後、エリナはそっと声をかけた。


「ねぇ、レイはいつもあんなに重い物を運んでるけど…大丈夫なの?」


 エリナは、無邪気な好奇心と心配が入り混じった表情で尋ねた。


 レイはエリナを見つめ、ふっと肩をすくめた。


「大丈夫なわけないさ。でも、それがオレの仕事だ。文句を言えば蹴られるだけだし」


 エリナは驚いたように目を大きく見開いた。


「えっ、蹴られちゃうの?いつも?」


レイは黙って頷き、視線を足元に落とした。


「私、食事のお手伝いとかトイレのお掃除だけなのに、それだけでもすっごく疲れちゃうんだよ…レイはほんとにすごいね」


 エリナの声は、まるで兄を尊敬する妹のような純粋な気持ちがこもっていた。


 その言葉に、レイは一瞬驚き、そして乾いた笑みを浮かべた。


「すごくなんてないよ。ただ、やらないと生きていけないだけだ」


 エリナはレイの言葉を聞き、少し考え込むように下を向いた後、再びぽつりと尋ねた。


「…ねぇ、どうして私たち、こんなとこにいるんだろう?私、何もできないのに…」


 その問いに、レイは一瞬答えに詰まった。

 彼自身も、なぜここにいるのか、自分が何をすべきなのかがわからなかった。


「…わからないよ。でも、きっと何か理由があるんだと思う。少なくとも、オレたちはまだ生きてる。それだけは確かだ」


 エリナはレイの言葉をじっと聞き、やがて小さく微笑んだ。


「うん、そうだね」


 彼女は膝を抱え込んで、小さな体を丸めた。

 その姿は、まるで安心を求めるような小さな子供そのものだった。

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