自宅のダンジョン化は突然に…… ~錬金術師のミラクルダンジョンライフ~
先崎 咲
突然のダンジョン化
第1話 家がダンジョンになったっぽい
──家がダンジョンになった。何を言っているかわからないと思うが、私も分からない。なんか寝て起きたらダンジョンになってた。
……何で?
私、アリシア・ハルバートはいたって普通の錬金術師である。ごめん、嘘。飛び級するくらいには優秀だ。20代でだらだら過ごせるくらいの特許収入はあるし。この家も独り身だけどローン通ったし。
母譲りの銀髪碧眼。父譲りの美貌。正直、人生は割とチョロい方だと思っている。
もしかしてその発想を笑うために世界が試練を課したのか?
ダンジョンになったことに気づいたのはついさっき。研究室で寝落ちして、起きたから顔でも洗いに行こうと扉を開いた。そしたら、見覚えのない廊下が広がっていた。ところどころに微妙に見知ったランプとかカーペットがあるのが謎。
いろいろ調査をした結果、家がダンジョンになったことが分かった。
しかも微妙にランダム機構が備わっていて、さっき開いた扉から普段使っている研究室に戻れなくなった。
ついでに、トイレの位置もわからなくなった。
さらにお腹も空いてきた。
いまだかつて、安息の地であるはずの自宅にここまで裏切られた女がいただろうか。いや、いない。
そして、台所にも食料は無い。さっき扉を開けて台所に遭遇(マジであれは遭遇といった感じだった)した際、何もなかった。買い溜めしていた高めのチョコレートすらなかった。これはかなりショックだった。
このことから、私が目指すべき場所は外である。幸い、財布はその辺の謎のツボを割ったら見つかった。見つからなかったら文無しだった。これは幸運。いや、自宅がダンジョンになっている時点で
トコトコとダンジョン内の推定廊下を進む。この家は石造りなので普通に室内でも靴を履く。研究明けなので、ジャージに白衣である。
だいぶこの道も見慣れてきたな……。
「んぶっ!」
顔面に何かが張り付く感覚。おそるおそる手を顔に当てる。ゼリーのような粘性、これは──スライム?
核を探り当てて引っこ抜く。それだけで大半の粘性部分は地に落ちた。ハンカチで顔をふく。
そうだよねダンジョンだものモンスターくらいでるよねだってダンジョンだものハハハ。
「ふっざけんなー!!!」
我、家主ぞ??? 家の天井からモンスター降ってくるか普通。怖すぎだろ。
そうこう言っている間に次の扉が。とにかく開ける。
部屋の中は部屋のすべてを見通せないくらい暗い。かなり広そうな部屋だ。もちろん、見覚えはない。とりあえず電気を、と思い壁を探る。ズルズルギャリギャリといった音。うん?
正面を見た。壁が見える。薄暗いが見通せる。ズルズルギャリギャリといった音。はい。これは、あれですね。
「壁がせまってくるトラップ部屋かぁー!」
急いで扉の外に出る。普通に危なかった。家の中でペシャンコになるところだった。一応もう一度扉を開けてみたが、空間は無く石壁が扉にぴったりくっついていた。圧があって、ちょっと怖い。
あきらめて他の扉を探す。
テクテクトコトコ、テクテクトコトコ。コツコツガタガタ、コツコツガタガタ。うん、聞き覚えのない足音。振り返りたくない。ちょうど角があるから曲がるついでにチラ見しよう。
まがーる。ちらー見。はや歩きぃ。
目視した成果として、武装した骨がいた。錆びた剣とか持ってた。すなわちスケルトン。私、ここが事故物件とか聞いてないんですけど? 告知義務があることをご存じでない? 人骨はいずこから? 実は死体の上で暮らしていたとかイヤだよ私!
とりあえず、ヤツが曲がってくる前にダッシュで扉を探す。あった! 頼むぞ、開けゴマ!
高い石壁に鉄の門扉。庭には井戸と薬草園も兼ねた家庭菜園と大きめの倉庫。砂利道は街へつながっている。空はどんよりとした曇り空。振り返れば、小さなテーマパークの城のような30年ローンで買った街外れにある中古の石造りの自宅の外観。これは、もしかしなくても、もしかして。
「よっしゃ、脱出できたぁ!」
めっちゃ疲れた。家から出るだけなのになんでこんなに疲れるんだホント。
とりあえず、今日は。
「いいもの食べよ……」
むずかしいことはそのあとに考えることにする。
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