第二十六話 光系統魔法
十年ほど前のことだ。
シャルリアに魔法を教えたのはヘルだ。
どういう経緯でそうなったのかはシャルリア自身も覚えていないが、幼い頃の記憶なんてそんなものだろう。
『魔力の流れは感じられたでごぜーますぅ?』
『うーん。よくわからない……』
王都近くの森でのことだった。
そこで、シャルリアは誰にも──父親にも内緒で秘密の特訓をしていた。
その頃のシャルリアは秘密のという言葉の響きに特別感があってワクワクしていた気がする。
そんなある日。
こそこそと窓もない馬車が森を突っ切っていたような気がするある日のことだった。
『あ』
カッッッ!!!! と真っ白な光が溢れた。
森を覆うほどに強烈なその光はまさしく光系統魔法の顕現であった。
『うわっ、なになに今のなに!? 目がチカチカするっ』
『にひひ☆』
ひとまず帰ろっかぁ、と言って、ヘルはシャルリアをお姫様抱っこスタイルで運びながらその場を後にした。……『誰か』がこっちにきていた気もするが、近づく前にヘルに抱かれて王都まで戻ったので『誰か』の顔すら見えていないが。
『シャルちゃんが使えるようになったのは、ありとあらゆる魔法を具現化する前の魔力の状態に戻して消滅させる光系統魔法でごぜーますよぉ』
『???』
『例えば魔物の肉が食べられないのはこびりついた瘴気のせいよねぇ。だけど瘴気ってのは魔王の魔法なんだからシャルちゃんの光系統魔法で魔力に戻して無害化できるのでごぜーますぅ。つまり普通なら廃棄されるからやりようによっては原価ゼロで仕入れることも可能な魔物の肉を食用に使えるわけでぇ。そうなればシャルちゃんのお父ちゃんも助かるよねぇ』
『ほんとっ!?』
光系統魔法。
希少な『力』に目覚めた事実よりも、父親の助けになれることがその時のシャルリアは嬉しかった。そしてそれは今も変わらない。
『そうそう。光系統魔法って他の魔法よりも大量の魔力を消費するのでごぜーますよぉ。だからかぁ、これまで例外なく光系統魔法の使い手は保有魔力が多いのよねぇ。光系統魔法を使えるから保有魔力が多いのかぁ、保有魔力が多いから光系統魔法が使えるのかはわからないけどぉ』
そんな風に言って、ヘルはこう続けた。
『光系統魔法を使いこなせるようになったら面白い裏技を教えてあげるでごぜーますぅ。光系統魔法の使い手だからこそ最大限効果を発揮する裏技をねぇ』
ーーー☆ーーー
シャルリアの光系統魔法、その本領。
あらゆる魔法の無効化が可能な力。
「へっ」
つまり、関係ないのだ。
瘴気だろうが雷だろうが憑依だろうが、超常的な力であればそれは魔法だ。そして魔法であればシャルリアの光系統魔法は一律で魔力まで戻してその性質を消し飛ばす。
どっぶう!! と真っ白な光に追いやられるように第一王子の身体からヘドロのように禍々しい『何か』が噴き出した。
憑依。
つまり第一王子に乗り移っていた『何か』が弾き出されたのだ。
「へへっ、ふはっ、あーっはっはっはあ!! どんなものよっ。なんか調子に乗っていたけど、私の光系統魔法はどんな魔法だって無効化できるんだからね、こんにゃろーっ!!」
「え、えっ?」
驚きに目を見開くアンジェリカへと、シャルリアは屈託なく笑ってこう言った。
「これで万事解決だねっ」
そして。
そして。
そして。
どぶどぶどぶどぶう!!!! と。
第一王子から弾き出された『何か』が泡立ち、膨れ上がり、どんどん肥大化していったのだ。
それこそ今にも広大な建物を埋め尽くし、シャルリアたちを呑み込まんばかりにヘドロのような『何か』が迫り来る。
「ちょっ、何あれ!? なんか大変なことになってない!?」
「外に出ますわよ、シャルリアさんっ。このままではこの建物が崩れますわ!!」
「う、うんっ」
慌てて意識を失って倒れた第一王子を担いで建物の外に飛び出すシャルリアとアンジェリカ。
外に出た直後であった。
轟音と共に広大な建物の天井が吹き飛んだ。
魔法の実技に使うほどには広いし、天井までは数十メートルもあるはずなのだが、お構いなしである。
ゆらり、と。
巨大な『何か』が立ち上がった。
つまりは巨人。
ヘドロのように全身をぶくぶくと泡立たせた、禍々しい巨人の頭部らしき箇所が裂ける。歪な切れ目が口のように開閉して声を吐き出す。
「は、ははっははははは!! そうだよな、光系統魔法だもんなあ!! あらゆる魔法を無効化する、はっはっ、そのくらいの台無し具合はないとなあ!! あの魔王さえも殺した『白百合の勇者』の系譜、理不尽なまでの絶対的な力! これでこそ人間ってもんだ!! だからあの野郎に言われてどんな力を持った人間が生まれようともその本領を発揮させずに潰す『計画』で時間をかけてでも確実な勝利を狙っていたが、はっはっ、だからこそだよなあ!! 我慢なんてできるか!! さあ、台無しにしてやろう。世界の全てを暴力で満たして、倫理も定説も常識も安全圏もなくしてなあ!!」
「ごちゃごちゃとうるさいのよ」
握りしめる。
純白の光が輝くその拳を。
「これ以上好き勝手やるってんなら今すぐぶっ飛ばしてやるから!!」
「威勢がいいのは結構だが」
笑う。
憑依が破られようとも、『雷ノ巨人』にはまだ笑うだけの余裕がある。
「その力は確かに瘴気も憑依も雷も無効化できるほどに強力だ。なるほど、光系統魔法らしい自由度が高く凶悪な性能だが、逆に言えば『できること』はそれまでだ。現にその力を受けても第一王子の肉体も俺様も傷一つつかなかったしな」
「何を……」
「つまりその光は物理的な干渉力はゼロだ。となれば」
持ち上げる。
広大な建物の天井をぶち破るほどに巨大な体躯、推定四十メートルは軽く超えている巨体が己の拳を構える。
「何の魔法も使っていないこの拳を受け止める『力』が貴様にあるのか?」
「あ、やばっ」
直後。
人間一人軽々と圧殺できるほどに巨大な拳が振り下ろされた。
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