試してみるしかない

 例の看病イベントの時と同様に、今回も桜子は学校を休んで俺の世話をすることにしたようだ。


こいつすぐ俺を盾にして学校休むじゃん。

なんなんだよもう。


桜子は俺の体を支えて起こした後、謝ってきた。

「……ごめんね。昨日やっぱり家までついて行って傷の手当てをしてあげるべきだった。あんなにボロボロで使い古した雑巾みたいに哀れで悲惨な状態だったのに……」


どうやら俺は昨日一人で家に帰って自分で傷の手当てをしたらしい。


作者が場面を変える時に進んだ時間の中で起こったことは作者が決めることができる。

その間のことに俺は干渉することができない。


こういう時、俺は神に無茶な戦いを仕掛けているということを実感するのだ。


それはさておき、こいつ全然毒舌が変わらねぇ。

作者が俺のセリフを聞いて実装したのか、桜子はしょんぼりした顔をしているが言動は変わってない。


もうちょっとだぞ作者。

あとは酷すぎる毒舌をどうにかしたらいい感じのヒロインになるぞ。


……ん?

ってかちょっと待て。

今、しれっとすごい発見をしなかったか?


もし桜子のしょんぼり顔が俺のセリフを受けた作者によるものだとしたら……。


俺は作者に自分の意見を伝える手段があるということになる。


……え、やば。

超大発見じゃん。


これは試してみるしかない。

もし本当に俺の意思を作者に伝えられるのなら、俺と作者が協力して最高のヒロインを作れるという激アツ展開になる。


まぁ一回落ち着いて状況を整理してみるか。

しょんぼり顔は俺の発言によって作者が取り入れた設定だという前提で話を進めよう。


まずは、なぜ今になって作者が俺の意見を聞き入れてくれたのかということだが、それは多分声に出して意見したからじゃないかと俺は睨んでいる。


今までの俺は心の中で作者に対して、そしてキャラ設定や世界観に対して悪態をついてきた。


しかし今回は桜子に対してという形ではあったが、はっきりと声に出して意見した。


まぁよく考えたら当たり前のことなのかもしれないが、作者は俺の心の中までは分からないのだろう。


俺がすべきだったのは、不満をきちんと言葉にすることだったんだ。

そうすれば作者にも伝わる。


もっと早く気づくべきだった……。

まぁいい。


そうと分かれば次は実践だ。

俺は傷薬とかをいじってる桜子に声を掛けた。


「なあ桜子」

「なによボロ雑巾」


「お前、毒舌じゃなくなったらもっと魅力が増すんじゃねぇか?」

「魅力が増す?」


「おう。なんていうか、もうちょっと落ち着いた話し方と言葉遣いだったら付き合ってほしいくらいだわー。毒舌であることだけが悔やまれる。毒舌じゃなかったらほんと最高なんだけどなぁ」


流石に誇張だが、このくらい言った方がいい気がする。


桜子は口元をムズムズさせ始めたが、もう少しだけ追撃する。


「元々魅力的ではあるんだけど、毒舌であることだけがネックなんだよなぁ」

「……ちょっとお手洗い借りるわね」


お、逃げた。

これは……どうだ。

上手くいったのだろうか。

お願いだから上手くいっててくれ。

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