第36話 脳死

精密機器産業のMICOMから次期基幹システム構想策定フェーズのRFP(提案依頼書)が来ることが決まった。来てもないのになぜわかるかといえば、QxDとProphet社はアライアンスを組んでいて、常に顧客情報を交換している。つまり、MICOMがProphetの導入に動いており、Prophetを導入するコンサルを探していることを横流ししている。

ProphetのA6 OPUS導入ベンダーといえば、4大監査法人のコンサル部門か、SIerということになるが、MICOMの社長は大のコンサル好きなのでProphet社はQxDに情報を流してきたということだろう。当然ながらProphet社は自分のERPが売れればどこが導入しようとかまわないので、他の3社にも同様情報を流しているだろう。

正人は今までに何十と提案書を作ってきたが世代交代もあり、今回はシニアマネージャの大橋に任せることにした。とは言え、まだSMなりたての大橋なのでレビューはパートナーたちと一緒にすることになった。


売り上げ規模8,000億円、北米、欧州での売り上げが60%であり、この業界では世界第3位。まあまあの規模ではある。海外拠点の運営はローカルに任せており、日本側は予算と売り上げについては見るが基本は現地に任せている。現地スタッフもマネジメント以上はローカルであり、日本人は会計廻りにお目付け役としているだけのなかなかグローカル(グローバル展開されているが、ローカルマネジメントで自立している)な企業である。

と言えば聞こえはよいが、つまり、海外拠点のオペレーションについては基本口出しできない野放し状態になっている。

日本本社のマネジメントはこの状況について危機感を持っており、リアルタイムに近い形で各拠点の販売状況、製造状況、在庫状況などをつかみたいというニーズがある。つまり、”日本本社に各拠点の動向が都度、見えるようにせよ”というのが今回のシステム導入の裏側の目的である。


こうなると、もう、日本のSIerの出番はない。世界各地に拠点と人員を持っているグローバルファームの出番である。


まだRFPは出ていないが提案書を書けるだけの情報はProphetからすでにもらっているので、提案書の骨子づくりから始めることになる。


早速、大橋から会議のインビテーションが送られてきた。正人はアシスタントに会議調整を頼まれるのが好きではない(時間の無駄)ので、直接スケジュールに入れるようにスタッフに伝えている。 ”最近のSMは報・連・相ができないっていうが、大橋さんはなかなかできるのかな?早速相談とはね。”とインビテーションを見ながらつぶやいた。


正人は、一人で相談にのってもよかったが、今回チーミングをするEA(Enterprise Application) teamのパートナーの杉下と一緒に会議してもよいか大橋に聞いてみたら大橋も快諾だった。


会議の冒頭、リモートではあったが大橋が第一声 ”今回の提案ですが、Prophet前提と聞いています。提案書はまず、何から書けばよいですか?”


正人と杉下は”・・・・・・・・・・・・”沈黙が10秒つづき、正人はしびれを切らしたように話始めた。”えっと、大橋さんはどう考えるの?”

今度は大橋の沈黙が10秒 " 提案書、作成するの手伝ったことはあるんですが、ゼロから書くのは初めてなので、よくわからないんです。 "


ついに提案書書いたことのないSMがついに出たか。最近はタイトルがインフレしていてスキルとタイトルがマッチしていない。提案書書かずにSMになれるとは。デリバリだけでSMになれるのか。


" でも、提案書づくりは手伝ったことがあるんだったら目次とか何を書けばよいかわかるよね。まず、過去に手伝った提案書を読み返して構成を考えてみたらどうかな。 "

ひと昔前だったら 'あほか、人を集める前に過去の読み返してから人を呼べ!' と怒鳴っているところだった。ふー、疲れる。


”わかりました。過去の提案書をもとにしてみます。 "


ものの5分で会議が終了した。


会議後、大橋が抜けたのを見計らって杉下と話してみることにした。

" 今のSMってあんなんですか?ちょっと驚きましたが。 "と正人


杉下は落ち着いた風で、 ” 大橋君は彼がマネージャだったときに一度、JOBで一緒になったけど、いいとこシニコンだと思ってた。だからSMになったって聞いた時、あれが化けたんかと正直驚いていた。でも今日の様子ではまったく化けてないね。こりゃ大変ですね。 "と、なんとも他人事の感想だった。


2日後、また、大橋から会議のインビテーションが送られてきた。さすがに2日も掛けたから少しはまともになっているかな。会議の前に大橋さんのPM(Performance Manager)の小林さんに少し話を聞いてみるか。


” 小林さん、ご無沙汰してます。鈴木です。今、MICOMのPDをやってるんですが、EMを大橋さんにお願いしようと思ってます。何か、注意事項とかありますか。 "


小林さんとは、大阪のJOBでも東京に来てからのJOBでも別チームではあったが親交があった。全体ミーティング後に一緒に呑みに行くぐらいであったが。


" ああ、大橋君か。真面目だけど事業会社出身の経営企画屋だからコンサルのことは多分わからないと思うよ。鈴木さんだからいうけど、育ててもらえるといいな。 "


" 今、提案書作成をお願いしてるんですが、書けるんですか。 "


" まあ、無理だと思うので、書ける人をつけてもらえると彼の勉強になるかな。 "


SMに対して育てるとか、勉強とか時代も変わったものだ。

大橋は誰がSMにしたんだろう。何か間違えてMからSMにしてしまったんだろう。新卒のアナリストからしたら単なるあほな上司に過ぎない。優秀な大学を出て、こんなSMの下で働くのか。かわいそうに。


次の提案書レビューミーティングに大橋はいきなりドラフトを出してきた。

ほー。ストーリーだては一見できているように見えるし、きれいな絵も入っている。開始30秒で、前回との違いに少々戸惑った。


” じゃ、ストリーの説明とどんな意思入れをしたか教えてください。 "


" ストーリーですか。よくわからないです。過去の基幹システム構想策定の提案書をチェッティ、いや、Check GGT(インターナルAI)のに食わせて、クライアント名をプロンプトに加えたので、こういう構成になりました。 "


” 出だしの章にクライアントの現状として、旋盤やボール盤といった単機能精密工作機のシェアがグローバル2位と書いてあるけど、今、3位じゃない?”


”そうなんですか。チェッティがそう書いているので、そうかと。”


”えっ、ファクトチェックしてないの。AIなんてどこから引用しているか確認しないと間違ってたり、古い情報をつかまされるよ。”


' あほか。もういい、帰れ! 'と言いたいところだったが、隠しもせずAIに頼んだというところはそれ以上に呆れてしまった。こいつにはプライドすらない。


正人はつづけて

” そうですか、わかりました。自分で説明できない提案書はさすがに出せないですよね。"というのが精いっぱいだった。あほらし。


提案書作成だけでなくEMも他を探さなくては。


第36話 了



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