第3話 二度目の人生
二度目の人生でも、やっぱりデーヴィッド様のことが大好きだった。
一度目の人生では、マヤ様とスカーレット侯爵家の横槍が入って、私達は別れることになった。
——でも、それが無ければ?
きっと私達は魔法学園を無事に卒業したら、そのまま結婚していた。
私とデーヴィッド様との仲は、マヤ様の件が無ければとても良好だった。
さらに、デーヴィッド様のお父上のアンドリュー様からは、会うたびに「シャーロット嬢がデーヴィッドの嫁になってくれれば、安心だよ」と言われていた。
幼い頃から実の母のように接してくださっていたエブリン様にも、よく「シャーロットちゃんが早くお嫁に来てくれればいいのに」と言われていた。
アトリー伯爵家にもローラット伯爵家にも、特に大きな問題は無かった。
マヤ様についても、「珍しいテレパシー魔法で目立ってるのが羨ましい」ということで、狙われたわけだ。
それなら、テレパシー魔法について公言しなければ、彼女に興味を持たせなければいいだけのことだ。
つまり、これさえクリアできれば、私達には円満な結婚生活が待っているのだ——
初めてローラット伯爵家でデーヴィッド様と顔合わせをした日、やはり夕食の席で父様から例のことを訊かれた。
「デーヴィッド君と婚約してはどうか、という話になったんだが、シャーロットはどうかな?」
「是非っ! デーヴィッド様との婚約話を進めてください!!」
私は力強く即答した。淑女らしくはないけれど、力が入り過ぎて、思わず食事の席を立ちかける。
今度こそ、絶対に愛するデーヴィッド様と結婚してみせる!!! ——私は決意を新たに、闘志を燃やしていた。
「お、おお……随分気合が入っているな……」
「まぁ。シャーロットは情熱的ね」
「…………」
父様や母様は私の勢いに少し引かれていたけれど、婚約を喜んでくださった。
兄様は、普段おっとりしている私しか見たことがなかったためか、目を丸くして固まっていた。
正式な婚約を結んでから、やはり一年と経たないうちに、私とデーヴィッド様との間にテレパシー魔法が発現した。
「……それで、国の研究所でテレパシー魔法の観察をしたいみたいなの。協力してもらえるかしら?」
エブリン様に訊かれ、私は口を開いた。
「協力するのに、一つだけお願いがあります」
「あら? 何かしら?」
エブリン様は優しく相槌を打って、私の話の続きを促してくれた。
隣に座るデーヴィッド様が、少しびっくりしているのが分かった。
「テレパシー魔法については、公言しないで欲しいのです。珍しい魔法ということであれば、どこで誰に狙われるかも分かりませんから」
私のキッパリとした意見に、母様もエブリン様も目を瞠っていた。
「確かに、それもそうねぇ。気をつけないとね」
「魔法研究所にも相談して、内密にしていただきましょうか」
母様とエブリン様は、魔法研究所にも相談してくれると約束してくれた。
「シャーロットちゃんはしっかりしているのね」
エブリン様が微笑んで、私の頭を優しく撫でてくれた。
デーヴィッド様は、話し合いの間中ずっと静かだった。
そして、母様とエブリン様が席を外した時に、ポツリと呟いていた。
「シャーロットばかり、ずるい……」
デーヴィッド様は少年らしくぷくりと頬をふくらませて、少し剥れていた。
私は可愛いなぁ〜と思って、デーヴィッド様の頭をポンポンと撫でた。
すると、デーヴィッド様はさらに顔を真っ赤して、そっぽを向いてしまった。
そんな所も、私はデーヴィッド様がとても可愛く思えた。
テレパシー魔法の研究を始める前に、研究対象から研究内容、研究結果に至るまでテレパシー魔法に関すること全てについて秘密を守るという契約が、研究者とその関係者全員になされた。
もちろん、私もデーヴィッド様も口外しないように、両親からきつく言い含められた。
口外した場合は、国からペナルティも課されるという、重い契約だった。
厳しい契約ではあるけれど、私はすごくホッとしていた——これで、マヤ様やスカーレット侯爵家に知られることは無い。私とデーヴィッド様との結婚の、一番の障害が排除できたのだ!
テレパシー魔法の研究内容は、一度目の人生と変わりなかった。
ただ不思議なことに、テレパシー魔法の研究結果は、一度目の人生とは異なっていた。
一度目の人生程、正解率が良くなかったのだ。
私は少し不安になって研究者に尋ねてみた——どうやら過去の事例と比べても、私とデーヴィッド様の結果は「平均的」らしい。
私は「平均的」と言われて少しホッとしたけれど、「じゃあ一度目の人生ではなんであんなに正解率が良かったんだろう」と考え込むようになった。
私の不安はデーヴィッド様にも伝わっていたみたいで、「シャーロット、大丈夫?」と時々心配された。「シャーロットが嫌なら、テレパシー魔法の研究をやめようか」とも言ってくれた。
その度に私は、「大丈夫」「研究のお手伝いは嫌じゃないよ。正解できなかったのが悔しかっただけ」と笑って誤魔化した。
そして、テレパシー魔法の研究は、また私達が別れるまで続けられることになった。
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