n回目のはじめまして

皐月

きらきら



 「はじめまして。これからよろしくね」


 瞬間、星屑が舞った。


 そう、微笑みながら近づいてきたのは、これから受験までの一年間お世話になる塾の先生だ。ただ近くに来ただけだというのに、動きがまるで少女漫画の演出かのようなスローモーションに見える。ここは、「こちらこそよろしくお願いします」と笑顔で答えるのが良いのだろう。だが、私の脳内はそれどころではなかった。

 大袈裟に言ってしまえば、私の直感が「この人が運命の人だ!」と訴えかけていた。そして、その訴えを無視できずにいたのは、出会った瞬間に感じたソレ(運命のようなもの)を信じてみたくなっていたからだった。


 私はふと我にかえり先生の方を見た。先生は少し不安気な表情を浮かべたと思ったら、今度は星が舞い散りそうな笑顔で「青木です。これからよろしくね」と微笑みかけてきた。


 「こちらこそよろしくお願いします」

 今できる最大限の笑顔でそう答えた。


 これは、先生との一回目のはじめまして。

 とてもとても大切な初めてのはじめまして。


 ✿


 「先生。ここの問題の途中式がどうなるのか分かりません」

 いつものように先生に質問をした。

 「なるほど。これはね…、こうすると解きやすいよ」

 先生はどんな問題でも、解き方を言う前に一拍おいてから一番解きやすい方法を教えてくれる。それに加えて、解説の途中で、私の顔を一度見て、「ここまではわかったかな?」と言いながら理解度を確認してくれる。とにかく、一つ一つ丁寧に教える人だ。

 もう少し先生と話したい…。先生と出会ってから一ヶ月。私は先生と『雑談』というものをできずにいた。私は根っからのコミュ障で「はい」、「ありがとうございます」、「こんにちは」のような必要最低限の言葉しか発してこなかった。勉強をするために塾に通っているのだから、わざわざ雑談なんてしなくていいと言う人もいるかもしれない。でも、私は先生との距離を近づけたかった。というのも、ある日の同級生の姿を見たからかもしれない。


 私がいつものように塾へ行くと、青木先生と私の同級生のハナが仲睦まじく話していた。ハナは派手で、どちらかと言うと私とは真逆のタイプだった。だから、そんなハナが青木先生と話しているのを見て少し妬いてしまった。私の方が先に先生と知り合ったのに…と。

 とはいえ、「先生!大学ではどんなことしてるんですか?」とか「高校時代は何してましたか?」とか聞けるわけもなく時間は過ぎていく。

 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

n回目のはじめまして 皐月 @hyang_rina

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ